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第六章
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久々知のアパートがたまり場になるのに時間はかからなかった。
私は、ずっとやめていたシンナーをまた吸うようになっていた。
そして、園田東中学校の卒業生達で出来ている暴走族、道化師と死道会の連中とつるんで暴走するようになった。
小田北にも、小田北中学校と若草中学校の卒業生達で出来ている、闇姫という暴走族があったんだけれど、この情けない姿をさらしたくはなかった。
入れ墨を入れ始めたのも、この頃の事だった。
厳密に言うと、入れ墨を入れるという選択肢しかなくなる、ちょっとしたアクシデントが起こったのだ。
私より二歳年上になる園田の先輩、ヨッチンは左腕に般若の顔の入れ墨を入れていた。
「ヨッチン、俺にも墨入れてや」
「ほんまに言うてんの?」
「うん」
「ほな、絵ぇ描いといで」
久々知のアパートにデザイナーの勉強をしている人がよく遊びに来ていた。
そのデザイナーの卵が私の右腕に蠍の絵を描いてくれた。
そのまま、ヨッチンの自宅に向かった。
「ヨッチン、これ入れて」
「蠍か」
「うん」
ヨッチンは小皿と墨汁とカッターナイフを用意して、入れ墨を入れる準備を始めた。
何故カッターナイフなのか、少し疑問を抱きはしたけれど、ここは彫ヨチ先生に任せてみようと心に決めて、気にするのはやめた。
ヨッチンは小皿に墨汁を入れ、カッターナイフの刃の先を墨汁につけて、私にお決まりのセリフを投げかけてきた。
「ほんまにええんか?」
「かまへん」
「やめるんやったら今のうちやで」
「やめへん」
「絶対、後悔すんで」
「せぇへん」
「ほな、いくで」
彫ヨチ先生は、もくもくと数時間、作業に没頭していた。
「出来たで、腕洗ってええよ」
私は流しで右腕を洗ってから服を着た。
「ヨッチン、有り難う」
彫ヨチ先生にお礼を言って、私は意気揚々と久々知のアパートへ帰って行った。
アパートでは蠍の絵を描いてくれたデザイナーの卵が私の帰りを待ちわびていた。
「どんなんなったん?」
「まだ見てないねん」
「早よ見して」
私は服を脱いで、デザイナーの卵に右腕を見せた。
「どない?」
「、、、、、」
デザイナーの卵は微妙な表情を浮かべていた。
私の予想していた反応とは明らかに違う。
その表情に不安を覚えた私は、恐る恐る鏡の前に移動した。
そこに写っていたのは、どう見てもザリガニだった。
「やめるんやったら今のうちやで」
ヨッチンの言葉がよみがえる。
「絶対、後悔すんで」
ヨッチンの言葉が何度もよみがえる。
ついさっきまでの意気揚々とした気分は一体どこへいったんだろう。
夕方から夜中まで、何時間も痛みをこらえて仕上がったのは、蠍ではなくザリガニだった。
そこそこ立派なザリガニだった、、、
この想定外のアクシデントのおかげで、入れ墨を入れるという選択肢しかなくなったのだ。
この頃、私がおかしくなった噂を聞いて久々知のアパートに私の様子を見に来てくれた奴がいる。
私が、その頭に鉄パイプを振り下ろした、パタリロの天願だった。
天願は小田南中学校出身で、私より一歳年上の先輩になる。
天願は私の事を心配してくれて、毎日のように私の様子を見に来てくれていた。
だけど、天願の言葉は耳に入っても、感じる心を私はなくしていた。
やがて私は、不良のたまり場になっていた久々知のアパートを追い出されるように引き払った。
それからは戸ノ内町にあるタコ部屋をたまり場にして、そこでシンナーを吸うようになっていった。
戸ノ内町は尼崎市の東部にある部落だ。
戸ノ内にはポン中が多い。
半袖のシャツから入れ墨をチラつかせている奴、、、
真冬なのに汗だくになっている奴、、、
やたらとキョロキョロしている奴、、、
そんな奴等が普通に徘徊している。
戸ノ内に普通のサラリーマンはいるのだろうか?
そんな事を考える方が間違っている。
そういう地区だ。
戸ノ内のタコ部屋で、いつも通りシンナーを吸っている時、たまり場に公ちゃんと修蔵がやってきた。
公ちゃんは私より二歳年上の先輩で、修蔵は一歳年上の先輩になるんだけれど、こいつらは立派なポン中だった。
二人はたまり場に来るなり、覚せい剤と注射器を取り出した。
いつも通りの事だった。
公ちゃんが注射器に覚せい剤をつめて、その注射器で水を吸い上げた。
「おい修蔵、腕出せ」
公ちゃんが覚せい剤を溶かしながら、修蔵に声をかけた。
言われるがまま、修蔵は袖をたくし上げて腕を出した。
公ちゃんは注射器の中の空気を押し出してから、修蔵の腕の血管に注射をした。
「どないや?」
「きたきた」
次は選手交代となる。
私はポン中の事を馬鹿にしているので、公ちゃんと修蔵の事は無視して、シンナーを吸い続けていた。
シンナーを吸っていながら、ポン中の事は馬鹿にしているなんて、チグハグに思われるだろうけれど、シンナーというのは十代なかばを過ぎれば、それが恥ずかしい行為だという事は認識している。
だから十代も後半になれば大抵の人は自然にシンナーをやめていくものだ。
けれども、ポン中というのはいい年をこいた大人が完全に薬物に支配されている。
その姿は、ガキの私から見ても、みっともないものにしか映らなかった。
それで、私はポン中の事を馬鹿にしていた。
私は、シンナーではブラックアウトを起こす体質だった。
シンナーを吸い始めてから暫くすると記憶がなくなってしまう。
この時の私もブラックアウトを起こしていた。
そして、それは突然起こった。
シンナーを吸って、ラリっていた筈の私の目がいきなり覚めた。
覚せい剤が効いている状態の事をスーパーサイヤ人だとたとえる事がある。
アニメのドラゴンボールの話、、、
ナメック星でのフリーザとの戦闘中、、、
悟空が初めてスーパーサイヤ人に覚醒した場面を思い浮かべて欲しい。
突然、ゾクっと全身が総毛立ってから、髪の毛まで逆立つ。
興奮状態になって、力がみなぎる感覚。
まさにその通り、スーパーサイヤ人だった。
おまけに視界も思考もスッキリして、悩みや不安といった、負の感情が全て綺麗に消えていた。
自分の身に何が起こったのか、私自身、全く判らなかった。
そんな思考も働かなかった。
「何やねん、これ」
私の右腕の血管からは血が流れていた。
「これがシャブや」
公ちゃんの手には注射器があった。
どういう状況で打たれたのか、全く判らなかった。
だけど、最高だった。
本当にそれしか感じなかった。
ついさっきまでの私は、ポン中の事を馬鹿にしていた。
それなのに、たったの一発で私は覚せい剤の虜になってしまった。
この瞬間、私の人生が変わってしまった事に間違いはないと思う。
十七歳の蒸し暑い夏の夜の事だった。
私は、ずっとやめていたシンナーをまた吸うようになっていた。
そして、園田東中学校の卒業生達で出来ている暴走族、道化師と死道会の連中とつるんで暴走するようになった。
小田北にも、小田北中学校と若草中学校の卒業生達で出来ている、闇姫という暴走族があったんだけれど、この情けない姿をさらしたくはなかった。
入れ墨を入れ始めたのも、この頃の事だった。
厳密に言うと、入れ墨を入れるという選択肢しかなくなる、ちょっとしたアクシデントが起こったのだ。
私より二歳年上になる園田の先輩、ヨッチンは左腕に般若の顔の入れ墨を入れていた。
「ヨッチン、俺にも墨入れてや」
「ほんまに言うてんの?」
「うん」
「ほな、絵ぇ描いといで」
久々知のアパートにデザイナーの勉強をしている人がよく遊びに来ていた。
そのデザイナーの卵が私の右腕に蠍の絵を描いてくれた。
そのまま、ヨッチンの自宅に向かった。
「ヨッチン、これ入れて」
「蠍か」
「うん」
ヨッチンは小皿と墨汁とカッターナイフを用意して、入れ墨を入れる準備を始めた。
何故カッターナイフなのか、少し疑問を抱きはしたけれど、ここは彫ヨチ先生に任せてみようと心に決めて、気にするのはやめた。
ヨッチンは小皿に墨汁を入れ、カッターナイフの刃の先を墨汁につけて、私にお決まりのセリフを投げかけてきた。
「ほんまにええんか?」
「かまへん」
「やめるんやったら今のうちやで」
「やめへん」
「絶対、後悔すんで」
「せぇへん」
「ほな、いくで」
彫ヨチ先生は、もくもくと数時間、作業に没頭していた。
「出来たで、腕洗ってええよ」
私は流しで右腕を洗ってから服を着た。
「ヨッチン、有り難う」
彫ヨチ先生にお礼を言って、私は意気揚々と久々知のアパートへ帰って行った。
アパートでは蠍の絵を描いてくれたデザイナーの卵が私の帰りを待ちわびていた。
「どんなんなったん?」
「まだ見てないねん」
「早よ見して」
私は服を脱いで、デザイナーの卵に右腕を見せた。
「どない?」
「、、、、、」
デザイナーの卵は微妙な表情を浮かべていた。
私の予想していた反応とは明らかに違う。
その表情に不安を覚えた私は、恐る恐る鏡の前に移動した。
そこに写っていたのは、どう見てもザリガニだった。
「やめるんやったら今のうちやで」
ヨッチンの言葉がよみがえる。
「絶対、後悔すんで」
ヨッチンの言葉が何度もよみがえる。
ついさっきまでの意気揚々とした気分は一体どこへいったんだろう。
夕方から夜中まで、何時間も痛みをこらえて仕上がったのは、蠍ではなくザリガニだった。
そこそこ立派なザリガニだった、、、
この想定外のアクシデントのおかげで、入れ墨を入れるという選択肢しかなくなったのだ。
この頃、私がおかしくなった噂を聞いて久々知のアパートに私の様子を見に来てくれた奴がいる。
私が、その頭に鉄パイプを振り下ろした、パタリロの天願だった。
天願は小田南中学校出身で、私より一歳年上の先輩になる。
天願は私の事を心配してくれて、毎日のように私の様子を見に来てくれていた。
だけど、天願の言葉は耳に入っても、感じる心を私はなくしていた。
やがて私は、不良のたまり場になっていた久々知のアパートを追い出されるように引き払った。
それからは戸ノ内町にあるタコ部屋をたまり場にして、そこでシンナーを吸うようになっていった。
戸ノ内町は尼崎市の東部にある部落だ。
戸ノ内にはポン中が多い。
半袖のシャツから入れ墨をチラつかせている奴、、、
真冬なのに汗だくになっている奴、、、
やたらとキョロキョロしている奴、、、
そんな奴等が普通に徘徊している。
戸ノ内に普通のサラリーマンはいるのだろうか?
そんな事を考える方が間違っている。
そういう地区だ。
戸ノ内のタコ部屋で、いつも通りシンナーを吸っている時、たまり場に公ちゃんと修蔵がやってきた。
公ちゃんは私より二歳年上の先輩で、修蔵は一歳年上の先輩になるんだけれど、こいつらは立派なポン中だった。
二人はたまり場に来るなり、覚せい剤と注射器を取り出した。
いつも通りの事だった。
公ちゃんが注射器に覚せい剤をつめて、その注射器で水を吸い上げた。
「おい修蔵、腕出せ」
公ちゃんが覚せい剤を溶かしながら、修蔵に声をかけた。
言われるがまま、修蔵は袖をたくし上げて腕を出した。
公ちゃんは注射器の中の空気を押し出してから、修蔵の腕の血管に注射をした。
「どないや?」
「きたきた」
次は選手交代となる。
私はポン中の事を馬鹿にしているので、公ちゃんと修蔵の事は無視して、シンナーを吸い続けていた。
シンナーを吸っていながら、ポン中の事は馬鹿にしているなんて、チグハグに思われるだろうけれど、シンナーというのは十代なかばを過ぎれば、それが恥ずかしい行為だという事は認識している。
だから十代も後半になれば大抵の人は自然にシンナーをやめていくものだ。
けれども、ポン中というのはいい年をこいた大人が完全に薬物に支配されている。
その姿は、ガキの私から見ても、みっともないものにしか映らなかった。
それで、私はポン中の事を馬鹿にしていた。
私は、シンナーではブラックアウトを起こす体質だった。
シンナーを吸い始めてから暫くすると記憶がなくなってしまう。
この時の私もブラックアウトを起こしていた。
そして、それは突然起こった。
シンナーを吸って、ラリっていた筈の私の目がいきなり覚めた。
覚せい剤が効いている状態の事をスーパーサイヤ人だとたとえる事がある。
アニメのドラゴンボールの話、、、
ナメック星でのフリーザとの戦闘中、、、
悟空が初めてスーパーサイヤ人に覚醒した場面を思い浮かべて欲しい。
突然、ゾクっと全身が総毛立ってから、髪の毛まで逆立つ。
興奮状態になって、力がみなぎる感覚。
まさにその通り、スーパーサイヤ人だった。
おまけに視界も思考もスッキリして、悩みや不安といった、負の感情が全て綺麗に消えていた。
自分の身に何が起こったのか、私自身、全く判らなかった。
そんな思考も働かなかった。
「何やねん、これ」
私の右腕の血管からは血が流れていた。
「これがシャブや」
公ちゃんの手には注射器があった。
どういう状況で打たれたのか、全く判らなかった。
だけど、最高だった。
本当にそれしか感じなかった。
ついさっきまでの私は、ポン中の事を馬鹿にしていた。
それなのに、たったの一発で私は覚せい剤の虜になってしまった。
この瞬間、私の人生が変わってしまった事に間違いはないと思う。
十七歳の蒸し暑い夏の夜の事だった。
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