クレイジー&クレイジー

柚木ハルカ

文字の大きさ
1 / 38

01.窮地に立たされる


 自分がクズだという自覚はあるか? 俺にはある。
 だが別に、犯罪を犯しているわけじゃない。

 ギャンブルで金を稼いでいるだけだ。金を賭けたゲームで勝つのが楽しいだけ。負けそうな時の緊迫感は生きていることを実感させてくれるし、自分の思いどおりの展開になった時には、ゾクゾクする。

 ただし稼いだ金が、手元に残っていることはほとんどない。家賃と食費、タバコでいつの間にか消えている。そして少なくなったら、いつものようにギャンブラー達がよく集まる場所に赴いて、賭けをするというルーティン。

 でも間違えて裏世界の境界線を越えちまったら最後、気付かないうちに騙される側になっている。いつの間にか、命さえ賭けなければならない事態に陥っている。

 常識を捨ててるヤバい連中というのは、意外と多いのだと――裏世界に足を踏み入れて、初めて思い知らされた。





  ***


 今日は人生で最悪の日だ。そう思うことはぶっちゃけ今までに多々あったが、今日ばかりはマジで最悪だという言葉が浮かぶほどに、気分は優れなかった。

「森本弘樹だな。付いてこい」

 タブレットに俺の情報が入っているのか、名前を確認される。しかも頷いていないのに、背中を押されてエレベーターに乗らされた。

 現在時刻は午後11時。場所は、都会の喧騒から少し外れた場所に建っているビルの……地下10階。
 外観はなんの変哲もないビルでも、実は金持ちどもが暇潰しに集まるヤバい場所である。先へ進めば自分は確実に金で命を弄ばれ、たとえ死んだとしても、嘲笑を引き起こすだけの余興にしかならない。そんな狂気に満ちた場所である。

 逃げたくて堪らない。だが黒服達に囲まれて歩かされているので不可能だ。逃げようとしたら、たぶん銃で撃たれる。ここは日本だというのに、コイツらは当然のように銃を所持していた。

 撃たれたくなくて震える足を必死に動かし、静まり返っている廊下を歩いた。しばらくして男達が止まったのは、いくつかドアの並んでいる、その1つの前。

 ここがギャンブルの会場なのかと一瞬緊張したけれど、開けられたドアの向こうは、ごく普通な部屋だった。3人掛けのソファが2つと、小さなローテーブル。地下なのだから当然、窓などありはしない。

「開始は午前0時だ。それまでここで待機していろ」

 そう言われるや否や背中を押され、転びそうになりながら部屋に入れられる。

「痛っ……てぇな、この!」

 悪態をつきながら振り返った時にはすでにドアを閉められ、しかも外からガチャリと施錠までされて、部屋に1人取り残された。思わず喚きそうになるも、いや、と踏み止まる。
 これからのことを考えると、煙草を吸う時間を与えられたのは、むしろありがたいのかもしれない。

「……落ち着け、落ち着くんだ」

 死ぬかもしれないという状況下で冷静になるのは激しく困難だが、それでも自分を叱咤し、ソファに座った。ボディバッグから煙草を出して、咥えて、ライターで火を付ける。
 煙を深く吸い込み、肺まで行き渡らせて。フゥーと吐き出せば、ほんの僅かだが身体の震えが鎮まった。恐怖は、消えはしないけれど。

 死ぬか生きるかという瀬戸際に立たされるのは、28年間生きてきて、初めてのことだ。
 ギャンブルを生業としているので、そういう噂を聞いたことはあったけれど。知人の知人あたりが1億円以上も借金して、臓器を売らなければならなくなったとか。最近アイツを見ないのは、裏世界で殺されたからだとか。

 そんな噂に対して、俺は笑い飛ばしていた。ありえねぇ、ギャンブルから足を洗っただけだろと。そいつらをバカにしつつ、クズな俺にはギャンブルを止めるなんて無理だから、ちょっと嫉妬したりもして。

 けれどもしかしたら、あれらの噂は真実だったのかもしれない。
 100万円でさえ大金に感じるのに、1億なんて誰が賭けるのか……そう思っていたのに、数時間前のギャンブルで、気付けば借金が1億5千万円まで膨れ上がっていたのだ。その場にいた連中みんなグルで、しかも政界にまで通じている裏企業だと知ったのは、勝負が付いてからである。

 嵌められた。カモにされた。あんな勝負はノーカンだと反論したところで、裏世界の連中に通じるわけがなく、逃亡を図ろうとしても銃を突きつけられて無理だった。
 タブレットに俺の情報が入っていたのなら、きっと最初からターゲットにされていたんだろう。

 そしてこれから俺は、そいつらが開催するギャンブルに強制参加させられる。勝てばなんと、借金はチャラ。だが負けた時は、死を覚悟しなければならない。

 つまり、勝てば問題無い。……勝てればの話だ。

 問題は対戦相手である。ここに連れてこられるまでに、連中から告げられた名前。それはギャンブルに両足突っ込んでいる人間ならば、誰もが聞いたことのある名前だった。

 名は、神崎慧。

 歳は自分よりも低いはずだ。25歳そこそこでありながら、裏世界で知らない者はいないとまで謂われている天才ギャンブラー。どんなギャンブルであろうと一度も負けたことがなく、逆に大量の負債を負わされて潰れた政治家や、金を根こそぎ奪われたヤクザや企業などが数多あるとか。

 そんな、神とも悪魔とも表現されている相手と、自分はこれから戦わなければならない。始まる前から断言出来る、勝てるわけがないと。

「……チクショウ」

 吸い終わった煙草を灰皿に押し付けて、そのままの体勢で言葉を吐き出した。

 今から負けることを考えるなんて、馬鹿げている。ネガティブ思考では勝てるものも勝てない。
 しかし、どうすれば勝てる? どうすれば勝機が見えるのか。それも神崎慧が最も好んでいるという、麻雀で。あれこれ考えたところで、策などこれっぽっちも浮かばない。

 ただこのような戦いを強いられている現状に、借金相手の企業が何を求めているのかまで察せないほど、俺は馬鹿じゃない。連中が俺をカモにしたのは、殺せる人間が欲しかったからだ。神崎慧との勝負に負けて、殺しても問題無い人間が。

 彼のギャンブルしている姿を間近で見られるというだけで、大金を出す金持ちは多いだろう。どんな手段を使えば、どこの組織にも属していないはずの天才を呼べるのかは不明だが、これから行われる余興はその神崎慧を使っての金儲けであり、俺はただの捨て駒である。

「ふざけるなよ……」

 潰れた煙草から手を離して、強く拳を握った。
 相手が神崎慧だからといって、誰が負けるものか。絶対に勝つ。勝って、生き延びてやる。そして人の死を嘲笑おうとする連中を、逆に嘲笑ってやるのだ。

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか

相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。 相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。 ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。 雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。 その結末は、甘美な支配か、それとも—— 背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編! https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

【完結】兄さん、✕✕✕✕✕✕✕✕

亜依流.@.@
BL
「兄さん、会いたかった」 夏樹にとって、義弟の蓮は不気味だった。 6年間の空白を経て再開する2人。突如始まった同棲性活と共に、夏樹の「いつも通り」は狂い始め·····。 過去の回想と現在を行き来します。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?