紛い物の聖女は温かな人々に囲まれた幸せな余生を目指す

めの。

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17.束の間の日常

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「リアン様の欲しがりそうなものですか?」


 誕生日に何とかする、と約束してから二ヶ月が経ち、いよいよ間近に迫ってきた割に特に策も浮かばないので、とりあえずペローナに声をかけてみた。


「こんな言い方はなんですが、フィー様からなら何でも喜ばれると思いますよ」
「俺が言うのもなんだけれど、そんな気がする」


 小さい頃から何をあげても割と喜んでくれていたので、こちらとしては逆に困ってくるのだ。本当に欲しいものや一番欲しいもの、といったものをあげたい気持ちがあるのだが。



「特段、欲のある方でもありませんしね。国の状況もありますが、普段から宝石やドレスに興味も持たれる方ではありませんし」



 好みの色や柄等はあっても、だからといって欲しがりはしない。あるものから好みのものを選んでいるだけで満足そうだ。今の状態ではそれらの調達は面倒そうではあるし、国民にも顔向けできないだろう。


「小麦が取れればお菓子なども良いかもしれませんが」
「豆はもうすぐできそうだけど、お菓子には向かないだろうしな」


 アリー様が熱の合間に作り上げた魔術式を王宮魔術師が使用したところ、収穫が四ヶ月ほど早まる試算となった。他の土地でも植え始めているので、豆ばかりにはなるだろうが、当面の食料問題は解決してくれるだろう。


 土地が回復したら小麦や稲を植えてみたいとアリー様も張り切っていらっしゃったことだし、これで少し皆に余裕ができれば良いが。



「となれば、物以外の方が良いのかもしれませんね」
「余計難しくなるな……」
「考えた時間もリアン様は嬉しく思ってくださいますよ」



 といっても、それは考え抜いて良い贈り物ができた場合だけだろう。結局何も定まらないまま、帰ってきたリアンと共に仕事へ向かう。


 最近は重病人の数も減ってきたので、リアンの負担も少なくなってきた。まあ、それも結界の強化が上手くいっているからであり、結局リアンが頑張って自分の負担が減っているだけではあるのだが。



「フィー、考え事ですか?」
「第一王子が俺に甘くなる方法を考えていました」
「砂を金に変える方がまだ分がありますよ」
「……心得ておきます」



 リアン自身に聞くのも芸がないように思われる。と、考えているうちにさらに日が経ちそうなので、友人に相談してみることにした。



「多分ではあるが、私はそういうことに不得手だ」



 開口一番、アリー様はあっさりと敗北宣言をした。


「私は世俗には疎いし、兄上達ですらあんな感じだろう?」


 第一王子は、誰が何を欲しがっているか察して贈ることはできても、そこに気持ちを乗せることはできないのだろうし、第二王子はその豪胆さから、特に何も考えずに何を贈っても許されそうな気配がある。参考にはなりそうにない。


 アリー様はそんな兄達を持つ弟だからこそ、自分は上手くできないと思っておいでのようだ。



「しかし、リアンには私もかなり世話になっている。何かできれば良いが……」
「ペローナから女性向けの恋愛譚も借りてはみたのですが、参考にはなりませんでしたね」



 一応持ってきたので渡してはみる。速読が可能なのか、アリー様はパラパラと捲るだけで内容を把握したようだったが。



「ぅ……、これは……。そうだな、これは参考にはなりそうもないな」



 引き攣った顔で本をこちらに返してくるが、耳まで赤くなっている。アリー様には刺激が強すぎたらしい。成人していないリアンにやる内容でもない。



「難しいな。こちらの本の方が余程簡単だ」
「それを簡単と言い切るのはさすがに……。あ」
「何か思い浮かんだのか?」



 アリー様から本を借りて捲ってみる。これなら上手くいくかもしれない。



「アリー様、この魔術を俺でも使えるように組んでもらうことは可能ですか?」
「これか。……フィーならこのままでも然程難しくはないように思うが」



 言っている途中で気付いたのか、すぐに顔つきを変えて考え始める。



「これに回復魔法を加えて……いや、逆に弱体化した幻惑魔法でも良いか。うん、大体分かった。調整してみるから、明日まで待ってくれないか」
「アリー様の体調もありますので、急ぎでなくとも」
「フィーは案外と分かっていないな」



 アリー様はいつの間に出したのか、ペンを走らせながら言う。




「友人の頼み事なら、頑張りたいと思ってしまうのが人の常だろう?」




 そういえば、ペローナから借りた本にもそんなことが書いてあったな。




 それでも無理だけはしないようにと念押しして、アリー様の部屋を後にする。




「俺は俺で頑張らないとな」




 なるほど、アリー様ではないが。





 大切な人のために動くというのは、案外と気分が良いものだった。






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