紛い物の聖女は温かな人々に囲まれた幸せな余生を目指す

めの。

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16.課題

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「ということで、今はガラスマメを植えているところですね。第三王子は生育についても気にしていましたが」
「それについてはこちらで手配してある。ご苦労だったな」


 あれから数日が経った頃、第一王子への報告も終えることができ、ようやく胸を撫で下ろす。これで頼まれごとも解決したということで良いだろう。全く、あと何回こうしたことがあるのやら。



「良い刺激になれば良いとは思っていたが、ここまでしてくれるとは思わなかった。感謝する」



 第一王子が何か言った気がするが、聞き間違いだろうか。王子の近衛騎士団長であり、俺の上司にもあたるジェイド様が苦笑する。


「フィー、今の言葉は間違いなくノア様から発せられたものだ」
「……鳥の囀りか何かではないのですか?」
「君は私を何だと思っている」


 どうやら、お礼を言われた気がするのは間違いではなかったらしい。


「ノア様もアルフレッド様については気を揉んでいたからな。体調も回復されていたし実力は申し分ない。後はきっかけだけだったんだよ」
「兄が弟を心配して悪いことがあるか」
「そんなに弟思いであればノア様がされれば良かったのでは」


 ノア様は珍しく顔を逸らしてバツが悪そうに言う。



「……人の気持ちを量るのは苦手だ」



 俺の呆れ顔を見て、笑いを堪えながらジェイド様が続ける。



「昔から何を言えば誰がどう動くか、といったことは抜きん出て理解しているんだが、そこに自分の気を乗せるのは不得手なんだよ」
「ああ、それでやたらと冷たく威圧的になってしまうと」
「近衛の任を解かれたいか」
「いいえ、滅相も」



 目に見えて不機嫌そうだ。軽口はこのくらいにしておこう。しかし、そう考えるとあの言葉は、『第三王子を部屋から引き摺り出せ』ではなく、『第三王子と仲良くなって、できれば部屋の外へ連れ出して欲しい』という意味だったのか。


 俺も第一王子の性格を加味して言われた意味を考えたところではあるが、先程のことを考えると色々と誤解があるのかもしれない。



「そういえば、この前お借りした反聖女派に似せたローブですが、侍女が泣きながら作ったというのは本当ですか?」



 正確には、ペローナが呪詛を吐きながら一針一針恨みを込めて縫い付けていたものだが。


「おや、今度は侍女を泣かせたんですか」
「女神を依頼したら良くて猫が縫い付けられていた時の気持ちが分かるか?」


 ペローナが何かやらかしていたらしい。なんだ良くて猫って。本当は豚か何かに見えたのだろうか。



「まあ、次代の王候補となれば威厳も必要だからな。となれば、ノア様の誤解も解く必要は感じられないだろ?」
「なるほど、よく分かりました」



 後でジェイド様が聞いた話ではあるが、婚約破棄の件も単純に婚約者の心変わりでノア様の方が身を引いただけとのことだった。まあ、婚約破棄の理由も嘘ではないのだろうが。



「そんなことを考える余裕があるのなら、こちらの本でも読んでおくんだな」



 というわけで、機嫌を損ねたことで無駄に仕事が増えてしまった。渡された本は五冊。何も言われなかったが、これまでの傾向から明日には考えを聞かれるんだろう。弟君へ向ける優しさをこちらにも向けて欲しいものだ。



「あら、フィー様。また第一王子にいじめられでもしたんですか?」



 そんな声をかけてきたのは、件のペローナだった。何やら布を持っている。


「そういうペローナはまた刺繍でも頼まれたのか?」
「いえ、今日はお休みをいただいたので、これは趣味ですね」



 広げられた刺繍には良くて猫が大量にいた。



「ペローナ」
「はい」
「俺はペローナのセンスは嫌いじゃないよ」
「えへへっ……褒められると照れちゃいますね」



 嬉しそうなペローナは布を揺らしながら去っていった。あれはあれで一種の才能だと思うので大切にしてほしいものだ。むしろ、ノア様は一言であれをよくぞ女神まで持って行けたものだ。やる気を引き出す術は間違っていなかったということなのだろう。遺恨は残ったが。



「フィー、大荷物ですね。また課題ですか?」
「意地悪をされて困っているところですよ」
「まあひどい」



 湯浴みを終えたリアンはくすりと笑い、歩みを共にする。第三王子の件と並行して行っていた支点作成や病の重い者への治癒も順調で、聖女が板についてきた彼女は、どことなく大人びて見える。


「そういえば」


 そんなリアンは、唇に指を当てて可愛らしくこちらを見やる。



「何か良いことを私は待ち続けていますよ」



 忘れていたわけではない。が、リアンの可愛らしい頼み事の直後に第三王子の件があり、その間も第一王子から出される課題に支点作成等のリアンの護衛にと、なかなかそちらを考える暇がなかった。言い訳ではある。


「苦情は」
「それはさすがにノア様も管轄外でしょうね」


 割とあの人のせいでもあるのだが、今日のこれは自分の軽口が原因でもあるし、自業自得と言えばその通りである。ため息しか出ない。



「……誕生日までには必ず」
「では、それを楽しみに頑張りますね!」




 そうして、やけに課題が増えた一日が終わる。





 かと思ったが。




「フィー! 丁度良いところに来てくれた。実は新たに試してみたい魔術式があって」






 今夜は徹夜かもしれない。





 ため息と共に、夜は更けていく。




 
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