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第五章
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平成五年十二月
長男の和希が生まれて、私達は尼崎に戻ってきた。
彼女の父親からはキツい拳骨を喰らわされたけれど、認めてもらえた。
私達は、私の両親と弟が暮らす下坂部の隣、久々知にアパートを借りて、そこで彼女と和希と私、三人での生活を始めた。
子供というのは本当に可愛いものだ。
私は仕事中であっても、いつでも四六時中、和希の事ばかり考えていた。
彼女は母乳が出なかったので、いつも粉ミルクをあげていた。
ミルクを飲ませたり、オムツをかえたり、寝かしつけたり、離乳食を食べさせたり、そういった事は全部私がしていた。
そんな頃、私達が暮らすアパートのはす向かいのアパートに、おかしな連中が引っ越してきた。
二十歳を少し過ぎたぐらいの連中だったと思う。
全員、金髪のリーゼントで、いつもシンナーを吸っていた。
そして、話をしている時に妙な方言を使っていた。
この頃、私は十七歳になったばかりだった。
十七歳から見れば、二十歳を過ぎた連中といえば立派なオッサンだ。
だから、この連中は私の目には異質なものに映っていた。
当然、この連中とは何度か喧嘩になりかけた事があった。
だけど、家には生まれたばかりの和希がいるので、実際に殴り合うような真似はしなかった。
和希が五ヶ月になった頃の事だった。
私が仕事から帰ったら、和希が一人で泣いていた。
買い物にでも行っているのかと思ったけれど、それにしても、和希を一人で置いて行くのはおかしいし、何となく違和感を感じた事は覚えている。
暫く和希をあやしながら過ごしていると、近所に住む同級生が家にやってきた。
そして、彼女があの連中と一緒に何処かへ行くのを見かけたと教えてくれた。
さすがに初めは耳を疑ったけれど、同級生が嘘をつく理由は見つからなかった。
私はすぐ、はす向かいのアパートに行ってみた。
あの連中が住んでいる部屋には鍵がかかっていた。
「出てこんかい」
私は、玄関横の窓を叩き割って叫んでみたが、何の反応も返ってこなかった。
それで、アパートの裏側へ回って、掃き出しのガラス戸を叩き割って部屋の中に入った。
部屋には誰もいなかった。
そして、彼女が帰って来る事もなかった。
私の同級生に見られたので慌てて逃げたんだろう。
私の知る限り、あの連中は五、六人のグループだった。
そのうちの誰かと彼女はデキていたという事なんだろう。
私にはあの連中がどこの誰なのかさっぱり判らなかった。
だけど、連中の住むアパートには荷物があったので、誰かが帰ってきた時に捕まえればいいと考えた。
私は和希を実家にあずけて、連中の住むアパートの様子をうかがう事にした。
すると、何日もたたないうちに、二人の男がアパートに入っていくのを見つけて、私は走った。
私は、連中の住むアパートの玄関を荒々しく開けて、土足のまま入っていった。
「おい」
二人に声をかけた。
二人は私の顔を見てから、私の右手に包丁が握られているのを認めて、慌ててアパートの裏側に出る掃き出しに向かって走ろうとした。
が、二人同時に逃げ出したので、一人は簡単に捕まえる事が出来た。
男の襟首をうしろからつかんで、そのまま引きずり倒した。
「大人しぃせんかい」
包丁を突きつけると、男はすんなり座ってペラペラしゃべってくれた。
あの連中は、京都の丹後半島にある、宮津という所でスーパーサイヤ人軍団とか呼ばれている連中らしい。
始めはふざけた冗談かと思ったが、どうやら本当のようだった。
ちなみに全員が金髪にしているので、そんな呼ばれ方をされているという事だった。
彼女とデキている張本人は、宮津にある寺の息子という話だ。
残念だが、これも本当だった。
そして、彼女も含めてあの連中は全員、宮津にいるという事も判った。
「お前、帰らしたるけど、帰ったら俺が殺しに行くから待っとけって、そいつらに言うとけ」
私は捕まえた男を解放してやり、翌朝、JR尼崎駅から福知山行きの快速電車に乗って宮津に向かった。
スーパーサイヤ人軍団を刺しまくってやろうと、ズボンの左右のポケットには短刀をしのばせていた。
和希の事は何にも考えていなかった、、、
宮津という所に行くには、福知山で丹後鉄道という路線に乗りかえなければならないという話だった。
電車に乗り慣れていない私は、福知山で電車を降りてから駅員に案内してもらって、丹後鉄道のホームまで行った。
その光景に私は目を疑った。
生まれて初めて見る一両電車、、、
おまけに単線ときた。
頭が痛くなってきた。
気合いもそぎ落とされそうだった。
のらりくらりと単線の一両電車に揺られて、宮津に着いた。
そこには、私の予想を裏切る事なく田舎の風景が広がっていた。
さすがに、いきなり寺に殴り込む訳にはいかない。
とりあえず、ヤンキーを見つけて片っ端からシバいていけば、すぐにスーパーサイヤ人軍団は見つかるだろうと考えた。
そして、掘っ立て小屋のような駅舎を出ようとしたんだけれど、、、
そこには、シンナー臭い女が、ぽつんと一人でつっ立っていた。
「何しとんねん、お前」
「、、、、、」
「あいつら、どこおるんじゃ」
「、、、、、」
「ボケとんかい、ワレ」
高校デビューというのは珍しくもないだろう。
だけど、母親になってからという奴がいるなんて、考えてみた事もなかった。
初めて見たそれが、まさか自分の彼女だった女になるとは、、、
人生、何が起こるか判らないものだ。
「リュウジ君が来るって聞いて、みんな逃げてん」
どうやらスーパーサイヤ人軍団はさっさと逃げて、この女は一人、置き去りにされたようだ。
この女とはしゃべる気もしなかったけれど、一銭も持ってないとか言うので、尼崎までは連れて帰ってやる事にした。
気持ちが抜けた私は、今度は福知山へ向かう単線の一両電車に乗り込んだ。
女が、私の隣に座ろうとしてきた。
「向こう行けや」
「別にええやん」
「しゃべりかけてくんな」
「なんなん」
「臭いから向こう行け言うとんじゃ」
ふてくされたように、女は端っこの座席に腰を下ろした。
それから煙草を取り出して、電車の中で吸い始めた。
その様子を見ていた車掌が、女のもとへ向かって行った。
「お客さん、車内での喫煙は困ります」
車掌は灰皿を差し出していた。
「うるさいねん」
帰りの電車の中、、、
煙草を吸い始め、シンナー臭い息を吐きながら、車掌にヤカラめいた事をほざいている女。
それを見ている時、、、
スーパーサイヤ人軍団を刺しまくるつもりでポケットにしのばせてある短刀で、このシンナー臭い女を刺し殺してやろうかと、本気で思っていた。
暫くの間、その衝動を抑えるのに苦労した事を覚えている。
その後、女とは関わる事なく、JR尼崎駅で別れた。
私は実家に和希を迎えに行き、金がなくなるまで和希と二人で過ごした。
そして、金がなくなると再び和希を実家にあずけて、もぉ迎えには行かなかった、、、
幸い、父は和希の事を可愛がってくれていた。
どういう訳か母も和希の事は可愛がってくれていた。
長男の和希が生まれて、私達は尼崎に戻ってきた。
彼女の父親からはキツい拳骨を喰らわされたけれど、認めてもらえた。
私達は、私の両親と弟が暮らす下坂部の隣、久々知にアパートを借りて、そこで彼女と和希と私、三人での生活を始めた。
子供というのは本当に可愛いものだ。
私は仕事中であっても、いつでも四六時中、和希の事ばかり考えていた。
彼女は母乳が出なかったので、いつも粉ミルクをあげていた。
ミルクを飲ませたり、オムツをかえたり、寝かしつけたり、離乳食を食べさせたり、そういった事は全部私がしていた。
そんな頃、私達が暮らすアパートのはす向かいのアパートに、おかしな連中が引っ越してきた。
二十歳を少し過ぎたぐらいの連中だったと思う。
全員、金髪のリーゼントで、いつもシンナーを吸っていた。
そして、話をしている時に妙な方言を使っていた。
この頃、私は十七歳になったばかりだった。
十七歳から見れば、二十歳を過ぎた連中といえば立派なオッサンだ。
だから、この連中は私の目には異質なものに映っていた。
当然、この連中とは何度か喧嘩になりかけた事があった。
だけど、家には生まれたばかりの和希がいるので、実際に殴り合うような真似はしなかった。
和希が五ヶ月になった頃の事だった。
私が仕事から帰ったら、和希が一人で泣いていた。
買い物にでも行っているのかと思ったけれど、それにしても、和希を一人で置いて行くのはおかしいし、何となく違和感を感じた事は覚えている。
暫く和希をあやしながら過ごしていると、近所に住む同級生が家にやってきた。
そして、彼女があの連中と一緒に何処かへ行くのを見かけたと教えてくれた。
さすがに初めは耳を疑ったけれど、同級生が嘘をつく理由は見つからなかった。
私はすぐ、はす向かいのアパートに行ってみた。
あの連中が住んでいる部屋には鍵がかかっていた。
「出てこんかい」
私は、玄関横の窓を叩き割って叫んでみたが、何の反応も返ってこなかった。
それで、アパートの裏側へ回って、掃き出しのガラス戸を叩き割って部屋の中に入った。
部屋には誰もいなかった。
そして、彼女が帰って来る事もなかった。
私の同級生に見られたので慌てて逃げたんだろう。
私の知る限り、あの連中は五、六人のグループだった。
そのうちの誰かと彼女はデキていたという事なんだろう。
私にはあの連中がどこの誰なのかさっぱり判らなかった。
だけど、連中の住むアパートには荷物があったので、誰かが帰ってきた時に捕まえればいいと考えた。
私は和希を実家にあずけて、連中の住むアパートの様子をうかがう事にした。
すると、何日もたたないうちに、二人の男がアパートに入っていくのを見つけて、私は走った。
私は、連中の住むアパートの玄関を荒々しく開けて、土足のまま入っていった。
「おい」
二人に声をかけた。
二人は私の顔を見てから、私の右手に包丁が握られているのを認めて、慌ててアパートの裏側に出る掃き出しに向かって走ろうとした。
が、二人同時に逃げ出したので、一人は簡単に捕まえる事が出来た。
男の襟首をうしろからつかんで、そのまま引きずり倒した。
「大人しぃせんかい」
包丁を突きつけると、男はすんなり座ってペラペラしゃべってくれた。
あの連中は、京都の丹後半島にある、宮津という所でスーパーサイヤ人軍団とか呼ばれている連中らしい。
始めはふざけた冗談かと思ったが、どうやら本当のようだった。
ちなみに全員が金髪にしているので、そんな呼ばれ方をされているという事だった。
彼女とデキている張本人は、宮津にある寺の息子という話だ。
残念だが、これも本当だった。
そして、彼女も含めてあの連中は全員、宮津にいるという事も判った。
「お前、帰らしたるけど、帰ったら俺が殺しに行くから待っとけって、そいつらに言うとけ」
私は捕まえた男を解放してやり、翌朝、JR尼崎駅から福知山行きの快速電車に乗って宮津に向かった。
スーパーサイヤ人軍団を刺しまくってやろうと、ズボンの左右のポケットには短刀をしのばせていた。
和希の事は何にも考えていなかった、、、
宮津という所に行くには、福知山で丹後鉄道という路線に乗りかえなければならないという話だった。
電車に乗り慣れていない私は、福知山で電車を降りてから駅員に案内してもらって、丹後鉄道のホームまで行った。
その光景に私は目を疑った。
生まれて初めて見る一両電車、、、
おまけに単線ときた。
頭が痛くなってきた。
気合いもそぎ落とされそうだった。
のらりくらりと単線の一両電車に揺られて、宮津に着いた。
そこには、私の予想を裏切る事なく田舎の風景が広がっていた。
さすがに、いきなり寺に殴り込む訳にはいかない。
とりあえず、ヤンキーを見つけて片っ端からシバいていけば、すぐにスーパーサイヤ人軍団は見つかるだろうと考えた。
そして、掘っ立て小屋のような駅舎を出ようとしたんだけれど、、、
そこには、シンナー臭い女が、ぽつんと一人でつっ立っていた。
「何しとんねん、お前」
「、、、、、」
「あいつら、どこおるんじゃ」
「、、、、、」
「ボケとんかい、ワレ」
高校デビューというのは珍しくもないだろう。
だけど、母親になってからという奴がいるなんて、考えてみた事もなかった。
初めて見たそれが、まさか自分の彼女だった女になるとは、、、
人生、何が起こるか判らないものだ。
「リュウジ君が来るって聞いて、みんな逃げてん」
どうやらスーパーサイヤ人軍団はさっさと逃げて、この女は一人、置き去りにされたようだ。
この女とはしゃべる気もしなかったけれど、一銭も持ってないとか言うので、尼崎までは連れて帰ってやる事にした。
気持ちが抜けた私は、今度は福知山へ向かう単線の一両電車に乗り込んだ。
女が、私の隣に座ろうとしてきた。
「向こう行けや」
「別にええやん」
「しゃべりかけてくんな」
「なんなん」
「臭いから向こう行け言うとんじゃ」
ふてくされたように、女は端っこの座席に腰を下ろした。
それから煙草を取り出して、電車の中で吸い始めた。
その様子を見ていた車掌が、女のもとへ向かって行った。
「お客さん、車内での喫煙は困ります」
車掌は灰皿を差し出していた。
「うるさいねん」
帰りの電車の中、、、
煙草を吸い始め、シンナー臭い息を吐きながら、車掌にヤカラめいた事をほざいている女。
それを見ている時、、、
スーパーサイヤ人軍団を刺しまくるつもりでポケットにしのばせてある短刀で、このシンナー臭い女を刺し殺してやろうかと、本気で思っていた。
暫くの間、その衝動を抑えるのに苦労した事を覚えている。
その後、女とは関わる事なく、JR尼崎駅で別れた。
私は実家に和希を迎えに行き、金がなくなるまで和希と二人で過ごした。
そして、金がなくなると再び和希を実家にあずけて、もぉ迎えには行かなかった、、、
幸い、父は和希の事を可愛がってくれていた。
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