【完結】小公爵様、死亡フラグが立っています。

曽根原ツタ

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一章

〈25〉いつも絆されてしまいます

 
「あっユリちゃーん!   偶然だね、ユリちゃんも今から西講堂?」
「うん、そうだよナターシャ……にロベリア」

 校庭の道すがら、ユーリに無邪気に声をかけたナターシャ。修練場で一悶着あって以来、体裁が悪い。

「げっ……」

 うっかり声を漏らし、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべたロベリア。本音が表に出てしまうのは昔からだ。

「ナターシャ。僕、少しだけロベリアに話があるんだけど、先に行っていてくれるかな?」
「うん、分かった!」

 ナターシャはこちらの気も知らず素直に頷き、一人西講堂へ歩いていってしまった。

「ロベリア、あの日はごめん。僕が大人気ながった。反省してる」
「全く……びっくりしたのよ?   ……ユーリ様に嫌われてしまったのかって」
「……違うよ。君を嫌いになることはない」

 ユーリは、「嫌いになることはない」と確信を持って断言した。

「どうしてあのような振る舞いをなさったのか、ちゃんと説明してくださる?   私の不用心さに呆れたとか……」
「違う。ロベリアは何も分かってない」

 すると、ユーリは心底決まり悪そうに目を逸らして言った。

「……――妬いたんだよ」

 小さな声で告げられた真相に、ロベリアは目を見開いた。僅かに頬を赤らめているユーリ。つまり、ロベリアがファビウスと親しくしている様子を見て嫉妬したというのか。いつもは理性的な彼が、理性的な振る舞いを忘れるほどに……。

 ロベリアも、"嫉妬した"と言われ、その感情の要因となるもっと深い感情を察せないほど鈍感ではない。ロベリアもまた、みるみる顔を熱くさせて俯いた。

「……ユーリ様って、嫉妬とかなさるタイプだったんですか」
「知らないよ。……自分でも、よく分からないけれど、嫌だと思った気持ちは……確かだ」

 ――「どうして嫉妬なんて」、という野暮なことは聞かずとも、彼がロベリアに友情以上の特別な感情を抱いていることは理解できてしまう。
 あのときの余裕のない彼の行動も、今見せている紅潮した気まずそうな表情も、全てロベリアへの好意からきているのだと思うと、軒並み羞恥心が湧いてくる。

「本当、ごめん。……許してくれるかな?」

 甘えるような声で、ユーリが距離を詰めてくる。ロベリアはつい彼を意識してしまい、気恥ずかしくて上擦った声で言った。

「わ、分かったから、そんなに近づかないでちょうだい……!」

 ロベリアは片手で赤らんだ顔を隠しながら、数歩後ずさった。

「ロベリア?   どうして顔を隠す?」
「日差しが、強くて!」
「今日は曇りだけど」

 ユーリはつかつかとこちらに詰め寄り、ロベリアの手を退けて顔を覗き込んだ。彼と視線がかち合う。ユーリは、茹でたタコのように真っ赤になったロベリアを見て、深碧の瞳を瞠く。

「……顔、赤いけど」
「…………」
「君もそんな風に照れることがあるんだね」
「だって……あなたが妙なこと言ったりするから……!」
「妙なことって?」

 ……完全に弄ばれている。手のひらで転がされる感じ。ロベリアはすっかりユーリのペースに飲まれていた。

 ロベリアは彼の胸を押し離して、距離を取った。彼は楽しそうに小さく笑う。

「あのさ、今度の休日――空いてる?」
「え、ええ。空いてるけれど……」
「よかったら、君を連れていきたい場所があるんだけどどうかな?   ……王都より南の港町、アルネスに」
「……!」

 アルネスといえば、ユーリの亡くなった実母の故郷だ。確か、彼女の墓もアルネスにあり、ユーリは度々そこに足を運んでいたはず。

「行きたいわ、私でよければぜひ……!」
「よかった、嬉しいよ」

 結局、ユーリに翻弄され、絆されてばかりのロベリアだった。彼にとって思い入れのある街への誘いに、散々思い悩んでいたさっきまでを忘れて、まんまと心をときめかせていた。単純である。

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