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しおりを挟むいつの間にルイスに魅了魔法をかけてしまったのだろう。魅了魔法が発動するには二つの条件がある。ルイスは美男子という条件は満たしているが、彼に対して不快感を抱くようなことは一度もなかった。それに、発動の際は必ず光を放つのですぐに分かる。ルイスにはそのような兆候はなかったが、気づかないうちにかけてしまったのかもしれない。
リジーは今もルイスのことを慕っている。もしこの事実を知ったら、どれだけショックを受けることか。
ちらりとクラウスを見上げると、彼は申し訳なさそうにこちらを見た。
(それ……どういう表情?)
なぜクラウスがいたたまれない様子でいるのか分からず首を傾げる。しかし、すぐにルイスの方に視線を戻し、冷静に告げた。
「ルイス様は誤解されております。そのかざり紐はわたしが作ったものではありません」
「恥ずかしがらなくたっていいよ。不出来な作りだが、それもまた愛らしい」
「――そうではなく。わたしが飾り紐を贈った相手は他にいて……」
クラウスの裾を摘んで、懐にしまってあるだろうエルヴィアナの飾り紐を見せるように促す。クラウスなら分かるはずだ。エルヴィアナが贈った飾り紐と、ルイスが持っているものは別人が作ったものだと。けれどクラウスからなんのフォローもなく、ただ黙っているだけ。
「ルイス様。その飾り紐はどのような経緯で受け取られたのですか?」
エルヴィアナの問いに、ルイスが答える。
「ルーシェルがエルヴィアナ嬢から預かったのだと。それから、君がクラウスを嫌っていて別れたがっていると教えてくれた」
「…………!」
新入生歓迎パーティのときにルーシェルに同じことを吹き込まれた。クラウスはエルヴィアナと別れたがっていると。そして――。
『クラウス様。あなたのことがお嫌いなんですって』
――と。今なら分かる。ルーシェルはエルヴィアナとクラウスの仲を掻き乱すために嘘を吹聴したのだと。そして、ルイスにも同じことをした。
「わたしがお慕いしているのは、クラウス様だけです。昔も今も――これからも。クラウス様を嫌いだなんて話は一切しておりません」
すると、ルーシェルが困ったような顔を浮かべて言った。
「まぁ、白々しい」
彼女は扇子で口元を隠しながらしおらしげに続ける。
「他の殿方に想いの証である飾り紐を贈っておきながら、よくもそのようなことを言えたものですわね。わたくしには散々クラウス様の悪口を言っていらしたのに。見苦しいですよ、いい加減不義理を認めて詫びてはいかがです?」
ルーシェルはクラウスの顔を見上げて囁く。
「エルヴィアナさんはとても薄情なお方のようです。お可哀想なクラウス様……」
エルヴィアナもクラウスの顔を見る。彼はこちらをちらりと見たあと、小さく息を吐いて、「外の空気を吸ってくる」と言って踵を返した。
すると、ルーシェルは勝ち誇ったようにこちらを見据えた。
「もうこれで、本当に嫌われてしまったかもしれませんね? エルヴィアナさん」
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