紛い物の聖女は温かな人々に囲まれた幸せな余生を目指す

めの。

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7.聖女の力と使い方と代償

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 普通の朝だった。


 普通に朝起こされ、作ってもらった食事をうまいうまいと食べて、見送りにはキスももらい、仕事をして、長引き、遅くに帰路に着いて。



 帰ってきたら、手遅れだった。



 帰ってきて、食事が用意されていて、そのまま話をして体を拭いて寝るだけの、普通の一日がそこにある、はずだったのに。


 男の妻は、本人も気づかないまま病が進行し、男を見送った後倒れて以来、目も覚まさずに衰弱していった。



 急激に病が進行したのは、聖女の加護がなくなったせいだった。



 結界さえあれば。せめて仕事が長引かなければ。医者が病に気づけるだけの余裕があれば。こんなことにはならなかったのに。


 空いている時間は全て看病に当て、眠気や不安は酒を飲んで誤魔化して、妻の体を拭き、就任した新しい聖女には急死した聖女への怒りをぶつけ、看病しても良くならない妻には祈りを捧げるしかなくて。



 そんな時に、奇跡をこの目で見た。



 そんな男が、願わずにいられるだろうか。



「本当奥さんにぞっこんだったものね」



 聞こえる村人の声は、男を案じてのものだった。看病の合間に酒を飲み、肩を落としてすすり泣く彼に言葉をかけることもできず、ただ一緒に祈ることしかできなかった、村人達の声。



 初日に彼を止めなかったのは、彼の怒りも分かっていたからか。



 それが正しいことかは分からない。そしてリアンが今からしようとしていることもまた、正しいけれど、正しくないのだろう。



「王都までどのくらいかかるかな」



 それまでに捕まらなければいいが。用意した衣服を身に纒い、村人達の歓声にため息を一つついて、フードを被る。


「奇跡だ! 聖女様の奇跡だ!」
「アンタ良かったねぇ、本当……良かったねぇ」


 泣いている男を皆が励ます。男の家から出てきたリアンは、遠目に見ても疲れが隠せていない。


 聖女の力は、人相手でももちろん効力を有する。


 難病の治癒、怪我の治療。一般的な医者で治せないようなものが、聖女であるだけで治すことができる。そのため、一般的な病は医者が、そうでない病や怪我を聖女が治療することにはなっているが。



「聖女様、ハユの妹も治せないかな?」



 今、病に倒れているのは、彼の妻だけではない。



「まだね、赤ちゃんなの。ずっと苦しそうで、ぐったりしてて、ねぇ、どうにかできないかな」


 その声を引き金に、少しずつ、声が広がっていく。


「うちの子も……うちの子も、この前の大火事で、火傷が酷くて」
「婆さんの病気も酷くなって」
「外れの村だから医者もなかなか来なくて」
「なくなった右足が」


 リアンは、きっと見捨てることができない。先程、男の妻を助けた時のように。ただ、彼女の体も限界にきている中で、この中で誰を助けるか選ぶこともまた、できないだろう。

 息を吸って、吐き。木陰から飛び出して叫ぶ。



「紛い物にできるはずないだろ!」



 驚く村人達の動きに気を割きつつ、続ける。


「本当の聖女ならできても、このくらいで倒れるような紛い物じゃあ、結果は見えてるだろうよ!」


 声色は多少変えているが、リアンならば気付くだろう。俺の言葉を聞いて、倒れるふりをし、近くにいた神官がそれを支える。それでいい。


「……反聖女派がまだいたのかよ」


 黒のローブに逆さに描かれた女神のエンブレム。反聖女派の服なんてどこから仕入れてくれたものか。ただ文句を言って気を逸らす一般人を気取りたかったのに。


「この聖女様は本物だ!」


 三日前とは違う感想を、憑き物が落ちたような顔をした男は声高に叫んだ。倒れた聖女を気遣うように見やり、こちらを再度睨みつける。


「疲れてるところを俺が無理させちまったんだよ! 紛い物なんかじゃねぇ! 無理してでも母ちゃんを治してくれた優しい聖女様だ!」


 こちらの意を汲んでくれたのかは分からないが、良いことを言ってくれた。これで彼女へ不満が集まる流れは阻止できただろう。



 あとは。



「あっ、逃げたぞ!」
「俺が追う!」
「逃すかよっ!」





 俺の逃げ道と、王都まで辿り着く方法だけを考えよう。
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