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しおりを挟むそれから、アルフレッドとの結婚が決まり、トントン拍子で王宮入りした。アルフレッドに背中を押される形で、結婚と同時に家族に、『記憶喪失が嘘だった』という真実と、ライアンとの支配的な生活について打ち明けた。
『謝らなくていい。あなたが生きていてくれてよかった。今まで辛かったわね』
母をはじめとする家族は、誰ひとりルシアンナを責めず、むしろ、ルシアンナがそこまで追い詰められていたことに気づけなかった自分たちを悔いていた。
それから、新しい命を授かった直後に、ある報せが届いた。
――ライアンが、汚職の発覚をきっかけに、失脚したというのだ。
その後、犯罪者として裁かれたライアンは、実家からも勘当された。どこにも就職できず、路頭に迷っていたらしいが、廷臣時代の人脈を頼りに、なんとか下働きとして王宮に雇われたらしい。
(また、彼と同じ空間で過ごすなんて耐えられないわ)
それを耳にしたルシアンナは、ライアンに会いに行くことにした。
ようやく新しい人生を歩み始めたというのに、大切な居場所に、わずかでも踏み込んでほしくない。
廊下の床を磨いているライアンを見た瞬間、かつての姿からはかけ離れたみすぼらしい姿に、複雑な思いを抱く。だが、平静を装って彼に話しかける。
「久しぶりね、ライアンさん」
「! ルシ、アンナ……」
こちらを振り返ったライアンは目を丸める。ルシアンナはゆっくりと彼の元に歩み寄り、見下ろすようにして言う。
「王子妃殿下、と呼んでくれないかしら」
「……」
「別れてくださってどうもありがとう。もう、あなたに見下されるのも、暴言を浴びせれるのも懲り懲りなの」
「まさかお前、俺のことを……覚えているのか……?」
困惑するライアンに対して、ルシアンナは意味深に口角を持ち上げる。
「さぁ、どうかしら」
するとライアンは立ち上がり、ルシアンナの腕に縋りついてきた。
「そんなことはいい、頼む! もう一度俺が廷臣に戻れるよう、計らってくれないか? 今のお前の立場なら、それくらいできるはずだ」
散々馬鹿にして、蔑み、抑圧してきたくせに、自分が困ったときだけ縋りつくなんて、あまりにも虫が良すぎるのではないか。
「それはできないわ。自分の犯した罪の責任は取るべきでしょう」
「……はっ。俺の女だったくせに、今じゃ王子妃気取りか? あさましいな」
そんな捨て台詞にも動じず、冷徹に告げた。
「今日からもう、王宮に来てくださらなくて結構です。――王族に無礼を働いたこの者を、王宮から摘み出してください」
「なっ、俺をクビにする気か?」
「――あなたの代わりなんて、いくらでもいるので」
それはかつて、婚約解消される際に、ライアンに言われた言葉だった。
もう、ライアンの元婚約者だった時間は、過去。これからは自分なりの幸せを歩んでいくと決めたのだ。
「私はもう行くわね」
「ま、待て! 俺が飢え死にしてもいいっていうのか! まだ話は終わってな――」
「これからアルフレッド様と観劇に行くの。それでは、さようなら」
合図とともに、後方に付き従っていた騎士たちが、ライアンを拘束して引きずるようにどこかに連れていく。ライアンはじたばたと暴れて抵抗し、叫ぶ。
「やめろっ、離せ……っ、あの女が俺を騙してたんだ……っ! クソっ、絶対に許さない……!」
ライアンの言葉は、もうルシアンナの心には届かない。
この瞬間、ライアンと本当の意味で決別できた気がした。
◇◇◇
エントランスではすでに、支度を終えて正装に身を包んだアルフレッドが、ルシアンナを待っていた。
「お待たせしました」
「騒ぎがあったと聞いたよ。ライアンに会っていたそうだね?」
「ライアン様? それはどなたですか?」
「……どなたって、それは君の……」
彼が戸惑いの色を表情に滲ませると、ルシアンナはゆるりと微笑んで告げる。
「もう、彼のことは綺麗さっぱり忘れました」
「ふ。そうか。では、行こうか」
「はい」
アルフレッドに差し伸べられた手に、自身の手をそっと重ねた。
婚約者と決別し、新しい幸せを掴んだルシアンナの歩みは、とても軽やかだった。
----------------
終
◆新連載◆
親友を選んだ貴方へ、さようなら。「愛していた」は過去形ですので。
→記憶喪失×すれ違いです。もしよろしければそちらもお願いいたします!
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