【完結】身代わり悪女ですが、殺されたくないので完璧を目指します。

曽根原ツタ

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 らんかは宦官の格好をしたまま、西之宮に向かった。西之宮に住まうのは、皇帝の第三の妃である沈・翠花。
 孫雁に渡された資料によると、無類の男好きで、大勢の見目の良い宦官を付き従えているとか。
 樹蘭の生家と彼女の生家は対立関係にあり、政敵という意味で樹蘭を排除した可能性がまずひとつ考えられる。

 西之宮の敷地は、人の手によって完璧な状態に維持してある。茂みが丸く整えられ、花壇には美しい花が植えられていた。
 らんかが通ると、下女や女官たちがこちらを見てうっとりとした表情を浮かべる。

「見て……あの人凄くかっこいいわ」
「本当だ。でも見ない顔ね。西之宮の新しい宦官かしら? 話しかけてみる?」

 らんかは日本にいたとき、舞台で男装の麗人を演じたことがあった。女性向けの作品だったので、そのときに、女性が惹かれる魅力的な男の所作や立ち居振る舞いを叩き込んだ。
 今、女官たちがこちらを見つめる眼差しは、客席で歓声を上げていた女性たちと同じだった。女官たちににこりと微笑みかければ、悲鳴に近い歓声が上がった。

「――待って……!」

 すると、茂みの奥から透き通るような声が聞こえた。その直後、白い子猫が飛び出して来る。

「わっ……」

 白い子猫は、らんかの足元までやって来て、顔を擦り寄せた。素足にふわふわの毛が擦れてこそばゆい。
 にゃあと鳴く声はまだあどけなく、生まれてまもないのだと理解する。

「ごめんね、ご飯は持ってないの」

 しゃがんでそう囁き、子猫を抱き上げたとき、今度は茂みの向こうから若い娘が現れた。

 長い桃色の髪を複雑には結い、小さな宝飾品を散りばめている。
 髪の色に合わせた衣も上等なものだった。袖口から覗く手はしなやかで丸みを帯びている。
 手だけではなく、身体全体が美しい曲線を描き、女性的な魅力が強く、庇護欲を掻き立てる風貌だ。

 彼女は侍女ではなく、宦官ばかりを付き従えていた。しかも彼らは全員若く長身で、見目が良い。らんかは煌めく美男子たちに目を眇める。

(何ここ、ホストクラブみたい……)

 らんかの元に優美な足取りで近づいて来た彼女。

「あらあら、猫といえども女の子ですのね。わたくしよりも、美しい殿方の方がお好きみたい」
「……そのようなお言葉、恐縮でございます。――沈徳妃様」

 彼女を見たとき、服装や見た目の特徴から、すぐに徳妃だと確信した。
 中性的で低い作り声で礼を言い、一礼する。彼女はふふ、と柔らかく微笑んだ。

「……今日は寒いですわね」

 翠花が何気なく呟けば、彼女の後ろに控えていた宦官のひとりが、さっと羽織をかける。随分と手懐けているようだ。

(赤い羽織……。薄桃色じゃない)

 彼女の装いは赤が貴重となっているが、樹蘭を絞殺した薄桃色の布は使われていない。

(男の人ばかり付き従えているなんて……『男好き』っていうのは本当なんだわ)

 一応彼女は、この国の皇帝の妃という立場なのに、こういうことをしても構わないのだろうか。後宮の風紀はどうなっているのかという懐疑的な気持ちは胸の奥へとそっとしまい込み、人好きのする笑顔を向ける。

 すると彼女は、もう一歩こちらに近づいて、子猫の頭をそっと撫でた。

「この子猫、足を怪我しているのです。手当てをして差し上げたいのだけれど、わたくしの言うことはちっとも聞いてくれないのですわ」

 西之宮に足を運んだのは、翠花に接触して、樹蘭暗殺の動機を探るため。
 男好きの彼女なら、美しい宦官の姿をして近づけば、放っておかないのではと考えたのだ。実際、らんかは翠花の取り巻き宦官たちの誰よりも麗しかった。

 翠花は、子猫を撫でると見せかけて、らんかの腕を誘惑するように触れた。
 彼女はこちらに視線を上げる。明らかな女の目――いや獲物を狙う獣のような目を向けられ、ごくんと喉の奥を鳴らすらんか。

(これは私……ロックオンされたんじゃ)

 しかし、彼女の腹を探るには好都合だ。これでいい。

「もしよろしければ、お手伝いさせていただけませんか?」
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