【完結】身代わり悪女ですが、殺されたくないので完璧を目指します。

曽根原ツタ

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 らんかが執務室から出て行ったあと、文英を執務室に呼び戻した。彼は、ため息をついている孫雁を見て眉を上げる。

「ため息の訳は、らんか様ですか」
「ああ。彼女のことを考えていた」
「皇后陛下のことばかり考えておられたあなた様が、別の女性のことで悩むとは、珍しいこともあるのですね」
「……そう、だな」

 孫雁はふと、先ほど見たらんかの泣き顔を思い出した。樹蘭のことをひどい人だと貶され、知ったような口を効くなと咎めれば、彼女は泣いて謝罪した。

 また彼女は、怒られたことに対して泣いたのではなく、孫雁を傷つけてしまったことに自責していた。
 彼女にとって孫雁は、異世界に強引に呼び出した憎い相手であるはずなのに。

(彼女は、私のことが憎いんじゃないのか?)

 初めて会った日、文英が剣を突き付けて『殺す』と怖がらせても泣かなかった彼女は、肝が据わっていて、度胸があると思った。しかしふいに、弱い一面を見せることもある。笑ったり泣いたり、表情豊かで、目が離せない。

 そして、らんかのことで思い悩んでいる自分にも戸惑っていた。
 彼女は、見た目こそ樹蘭そっくりで、ふとした表情に樹蘭を重ねさえしてしまうが、全くの別人。樹蘭が悪女のように変貌する前の性格とも違う。
 本来の樹蘭は、優しくて、内気、控えめで模範的な令嬢だった。一方のらんかは、勝ち気で天真爛漫、自由奔放。そんな彼女のことが、なぜか頭から離れない。

 孫雁は彼女のことを一旦頭の端へ追いやり、文英に問いかける。

「文英。事件に関する刑部からの報告は」

 樹蘭は事件後も生き延びていたことになっているが、あの事件の犯人探しはもちろん継続させている。

「はい。皇后陛下の遺体は、眼球に溢血点が見られ、顔の鬱血が確認されました。そして、抵抗した際にできたと思われる首の引っ掻き傷があり、爪の間に繊維が挟まっておりました。それらは絞殺遺体の特徴です。首を布のようなもので締め付けられ、窒息死したと考えられているおります。そして布の圧迫痕の下には女の手形も」

 殺害に使用したと見られる凶器はまだ発見されていない。殺害後、犯人は簪で七箇所突き刺し、簪を落としたまま逃亡。その後、凛凛が朝に遺体を発見したという流れだ。七回も身体を刺したということは、恨みの念は強かったはず。
 あの晩、内之宮で何があったのか、孫雁には想像もつかなかった。

「しかしながら、刑部の調査によると、事件の日、皇后陛下の寝室に外から侵入することは――不可能だそうです」
「なんだと……?」

 皇后を含み、皇族の部屋にはそれぞれ護衛の者をつけている。皇后の寝室は、護衛の者が六名、女官が六名、待機しており、彼らの目を盗んで樹蘭の元まで辿り着くことはできない。

 また、樹蘭の寝室には、戸がひとつしかなく、他に隠し戸もない。小さな窓があるが、外からは高さがあるため、脱出はできても侵入はできない構造になっている。

「では、犯人は元々部屋の中にいた、と?」
「ええ。そして、陛下を暗殺したのち、小窓から脱出したという可能性があります」

 護衛たちの見張りには入れ替わる時間があり、交代に紛れて侵入できる。しかし、最後の交代から、樹蘭の死まで半日の猶予がある。

 文英は刑部の報告を淡々と伝えながら、樹蘭の寝室の見取り図を差し出した。孫雁は顎に手を添えて思案する。

 彼女の寝室にはまず、大きな天蓋付きの寝台が佇んでいる。寝台と床の隙間には、十分人が入る隙間が。次に、衣装棚が左側にり、そこも人が三人は入れるほどの空間になっている。
 他にも、空帷カーテンの裏や屏風の裏など、隠れられそうな場所はいくつか見つかった。

「また、その日に寝所にいた護衛、女官をくまなく調査しておりますが、今のところ怪しい人物は見つかっておりません」
「そうか」
「ですが一点、気になることが。――簪の持ち主についてです」

 寝台から見つかった樹蘭を刺した簪は、上級妃に与えられるもの。台座の宝石が外れていたため特定できなかったが、三人の上級妃たちは持っていた。そして。
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