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01.窮地に立たされる
しおりを挟む自分がクズだという自覚はあるか? 俺にはある。
だが別に、犯罪を犯しているわけじゃない。
ギャンブルで金を稼いでいるだけだ。金を賭けたゲームで勝つのが楽しいだけ。負けそうな時の緊迫感は生きていることを実感させてくれるし、自分の思いどおりの展開になった時には、ゾクゾクする。
ただし稼いだ金が、手元に残っていることはほとんどない。家賃と食費、タバコでいつの間にか消えている。そして少なくなったら、いつものようにギャンブラー達がよく集まる場所に赴いて、賭けをするというルーティン。
でも間違えて裏世界の境界線を越えちまったら最後、気付かないうちに騙される側になっている。いつの間にか、命さえ賭けなければならない事態に陥っている。
常識を捨ててるヤバい連中というのは、意外と多いのだと――裏世界に足を踏み入れて、初めて思い知らされた。
***
今日は人生で最悪の日だ。そう思うことはぶっちゃけ今までに多々あったが、今日ばかりはマジで最悪だという言葉が浮かぶほどに、気分は優れなかった。
「森本弘樹だな。付いてこい」
タブレットに俺の情報が入っているのか、名前を確認される。しかも頷いていないのに、背中を押されてエレベーターに乗らされた。
現在時刻は午後11時。場所は、都会の喧騒から少し外れた場所に建っているビルの……地下10階。
外観はなんの変哲もないビルでも、実は金持ちどもが暇潰しに集まるヤバい場所である。先へ進めば自分は確実に金で命を弄ばれ、たとえ死んだとしても、嘲笑を引き起こすだけの余興にしかならない。そんな狂気に満ちた場所である。
逃げたくて堪らない。だが黒服達に囲まれて歩かされているので不可能だ。逃げようとしたら、たぶん銃で撃たれる。ここは日本だというのに、コイツらは当然のように銃を所持していた。
撃たれたくなくて震える足を必死に動かし、静まり返っている廊下を歩いた。しばらくして男達が止まったのは、いくつかドアの並んでいる、その1つの前。
ここがギャンブルの会場なのかと一瞬緊張したけれど、開けられたドアの向こうは、ごく普通な部屋だった。3人掛けのソファが2つと、小さなローテーブル。地下なのだから当然、窓などありはしない。
「開始は午前0時だ。それまでここで待機していろ」
そう言われるや否や背中を押され、転びそうになりながら部屋に入れられる。
「痛っ……てぇな、この!」
悪態をつきながら振り返った時にはすでにドアを閉められ、しかも外からガチャリと施錠までされて、部屋に1人取り残された。思わず喚きそうになるも、いや、と踏み止まる。
これからのことを考えると、煙草を吸う時間を与えられたのは、むしろありがたいのかもしれない。
「……落ち着け、落ち着くんだ」
死ぬかもしれないという状況下で冷静になるのは激しく困難だが、それでも自分を叱咤し、ソファに座った。ボディバッグから煙草を出して、咥えて、ライターで火を付ける。
煙を深く吸い込み、肺まで行き渡らせて。フゥーと吐き出せば、ほんの僅かだが身体の震えが鎮まった。恐怖は、消えはしないけれど。
死ぬか生きるかという瀬戸際に立たされるのは、28年間生きてきて、初めてのことだ。
ギャンブルを生業としているので、そういう噂を聞いたことはあったけれど。知人の知人あたりが1億円以上も借金して、臓器を売らなければならなくなったとか。最近アイツを見ないのは、裏世界で殺されたからだとか。
そんな噂に対して、俺は笑い飛ばしていた。ありえねぇ、ギャンブルから足を洗っただけだろと。そいつらをバカにしつつ、クズな俺にはギャンブルを止めるなんて無理だから、ちょっと嫉妬したりもして。
けれどもしかしたら、あれらの噂は真実だったのかもしれない。
100万円でさえ大金に感じるのに、1億なんて誰が賭けるのか……そう思っていたのに、数時間前のギャンブルで、気付けば借金が1億5千万円まで膨れ上がっていたのだ。その場にいた連中みんなグルで、しかも政界にまで通じている裏企業だと知ったのは、勝負が付いてからである。
嵌められた。カモにされた。あんな勝負はノーカンだと反論したところで、裏世界の連中に通じるわけがなく、逃亡を図ろうとしても銃を突きつけられて無理だった。
タブレットに俺の情報が入っていたのなら、きっと最初からターゲットにされていたんだろう。
そしてこれから俺は、そいつらが開催するギャンブルに強制参加させられる。勝てばなんと、借金はチャラ。だが負けた時は、死を覚悟しなければならない。
つまり、勝てば問題無い。……勝てればの話だ。
問題は対戦相手である。ここに連れてこられるまでに、連中から告げられた名前。それはギャンブルに両足突っ込んでいる人間ならば、誰もが聞いたことのある名前だった。
名は、神崎慧。
歳は自分よりも低いはずだ。25歳そこそこでありながら、裏世界で知らない者はいないとまで謂われている天才ギャンブラー。どんなギャンブルであろうと一度も負けたことがなく、逆に大量の負債を負わされて潰れた政治家や、金を根こそぎ奪われたヤクザや企業などが数多あるとか。
そんな、神とも悪魔とも表現されている相手と、自分はこれから戦わなければならない。始まる前から断言出来る、勝てるわけがないと。
「……チクショウ」
吸い終わった煙草を灰皿に押し付けて、そのままの体勢で言葉を吐き出した。
今から負けることを考えるなんて、馬鹿げている。ネガティブ思考では勝てるものも勝てない。
しかし、どうすれば勝てる? どうすれば勝機が見えるのか。それも神崎慧が最も好んでいるという、麻雀で。あれこれ考えたところで、策などこれっぽっちも浮かばない。
ただこのような戦いを強いられている現状に、借金相手の企業が何を求めているのかまで察せないほど、俺は馬鹿じゃない。連中が俺をカモにしたのは、殺せる人間が欲しかったからだ。神崎慧との勝負に負けて、殺しても問題無い人間が。
彼のギャンブルしている姿を間近で見られるというだけで、大金を出す金持ちは多いだろう。どんな手段を使えば、どこの組織にも属していないはずの天才を呼べるのかは不明だが、これから行われる余興はその神崎慧を使っての金儲けであり、俺はただの捨て駒である。
「ふざけるなよ……」
潰れた煙草から手を離して、強く拳を握った。
相手が神崎慧だからといって、誰が負けるものか。絶対に勝つ。勝って、生き延びてやる。そして人の死を嘲笑おうとする連中を、逆に嘲笑ってやるのだ。
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