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嬢
侮
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「これのどこが仕事なんだ。頭がおかしい露出狂じゃないか」
「仕事だよ。身体売って、お金貰ってるの」
雪乃に対する心象が確定した。〝これ〟は侮蔑の対象であり、忌むべき存在。
「穢らわしい娼婦が母だなんて最悪だ」
「ん……大学の学費、払うためにするしか無いの」
よくもスラスラと口から出まかせを並べられるものだ。この台詞は、同情を誘うための詐欺師の常套句。
「遊ぶ金欲しさにやってるだけだろ。学費くらい親父に出してもらえば済む」
雪乃は鞄から取り出した一枚のカードを卓上に置く。
「私が通ってるのは鷹条大学法学部。卒業までの4年間で必要な学費は500万円弱。そんな大きな金額……どんな小さな金額でも、洋平さんに使わせたらお金目当てで結婚したって言われる。出してもらって済むことじゃない」
卓上のカードには、確かに〝鷹条大学学生証 法学部〟と印字されている。そこが国内私大一位の大学であることは、太郎も知っている。
であれば尚更――。
「普通のバイトをすればいいだろ」
「勉強する時間が無くなる。だから時間を身体で買ってる」
「そこまでして行く必要があるのか? 俺の孫は同い年だが、お前と違ってもう立派に働いてるぞ」
「太郎さんの孫は進学したいと訴えた。でも、学費が勿体ないから働けと言われ、諦めた。諦めたことを、立派と評価しているのでしょうか。であれば、私は太郎さんを愚かだと評価します」
「家庭の事情に首を突っ込むな! 金が無いのに、無理して行く必要は無いだろう」
「太郎さんがスナックに行かず、風俗通いをしなければ学費分のお金を確保出来ます。己の一時的な欲と孫の人生を天秤に掛け、欲を選択した。愚かです」
「娼婦が偉そうなことを言うな!」
「お金さえくれるなら暴言を浴びてあげる。吠えて満足するのなら、そうすればいい」
「金、金、金……金の亡者だな。そんな生き方をして恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいの我慢するだけで目標を達成出来るのなら、いくらでも我慢出来る。社会に出たら、事実や感情とは無関係に頭を下げなければならない。感情を無視して、笑っていられないと生きていけない」
今更、雪乃にどう思われるかを気にしても仕方ない。単刀直入に、知りたいことを聞こう。
「お前は結婚詐欺師か?」
「違う」
「保険金目当てで結婚したのか?」
「違う」
「証明出来るか?」
「生前の相続放棄は出来ないから、証明出来ない。念書を作成したとしても、法的効力は無いから無意味」
『太郎、いい加減にしろ!! 黙って聞いていたが、一連の雪乃への侮辱は俺への侮辱と同義だ! 太郎の相続権の生前廃除手続きをする』
「それは横暴だろ! 俺は親父のことを思って……」
『雪乃、今すぐ帰ってこい。そいつは客じゃない』
「太郎さん、帰宅させていただきます。お客様ではないので、お代は結構です」
一瞬たりとも感情を露わにすることなく、太郎に丁寧に一礼し席を後にする雪乃。
太郎は一人取り残されたカップルシートで、天を仰ぐ。
太郎が実家に顔を出すことは、元々皆無だった。今後、少なくとも洋平が生きている間に顔を出すことは無いだろう――洋平に、雪乃にも合わせる顔が無い。
太郎はレジで精算し、店を出る。
路地をとぼとぼと歩いていると、後方から追いかけてくるように足音が近付いてきた。
「太郎! 母として言う。洋平さんに、頭を下げて謝罪しなさい。たまには家に顔出しなさいね」
振り返った先に居たのは雪乃。一方的に喋り、反対方向へ去ろうとした。
「待て!」
立ち止まる雪乃。
「金を払えば、今日のことを水に流してもらえるか?」
「自分勝手で、汚い要求ね」
「そうだ。言っていて恥ずかしい……でも、恥ずかしさを我慢するだけで望みを叶えられるのなら、いくらでも我慢出来る」
「その言い回しはズルい……でも、水に流してあげる。すごく傷付いたから、10万円」
雪乃が提示した金額は小さくはない。しかし、誹謗中傷の慰謝料を請求されたら、こんな金額では収まらない。
財布から札を全て取り出し数える。
1、2、3万円しかない。
「手持ちが足りないから、コンビニでおろしてくる」
コンビニに向かおうと、太郎が一歩目を踏み出したところで雪乃が喋り始めたため、足を止める。
「いや、私に渡さないで家族に使って。対価貰っても傷付けられたくない。だから受け取りたくない」
お金に綺麗も汚いも無い。額面の数字が全てだ。太郎よりも雪乃の方がそう思っているはず。
「言っていることが支離滅裂だ。時間を身体で買ってるなら、受け取るべき対価だ。受け取りたくないと言う理由がわからない」
「身体は売れるけど、心は売りたくない。いくら払われても、絶対に心には触れさせたくない。だから、お金を受け取ることは拒否します」
「心を傷付けられたのに、水に流してくれるんだよな? 矛盾してる」
「太郎さんにとって、私は何? 私にとって、太郎さんは何? 私たちはお金の関係ですか? 私が太郎さんの母だから、水に流すだけです。もしも他人だったら、私は許しません」
「仕事だよ。身体売って、お金貰ってるの」
雪乃に対する心象が確定した。〝これ〟は侮蔑の対象であり、忌むべき存在。
「穢らわしい娼婦が母だなんて最悪だ」
「ん……大学の学費、払うためにするしか無いの」
よくもスラスラと口から出まかせを並べられるものだ。この台詞は、同情を誘うための詐欺師の常套句。
「遊ぶ金欲しさにやってるだけだろ。学費くらい親父に出してもらえば済む」
雪乃は鞄から取り出した一枚のカードを卓上に置く。
「私が通ってるのは鷹条大学法学部。卒業までの4年間で必要な学費は500万円弱。そんな大きな金額……どんな小さな金額でも、洋平さんに使わせたらお金目当てで結婚したって言われる。出してもらって済むことじゃない」
卓上のカードには、確かに〝鷹条大学学生証 法学部〟と印字されている。そこが国内私大一位の大学であることは、太郎も知っている。
であれば尚更――。
「普通のバイトをすればいいだろ」
「勉強する時間が無くなる。だから時間を身体で買ってる」
「そこまでして行く必要があるのか? 俺の孫は同い年だが、お前と違ってもう立派に働いてるぞ」
「太郎さんの孫は進学したいと訴えた。でも、学費が勿体ないから働けと言われ、諦めた。諦めたことを、立派と評価しているのでしょうか。であれば、私は太郎さんを愚かだと評価します」
「家庭の事情に首を突っ込むな! 金が無いのに、無理して行く必要は無いだろう」
「太郎さんがスナックに行かず、風俗通いをしなければ学費分のお金を確保出来ます。己の一時的な欲と孫の人生を天秤に掛け、欲を選択した。愚かです」
「娼婦が偉そうなことを言うな!」
「お金さえくれるなら暴言を浴びてあげる。吠えて満足するのなら、そうすればいい」
「金、金、金……金の亡者だな。そんな生き方をして恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいの我慢するだけで目標を達成出来るのなら、いくらでも我慢出来る。社会に出たら、事実や感情とは無関係に頭を下げなければならない。感情を無視して、笑っていられないと生きていけない」
今更、雪乃にどう思われるかを気にしても仕方ない。単刀直入に、知りたいことを聞こう。
「お前は結婚詐欺師か?」
「違う」
「保険金目当てで結婚したのか?」
「違う」
「証明出来るか?」
「生前の相続放棄は出来ないから、証明出来ない。念書を作成したとしても、法的効力は無いから無意味」
『太郎、いい加減にしろ!! 黙って聞いていたが、一連の雪乃への侮辱は俺への侮辱と同義だ! 太郎の相続権の生前廃除手続きをする』
「それは横暴だろ! 俺は親父のことを思って……」
『雪乃、今すぐ帰ってこい。そいつは客じゃない』
「太郎さん、帰宅させていただきます。お客様ではないので、お代は結構です」
一瞬たりとも感情を露わにすることなく、太郎に丁寧に一礼し席を後にする雪乃。
太郎は一人取り残されたカップルシートで、天を仰ぐ。
太郎が実家に顔を出すことは、元々皆無だった。今後、少なくとも洋平が生きている間に顔を出すことは無いだろう――洋平に、雪乃にも合わせる顔が無い。
太郎はレジで精算し、店を出る。
路地をとぼとぼと歩いていると、後方から追いかけてくるように足音が近付いてきた。
「太郎! 母として言う。洋平さんに、頭を下げて謝罪しなさい。たまには家に顔出しなさいね」
振り返った先に居たのは雪乃。一方的に喋り、反対方向へ去ろうとした。
「待て!」
立ち止まる雪乃。
「金を払えば、今日のことを水に流してもらえるか?」
「自分勝手で、汚い要求ね」
「そうだ。言っていて恥ずかしい……でも、恥ずかしさを我慢するだけで望みを叶えられるのなら、いくらでも我慢出来る」
「その言い回しはズルい……でも、水に流してあげる。すごく傷付いたから、10万円」
雪乃が提示した金額は小さくはない。しかし、誹謗中傷の慰謝料を請求されたら、こんな金額では収まらない。
財布から札を全て取り出し数える。
1、2、3万円しかない。
「手持ちが足りないから、コンビニでおろしてくる」
コンビニに向かおうと、太郎が一歩目を踏み出したところで雪乃が喋り始めたため、足を止める。
「いや、私に渡さないで家族に使って。対価貰っても傷付けられたくない。だから受け取りたくない」
お金に綺麗も汚いも無い。額面の数字が全てだ。太郎よりも雪乃の方がそう思っているはず。
「言っていることが支離滅裂だ。時間を身体で買ってるなら、受け取るべき対価だ。受け取りたくないと言う理由がわからない」
「身体は売れるけど、心は売りたくない。いくら払われても、絶対に心には触れさせたくない。だから、お金を受け取ることは拒否します」
「心を傷付けられたのに、水に流してくれるんだよな? 矛盾してる」
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