虚しくても

Ryu

文字の大きさ
5 / 33

第四章

しおりを挟む
中学校を卒業してからすぐ、バンド仲間の紹介で、小田北の隣の地区にある小園中学校に通っていた彼女と付き合うようになった。
ただ、どういう訳か、彼女は小田南中学校の卒業生達で出来ている、パタリロという暴走族の連中から言い寄られていた。
当然、その事でパタリロとは揉める事になった。
パタリロのたまり場は大物にあるユニチカだという事は判っていたので、私は鉄パイプ片手に殴り込んだ。
二十人ぐらいがたむろしているところに私は走ってつっこんでいった。
お約束通り、真ん中に立っている奴の頭に鉄パイプを振り下ろしてやった。
が、格好良かったのはここまでだった。
五、六発入れたところまでは覚えているけれど、あとは何をされたのかも判らなかった。
それこそ袋叩きだっただろう。
ボロ雑巾のようにされて、体中痛くて動く事も出来なかった。
だけど、不思議と気分は晴れていた。
何かのはけ口なんかじゃない。
つきまとう緊張感と息苦しさから逃れるための手段なんかでもない。
私は普通の喧嘩が出来た。
十五歳の夏、あれが青春だったんだろう。


平成二十四年
日本全国を震撼させた、尼崎大量殺人事件の実行犯とされた人物は小田南出身で、私よりも少し年上になる。
当時の彼の事を私はそれ程知らないのだが、もしかするとこの時、彼もユニチカにいてたのかも知れない。
そしてこれから二十年後、、、
尼崎大量殺人事件の実行犯として、全国ネットのニュースに彼の顔が流れる事になるなんて、この時の誰が思っただろうか、、、


私が付き合っていた彼女は特に不良という訳ではなく、どちらかと言えば普通の女の子だった。
ところが彼女のお母さんがとても気さくな人で、彼女の実家に私を住まわせてくれていた。


平成五年の春頃
彼女の妊娠が判った。
その事を私達は誰にも話す事なく、二人で駆け落ちをするように、豊中市の庄内に移り住んだ。
そこで私は大工の仕事に就いた。
誰かに話したところで、周りから堕ろせと言われるのは目に見えていたし、彼女が産みたいと願っていたからだ。
赤ちゃんが生まれるまで、尼崎には戻らないと決めた。
シンナーも暴走もやめて、とにかく一生懸命に働いた。
この時、彼女も私も十六歳だった。
勿論、十六歳なりにという事なんだけれど、それなりには楽しく過ごせていたと思う。
何より、ずっとつきまとっていたあの緊張感と息苦しさが消えていた、、、
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...