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13-① 〈響騎視点〉
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その女みたいなヒョロっとした頼りない下級生は、オドオドしながら教室に入ってきて、教卓に座る俺を見るなりビビった様子で少し震えてた。
『あの、体育祭の実行委員会って、この教室で合ってますか』
鈴を転がしたような愛らしい声。驚いた、本物の女子だ。
伊蘇山工業高校は偏差値も低くて誰でも拾うヤンキーの溜まり場。悪い噂ばかりが先行して、地元じゃ問題児の寄せ集めって呼ばれてる。
そんな工業高校に女子生徒が少ないのはよくあることで、俺の学年にも十人程度しかいない。それもインテリアデザインコースの、集団行動してるヤツらだ。
『ちゃんと出席するヤツ初めて見たわ。顔を出したご褒美やるよ』
怯える姿が可笑しくてついそんな言葉が口から出て、その時はなにも持ってなかったから、眠気覚ましのミントタブレットのパッケージをそいつに向かって投げた。
その日は結局誰も来ないまま、二人で二、三十分どうでも良い話をして、委員会の初日の集まりは解散。
俺と同じ機械科自動車技術コースに通う一年生。それが華との出会い。
華は面倒な役を押し付けられて、委員会に顔を出すことになったらしい。
ミントタブレットも苦手なんだろうけど、俺の見た目の怖さに圧倒されたのか、青白い顔しながら気を遣って咀嚼してた。
その姿がどうにも可愛過ぎて、委員会で顔を合わせる度にミントタブレットを食べさせて、辛いのを我慢する顔を眺めるのが楽しみになっていった気がする。
俺の質問に一喜一憂して、ショートカットの黒髪がサラッと揺れる度、その髪に触れてみたいとか、もっと赤くなった顔が見てみたいって、いつから思うようになったんだろう。
当時の俺は、贔屓目に見ても良いところなんかない悪童で、仲間とバイクを乗り回しては、タチの悪い暴走族を潰して回るようなアホをやってた。
警察の世話になることだけはかろうじてなかったけど、決して褒められる人間ではなくて、品行方正とは程遠い問題児だった自覚もある。
華はうちの高校でも珍しく、女子なのに車いじりが好きで、大勢の男に囲まれて真面目に授業に取り組んでた。
同級生ならいざ知らず、二個も下の後輩となると、華に変な虫を寄せ付けないためには、俺が先に唾をつけるしかないと思った。
だから体育祭が終わって接点が薄れても、教室を様子を覗きにいったり、昼飯を一緒に食おうって呼び出したり、調子に乗って毎日のように華にちょっかいを出してたことを思い出す。
今思えば、良い噂も聞かない先輩相手に断りづらかっただけかもしれないし、そう考えると我ながら行動がガキ過ぎて苦笑するしかない。
だけどそんな日々の積み重ねのおかげか、俺と華は付き合うことになった。
でも現実はそう甘くない。
風邪を引いた華を見舞いに行った時、聞いてはいたが、金持ちそうな門構えの家にビビったし、華が話題に出したがらない家族のことも気になった。
そして、あの日たまたま家にいた、俺を執拗に嫌う華の親父に初めて出会した。
(あの狸め)
当たり前だけど、ゴミでも見るような目を向けられて、金輪際、華には関わるなと言われたが、俺が食い下がるとあの狸オヤジは無理難題を押し付けてきた。
誰もが聞いたことがあるような有名大学の名前を出すと、最低でもそのレベルの学識がない人間は人とは認めないと吐き捨てられた。
当然だけど当時の俺がそんな難関大に通えるはずもなく、せめて大学を出れば狸オヤジの認識も変わるだろうと、華には黙って夜間大学を受験した。
高校を卒業してからは整備士の仕事と大学の両立で、努力なくして前に進むことは出来なかったけど、毎日のように顔を出す華に癒しをもらって、なんとか頑張ることが出来たと思う。
『あの、体育祭の実行委員会って、この教室で合ってますか』
鈴を転がしたような愛らしい声。驚いた、本物の女子だ。
伊蘇山工業高校は偏差値も低くて誰でも拾うヤンキーの溜まり場。悪い噂ばかりが先行して、地元じゃ問題児の寄せ集めって呼ばれてる。
そんな工業高校に女子生徒が少ないのはよくあることで、俺の学年にも十人程度しかいない。それもインテリアデザインコースの、集団行動してるヤツらだ。
『ちゃんと出席するヤツ初めて見たわ。顔を出したご褒美やるよ』
怯える姿が可笑しくてついそんな言葉が口から出て、その時はなにも持ってなかったから、眠気覚ましのミントタブレットのパッケージをそいつに向かって投げた。
その日は結局誰も来ないまま、二人で二、三十分どうでも良い話をして、委員会の初日の集まりは解散。
俺と同じ機械科自動車技術コースに通う一年生。それが華との出会い。
華は面倒な役を押し付けられて、委員会に顔を出すことになったらしい。
ミントタブレットも苦手なんだろうけど、俺の見た目の怖さに圧倒されたのか、青白い顔しながら気を遣って咀嚼してた。
その姿がどうにも可愛過ぎて、委員会で顔を合わせる度にミントタブレットを食べさせて、辛いのを我慢する顔を眺めるのが楽しみになっていった気がする。
俺の質問に一喜一憂して、ショートカットの黒髪がサラッと揺れる度、その髪に触れてみたいとか、もっと赤くなった顔が見てみたいって、いつから思うようになったんだろう。
当時の俺は、贔屓目に見ても良いところなんかない悪童で、仲間とバイクを乗り回しては、タチの悪い暴走族を潰して回るようなアホをやってた。
警察の世話になることだけはかろうじてなかったけど、決して褒められる人間ではなくて、品行方正とは程遠い問題児だった自覚もある。
華はうちの高校でも珍しく、女子なのに車いじりが好きで、大勢の男に囲まれて真面目に授業に取り組んでた。
同級生ならいざ知らず、二個も下の後輩となると、華に変な虫を寄せ付けないためには、俺が先に唾をつけるしかないと思った。
だから体育祭が終わって接点が薄れても、教室を様子を覗きにいったり、昼飯を一緒に食おうって呼び出したり、調子に乗って毎日のように華にちょっかいを出してたことを思い出す。
今思えば、良い噂も聞かない先輩相手に断りづらかっただけかもしれないし、そう考えると我ながら行動がガキ過ぎて苦笑するしかない。
だけどそんな日々の積み重ねのおかげか、俺と華は付き合うことになった。
でも現実はそう甘くない。
風邪を引いた華を見舞いに行った時、聞いてはいたが、金持ちそうな門構えの家にビビったし、華が話題に出したがらない家族のことも気になった。
そして、あの日たまたま家にいた、俺を執拗に嫌う華の親父に初めて出会した。
(あの狸め)
当たり前だけど、ゴミでも見るような目を向けられて、金輪際、華には関わるなと言われたが、俺が食い下がるとあの狸オヤジは無理難題を押し付けてきた。
誰もが聞いたことがあるような有名大学の名前を出すと、最低でもそのレベルの学識がない人間は人とは認めないと吐き捨てられた。
当然だけど当時の俺がそんな難関大に通えるはずもなく、せめて大学を出れば狸オヤジの認識も変わるだろうと、華には黙って夜間大学を受験した。
高校を卒業してからは整備士の仕事と大学の両立で、努力なくして前に進むことは出来なかったけど、毎日のように顔を出す華に癒しをもらって、なんとか頑張ることが出来たと思う。
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