紛い物の聖女は温かな人々に囲まれた幸せな余生を目指す

めの。

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6.紛い物の聖女と覚悟 一抹の不安を連れて

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 要らぬ重責までその華奢な肩に容赦なく乗せられた彼女は、祠での祈りの前に小声でこちらへ耳打ちした。


「恨みますよ、フィー」


 男を大人しくさせるためとはいえ、自分の身をあっさり差し出したことか、そもそも罵声が彼女まで届かないようにするという約束を違えてしまったことか、その両方か。恨まれる理由としては申し分ないので、黙って受け入れておく。ちゃんと守れていれば、とは自分自身も思っていることだ。


「では聖女様、お願い致します」


 そんな口先だけの騎士は置いたまま、リアンは結界の再構築に取り掛かっていた。展開される術式は解読はそこそこできるものの理解が追いつかない。加護の力は魔術の基礎から異なっているようだ。

 すでに何度か加護の祈りは見ているものの、支点作成に使われている術式はそれからさらに変化している。聖女であれば感覚で使用できるらしいが、周りの人間からは見ていてもどの程度進んでいるのか、正しく展開できているのか分からないため、もどかしさだけが募っていった。


 そうして、七時間が経過した。


「まだやってんのかよ」


 興味本位で見ていた村人も退屈していなくなった頃、またあの男が現れた。


「どうせ無理なんだからやめちまえばいいのによ。一体、こんなことして何になるって」
「お静かに」


 聖女のそばを離れられない警護兵の代わりに。


「全て見ていただいてから、ご判断を」


 これくらいの火の粉は払うべきだ。男は少し毒づいていたが、それも飽きたのか去って行った。

 それからさらに四時間が経過し、さすがに疲れも見え始めた彼女の背に手を置けば、優しい微笑みが返ってきた。時間はかかっているが、問題はないのだろう。


「いつまで……やるんだよ」


 周りの人間は行っている休息も食事も一切取らず、彼女が祈り続けて丸一日が経とうとしていた。


「気にかけていただいてありがとうございます」
「そんなんじゃねぇだろ! あんな小さい女の子を、なんで……誰も。なんで」
「聖女だからですよ」


 男が手にした酒瓶が落ちる。


「それがあの子の覚悟です」


 リアンの祈りは、まだ終わらない。


「紛い物ですから時間もかかるでしょう。それでも、彼女は聖女ですから。国も、貴方も救うでしょう」


 男がまた去った後も、止まらず、終わらず。


「……奇跡だ」


 祠の異変に気付いて村人が集まり始め、結界が強固なものへと変わったことが一目で分かるようになった頃には、それから二日が経っていた。

 リアンは祈りを終えるや否や、喜ぶ村人の輪から少し外れたところにいる男の元へと歩みを進め、



「やり、まし、た!」



 認めろと言わんばかりの強い口調とともに男を睨みつけた。こちらが苦笑したくなるほど、負けん気は強い。本当は弱いくせに。

 村人達がその雰囲気に乗せられて拍手をする中、こちらへ戻ってきた彼女は震えながら小声で俺に耳打ちする。


「…………おしっこ」


 生理現象も無事に戻ってきたらしい。急いで連れて行き、なんとかそちらも事なきを得た。


「フィーが全部悪いんですからね」


 皆のところへ帰るまでに、どうやらお説教があるようだった。


「悪かった」
「あんな瓶で殴られたら死にます」
「悪かったって」
「歌も歌ってくれませんでした」
「それはまあ、うん」


 拗ねる彼女の頭を撫で、三日間手入れもできていなかった髪をついでに手櫛で整える。


「お疲れ様、頑張ったよ」
「フィーのために頑張りました」


 胸を張る彼女に愛しさが込み上げてくるが、帰るまでは我慢だ。とりあえず元の場所へ戻り、彼女を休ませないと。


 と、そう上手くはいかなかったようで。


「悪かった! 本当に申し訳ないことをした!」


 膝をつき、頭を地面に擦り付ける男の手に、もう酒瓶は握られていない。



「どんな罰も受ける、何を捧げてもいい! 疲れてるのも知ってる! でも、それでも」



 屈強な男の姿からは想像できないような、弱々しい声で。




「母ちゃんを……たすけてくれ」




 聖女へ、男は懇願した。




 面倒なことになった。


 これでああなるのか。





 神官に目配せをし、今度は俺の役目を果たす準備に取り掛かる。
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