46 / 55
第二章
39. 愛しい人が消えた夜 1 -王太子視点-
しおりを挟む
「殿下。」
いつものように、執務室に数十もの手紙が届けられた。
手紙を持ってきたのは、仲の良い側近候補の友人であり、宰相子息であるアレックスだ。
「あぁ、ありがとう、アレク。そこに置いといて欲しい。」
書類を見ながら、淡々と告げる。
年齢的に、あまり大きな仕事は任されないが、ちょいちょい王太子としてのやらなければいけない仕事を父上がだんだんと増やしてくれるようになった。
全てを任せないのは、まだ、僕にまだ子供でいて欲しいという思いかららしい。
「では、私はこれで。」
「アレク、誰もいないんだから堅苦しいのはなしだよ。」
アレクは、友人の時と仕事の時で口調が変わる。
自分のまわりには年相応の奴がいないことに苦笑する。
国の重鎮の子供であり、国を将来背負って立つ人間の運命なのかもしれない。
「じゃあ、そうするよ。」
「そうしてくれ。」
「……どう?順調に進んでる?」
「まぁまぁだな」
公的なことを処理しながらの私的な会話をするのにはもう慣れたものだ。
「殿下!!!」
かけてきたのは父上が信頼している文官の1人だった。
「どうしたの?騒々しい…」
いつになく慌てる文官にアレクは不思議そうに首を傾げる。
「申し訳、ありません…」
余程急いで来たのか肩で息をしながら続けた。
「リリアナ様が、…いなく、なりました…」
その言葉と同時にがたっと音を立て勢いよく椅子から立ち上がった。アレクも動揺したのか、手に持っている書類を床に落とした。
「どういうことだ?」
自分でもこんな声を出せたのかと思うほどの低い声を発し、執務室から勢いよく出ようとし、彼女の居場所も何もかもわからないことに気づき、立ち止まる。
文官は未だ整わない息を必死に整えようとしながら、質問の答えを発する。
「先程、リリアナ様の……捜索願いが、侯爵夫人により、出されました…陛下も、確認済みです。」
「陛下の所に向かう。」
震えそうになる足に鞭をうち、全力の速度で父上の執務室へ歩き出す。
捜索願い、以前どこかの伯爵家の子息が人身売買の組織により誘拐された事件をきっかけに作られた、王都全域の騎士に被害者の顔やらを通達し、動かし安全かつ早急に見つけるための制度だが、この制度にこれ程感謝する日は来ないだろう。
いなくなったと聞き、ブレスレットから位置情報を探ろうとしたが、何一つ反応がない。魔法や剣などの物理的障害を回避するためのものも一切発動していない。
何も出来ないこの状況に自分自身に腹が立つ。
ギリっと奥歯を噛み締める音がなった。
_____________________
「一刻も早く見つけろ。」
父上の声は執務室の外まで聞こえる声だった。
リリは私の番だ。父上も番というものの大切さを切に味わってきている。
リリを番と父上に話しておいて正解だったと思った。
ノックをするのも忘れ、ドアを開いた。
開閉音に気づいたのか父上と目が合った。
「来たか。さっさと座れ。」
事の重要さにより、口が悪くなっている。
「捜索隊を出し、騎士団を動かしてはいるがまだ見つかっていない。つい先程動かしたばかりだからな。時間はまだかかりそうだ。」
「父上、私も捜索に出ます。」
考えてる暇などない。
見つからないなら探すその一択だ。
「気持ちは分かるが、落ち着け。」
「ですが…!!」
「冷静になれ。焦っても意味が無い。」
父上の言葉に苛立ちを覚える。だが、焦っていても意味が無いのは十分に理解している。
本当は今すぐ、リリの元に飛んでいきたいのも事実だ。
冷静になれ。頭を冷やせ。落ち着け。
自分自身に言い聞かせるように頭の中で何度もつぶやく。
「失礼しました。」
数秒の沈黙の後に父上に向かって言葉を発した。
「大丈夫だ。」
少し落ち着きを取り戻し、早々と告げる。
「リリの装飾具のひとつに私のあげたブレスレットがあります。その中に、位置追跡、物理的な障害や敵意による防御魔法、一定の範囲であれば彼女の元に行ける転移魔法を付与しています。」
「お前、いつの間にそんなものを……」
父上の顔が歪み、若干引かれておるような気もするがそんなことは気にしてられない。
気にせずに話を続ける。
「しかし、それらはいずれも発動も反応もしていない。」
「となると、国外にいる可能性が十分に高いということか。」
国外…父上がいう通り私とブレスレットの距離が遠くなればなるほど、ブレスレットの位置情報が追跡しにくくなる。
だが、国外にいくのならあまりにも時間が無さすぎる。転送魔法でも使わない限り…
現在不審に転送魔法が使われたという報告も上がってきては居ないらしい。
嫌な予感がする。
ありもしない、想像でしかない空間。
「それか、魔力が存在しない場所か。」
_______________________________
後書き
前話との間がかなり空いてしまいました。
すみませんm(_ _)m
これからも本作を楽しんでいただければと思います。
いつものように、執務室に数十もの手紙が届けられた。
手紙を持ってきたのは、仲の良い側近候補の友人であり、宰相子息であるアレックスだ。
「あぁ、ありがとう、アレク。そこに置いといて欲しい。」
書類を見ながら、淡々と告げる。
年齢的に、あまり大きな仕事は任されないが、ちょいちょい王太子としてのやらなければいけない仕事を父上がだんだんと増やしてくれるようになった。
全てを任せないのは、まだ、僕にまだ子供でいて欲しいという思いかららしい。
「では、私はこれで。」
「アレク、誰もいないんだから堅苦しいのはなしだよ。」
アレクは、友人の時と仕事の時で口調が変わる。
自分のまわりには年相応の奴がいないことに苦笑する。
国の重鎮の子供であり、国を将来背負って立つ人間の運命なのかもしれない。
「じゃあ、そうするよ。」
「そうしてくれ。」
「……どう?順調に進んでる?」
「まぁまぁだな」
公的なことを処理しながらの私的な会話をするのにはもう慣れたものだ。
「殿下!!!」
かけてきたのは父上が信頼している文官の1人だった。
「どうしたの?騒々しい…」
いつになく慌てる文官にアレクは不思議そうに首を傾げる。
「申し訳、ありません…」
余程急いで来たのか肩で息をしながら続けた。
「リリアナ様が、…いなく、なりました…」
その言葉と同時にがたっと音を立て勢いよく椅子から立ち上がった。アレクも動揺したのか、手に持っている書類を床に落とした。
「どういうことだ?」
自分でもこんな声を出せたのかと思うほどの低い声を発し、執務室から勢いよく出ようとし、彼女の居場所も何もかもわからないことに気づき、立ち止まる。
文官は未だ整わない息を必死に整えようとしながら、質問の答えを発する。
「先程、リリアナ様の……捜索願いが、侯爵夫人により、出されました…陛下も、確認済みです。」
「陛下の所に向かう。」
震えそうになる足に鞭をうち、全力の速度で父上の執務室へ歩き出す。
捜索願い、以前どこかの伯爵家の子息が人身売買の組織により誘拐された事件をきっかけに作られた、王都全域の騎士に被害者の顔やらを通達し、動かし安全かつ早急に見つけるための制度だが、この制度にこれ程感謝する日は来ないだろう。
いなくなったと聞き、ブレスレットから位置情報を探ろうとしたが、何一つ反応がない。魔法や剣などの物理的障害を回避するためのものも一切発動していない。
何も出来ないこの状況に自分自身に腹が立つ。
ギリっと奥歯を噛み締める音がなった。
_____________________
「一刻も早く見つけろ。」
父上の声は執務室の外まで聞こえる声だった。
リリは私の番だ。父上も番というものの大切さを切に味わってきている。
リリを番と父上に話しておいて正解だったと思った。
ノックをするのも忘れ、ドアを開いた。
開閉音に気づいたのか父上と目が合った。
「来たか。さっさと座れ。」
事の重要さにより、口が悪くなっている。
「捜索隊を出し、騎士団を動かしてはいるがまだ見つかっていない。つい先程動かしたばかりだからな。時間はまだかかりそうだ。」
「父上、私も捜索に出ます。」
考えてる暇などない。
見つからないなら探すその一択だ。
「気持ちは分かるが、落ち着け。」
「ですが…!!」
「冷静になれ。焦っても意味が無い。」
父上の言葉に苛立ちを覚える。だが、焦っていても意味が無いのは十分に理解している。
本当は今すぐ、リリの元に飛んでいきたいのも事実だ。
冷静になれ。頭を冷やせ。落ち着け。
自分自身に言い聞かせるように頭の中で何度もつぶやく。
「失礼しました。」
数秒の沈黙の後に父上に向かって言葉を発した。
「大丈夫だ。」
少し落ち着きを取り戻し、早々と告げる。
「リリの装飾具のひとつに私のあげたブレスレットがあります。その中に、位置追跡、物理的な障害や敵意による防御魔法、一定の範囲であれば彼女の元に行ける転移魔法を付与しています。」
「お前、いつの間にそんなものを……」
父上の顔が歪み、若干引かれておるような気もするがそんなことは気にしてられない。
気にせずに話を続ける。
「しかし、それらはいずれも発動も反応もしていない。」
「となると、国外にいる可能性が十分に高いということか。」
国外…父上がいう通り私とブレスレットの距離が遠くなればなるほど、ブレスレットの位置情報が追跡しにくくなる。
だが、国外にいくのならあまりにも時間が無さすぎる。転送魔法でも使わない限り…
現在不審に転送魔法が使われたという報告も上がってきては居ないらしい。
嫌な予感がする。
ありもしない、想像でしかない空間。
「それか、魔力が存在しない場所か。」
_______________________________
後書き
前話との間がかなり空いてしまいました。
すみませんm(_ _)m
これからも本作を楽しんでいただければと思います。
0
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛されない王妃は、お飾りでいたい
夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。
クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。
そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。
「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」
クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!?
「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。
クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。
皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。
こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。
私のこと気に入らないとか……ありそう?
ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
絆されていたのに。
ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。
――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。
第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
不定期更新です。
他サイトさまでも投稿しています。
10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる