【天下布武!】名前を奪いに来た転校生

はゆ

文字の大きさ
18 / 30
第3章 関係

303 秀吉×詐欺師

しおりを挟む
 と、帰結きけつさせるのが妥当だとうかな。話を進行しんこうしているのが、胡蝶でなければ――。

 胡蝶は、先程さきほど帰蝶きちょうらした部屋へやを、吉乃きつの部屋へやと言った。そしてハニーポットとも言った。
 吉乃きつの部屋へや複製品レプリカを作れるということは、元となるデータを保有ほゆうしているということ。
 犯人はんにんは、十中八九じっちゅうはっく胡蝶だろう。
 胡蝶が吉乃きつのに聞かせていた発言はつげんのうち、『うちでもそこまでしいへん』は入室経路にゅうしつけいろ封鎖ふうさや、権限けんげんのこと。『帰蝶きちょうやったら、復号ふくごうかぎをくれるで良かったのに』は、胡蝶はわたしてあげないと伝えているにぎない。よくもまあ、うそまじえずめていくものだと感心かんしんする。
「で、いつ復元ふくげんしてあげるの?」
吉乃きつのりたらかんがえるかな。反省はんせいしたって、すぐに言うけど口だけやし。これで四回目やお。ええ加減かげんにせなあかんて」

 胡蝶は、おっとである信長の末路まつろ、信長と胡蝶が好きと公言こうげんしている光秀に裏切うらぎられ、自刃じじんする史実しじつを知っている。おそらく、直後に吉乃きつの息子むすこ信忠のぶただが、二条新御所にじょうしんごしょにて自刃じじんしたことも――。
 だからこそ、吉乃きつのすき放置ほうちする行為こういに、敏感びんかんになるのかもしれない。

 近しい人といえば、信長が重用ちょうようした、豊臣秀吉との間にも因縁いんねんがある。
 秀吉が、信長の追善菩提ついぜんぼだいの為、一五八三年せんごひゃくさんねん建立こんりゅうした大徳寺だいとくじ総見院そうけんいん目的もくてきは、政権争せいけんあらそいで主導権しゅどうけんにぎること。秀吉は、信忠のぶただ嫡男ちゃくなん、三歳で家督かとくいだ三法師さんぼうし利用りようし、織田家のりをはかった。
 三法師さんぼうし血縁けつえんではない胡蝶にび、秀吉から邪険じゃけんあつかわれる。胡蝶の戒名かいみょう養華院ようかいんについて、御台みだいではなく寵妾ちょうしょう記録きろくした。胡蝶は正室せいしつなのに、めかけ記録きろくされた。
 一五七五年。信長が信忠のぶただ家督かとくゆずる際、信忠のぶただを胡蝶の養子ようしにしているのだから、そんなことをする必要ひつようは無いにもかかわらずだ。

 付け加えると、正室せいしつは一人のみと規定きていされるのは、江戸時代えどじだい武家諸法度ぶけしょはっと制定せいていされて以降いこう。秀吉の時代には、一人である必要すら無い。
 イエスズ会宣教師せんきょうしルイス・フロイスが残した歴史書れきししょ『日本史』によると、秀吉が大阪城おおさかじょう大奥おおおくに三〇〇人もの若い娘を囲っていたと記されている。
 女性への執着しゅうちゃく異常性いじょうせいはそれだけではない。秀吉が一五九八年四月二〇日にもよおした醍醐だいご花見はなみ。参加者は一三〇〇人。この盛大せいだいな花見に、男性は何人なんにん居たか――三人。秀吉と息子の秀頼ひでより、そして前田利家。以上。他は全員女性。
 秀頼ひでよりは、一五九三年八月生まれだから、当時まだ四歳になる手前。秀頼ひでより趣向しゅこうによるものではないことは自明じめい

 こんな人間から、屈辱的くつじょくてきあつかいをけて、不快ふかいにならないほうがおかしい。

 信長と秀吉が出会であうのは一五五四年頃。眼前がんぜんに居るのは、それ以前いぜんの胡蝶。秀吉という名詞めいしを知らないはず。もしも、胡蝶が秀吉と聞いて反応はんのうするならば、胡蝶はその史実しじつも知っているということになる。

「秀吉って知っ」
「人たらしで強欲ごうよく世話せわになった人を平気へいき裏切うらぎり、悪質あくしつなデマを吹聴ふいちょうする。史実しじつとされとる記録きろくは、だいぶ偏向へんこうされとるし、記録きろくのこっとらへんとされとることは、のこすと都合つごうが悪いで、処分しょぶんしたんやろ。身元みもと不明ふめいっからの詐欺師さぎし
 胡蝶と知り合ってもないとはいえ、ここまで感情かんじょうあらわにするのをはじめて見た。

「秀吉が帰依きえした一人ひとりが、千利休せんのりきゅう。うつけがうしだてになって、茶頭さどうとして、ちゃひろめた。簡素かんそこのかたやで、派手はできで下品げひんな秀吉とは感性かんせいが合うはずが無い。口実こうじつ捏造ねつぞうして、いつでもせる。やで、利用りようするだけして、邪魔じゃまになって切腹せっぷくさせた。武士ぶし以外が、切腹せっぷくめいじられることはあらへん時代じだいにやお」
 信長と千利休せんのりきゅうが知り合うのは、さかいが信長の直轄地ちょっかつちになった一五六九年せんごひゃくろくじゅうくねん
「なんで、うつけが千利休せんのりきゅうに目をけたと思う? 秀吉がのこした資料しりょうには、茶器ちゃき法外ほうがい高値たかねで売りつけとったってしるされとる。しるされとること自体は、うそやない。これはええしなやって、信頼しんらい出来る人が鑑定かんていしたしなが上がるのは、必然ひつぜんやろ。今の時代じだいでいう、クラウドファンディングみたいなこともした。応仁おうにんらんで、けたてら再建さいけんするため、千利休せんのりきゅうは、多額たがく寄付きふをした。うつけは、その善行ぜんこう感心かんしんして支援しえんした。寺は、そのこう顕彰けんしょうするため千利休せんのりきゅう木像もくぞうてた。やけど、秀吉はぞうてさせて権力けんりょく誇示こじしとるってげた。一五八二年センゴヒャクハチジュウニネン六月二日。本能寺ほんのうじへんきた日。うつけは本能寺ほんのうじで、集めた茶器ちゃき披露ひろうする茶会ちゃかいを開催しとった。そのとき、その場所ばしょねらって、火をはなやからは誰やろな」

 胡蝶のちち、斎藤道三は胡蝶をとつがせるさい小刀こがたなわたし『うつけと言われる織田信長が、本当にうつけやったら命をうばえ』とめいじた。それに対し『あるいは、これは父上ちちうえいのちうばやいばになるやも知れませぬ』とかえした逸話いつわがある。
 胡蝶は信念しんねんに従い、行動こうどうする人間。胡蝶が秀吉のことを、ここまで調しらげているからには、秀吉は歴史れきしからえることになるだろう。一代いちだいほろんだ政権せいけんだからのちへの影響えいきょうわずか。
 歴史れきしからす。と表現ひょうげんすると物騒ぶっそうだけれど、胡蝶がよごさずとも、信長が重用ちょうようするきっかけを不意ふいにするだけで、せる。

 秀吉は、詐欺師さぎし運良うんよ成功せいこうつかんだ存在そんざい
 きっかけとなる秀吉の有名ゆうめい逸話いつわは、草履ぞうりふところに入れてあたためたとされているもの。戦果せんかや、功績こうせきを認められたわけではない。
 秀吉の行為こういを、二番煎にばんせんじにするだけで事足ことたりる。
 ふところ――胡蝶の胸元むなもとへ目をる。開けているのは、色仕掛いろじかけがおも目的もくてきではなく、いつでも信長のもの仕舞しまい、あたためられるようそなえているのだろう。
 説明せつめいいから、奇想天外きそうてんがいとか、傍若無人ぼうじゃくぶじんに見えてしまうけれど、信念しんねんつらぬくため、手段をえらばずすすんでいるにぎない。
 あくまで帰蝶きちょう個人的こじんてき主観しゅかん範疇はんちゅうではあるけれど、その振舞ふるまいは、信長と共通きょうつうする印象いんしょうける。
 たんもの同士どうしなのか、うつけが胡蝶なのかはなぞのまま。
 けれど、こころなかのモヤモヤはすっきりとれた。
 少なくとも胡蝶には、身内みうちおとしいれる意図いとは無さそう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

幽縁ノ季楼守

儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」 幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。 迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。 ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。 これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。 しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。 奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。 現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。 異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー 様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。 その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。 幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。 それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...