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しおりを挟む「あの……それ、相当な悪女……では」
「そのように揶揄する者は多い。だが、それでも私は……」
そのとき、一瞬見せた憂いを帯びた瞳は、恋人を想う男のものだった。
「……愛していらっしゃるんですね。樹蘭様のことを」
「彼女をこの腕の中で看取ったときの絶望を超えるものは、後にも先にもないだろう。……なぜ私は、会ったばかりのお前にこんな話を……」
口に手を添えて気まずそうに目を伏せる彼。初対面の相手に心の内を吐露してしまったことが不本意な様子だ。
「聞いた話は誰にも言いません。どうせ私、あなたに殺されるかもしれないですし」
拗ねたように訴えると、彼は忌々しげに息を吐いた。
「死にたくなければうまくやればいい。それだけのことだ」
やっぱり冷酷な人だ。
孫雁は次に、凛凛について説明した。今からこの部屋にやって来る彼女は、樹蘭が後宮入りする前から仕えていた侍女。そして、樹蘭の遺体の第一発見者だった。
樹蘭の側仕えは、ひと月と持たずに辞めてばかりだった。けれど、凛凛は孤児であるところを樹蘭に拾ってもらったという恩があり、どんなに樹蘭が横暴を働いても、誠実に仕え続けていたという。
らんかには凛凛と過ごした記憶がないため、記憶喪失という設定にすればいいと孫雁は言った。
(そんな相手を……騙せるかな)
拳をぎゅうと握り、緊張から背中に汗が流れるのを感じた。
その動揺を察した孫雁が傍で囁く。
「じきに来る。そう固くなっていると、凛凛に悟られるぞ」
「…………」
「怖気付いたか? やめるなら今だ」
誰のせいで緊張していると思っているのかと内心で抗議する。
(やめたいと言ったら、殺すくせに)
そもそも、彼が脅すようなことを言わなければ、身体をこわばらせることもなかった。緊張しているらんかに、彼は思わぬ提案を投げかける。
「もし、お前が犯人を見つけるまで見事に勤めを果たせたならば、元の世界に帰すことを考えてやらなくもない」
「本当ですか……!?」
するとそのとき、引き戸の奥に二人の足音が聞こえた。恐らく文英と凛凛だろう。
「樹蘭様は、凛凛さんをなんと呼んでいらっしゃったんですか?」
「――小凛、と」
「分かりました」
らんかはすっと立ち上がり、孫雁のことを見下ろしながら言う。
「絶対に別人であることを悟らせません。そしてきっと、あなたのお役に立つことを証明してみせます」
そこまで口をついたように言ってから、らんかはふと我に帰る。
あなたのお役に立ってみせると言ったものの、初めて会った、それも自分をよく分からない世界に勝手に呼び出した相手のために尽くすのは心底馬鹿らしいことではないかと。
しかし今は、生きるためにはなんでもするしかない。
まもなく引き戸が開かれて、文英と凛凛が入って来た。
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