【完結】身代わり悪女ですが、殺されたくないので完璧を目指します。

曽根原ツタ

文字の大きさ
38 / 43

38

しおりを挟む
 
 鏡に吸い込まれたらんかと孫雁は、真っ暗闇の中にいた。何も見えず、互いの存在だけが頼りだった。
 自分たちの存在以外には茫漠とした闇が広がるのみだと理解したふたりは、体力を無駄に消耗するべきではないと判断し、背中合わせで腰を下ろしていた。

「どうして邪魔をした。せっかく元の世界に帰れる機会だったんだぞ」

 文英の監視の目をかいくぐって操魂の術を強行したのに、と彼が不満げに零す。そこにらんかも負けじと反発した。

「陛下の寿命を削ってまで帰っても、ちっとも喜べませんよ。そっちこそ、どうしてそんな肝心なことを言ってくれなかったんですか」
「知ればお前は遠慮しただろう」
「当たり前です」

 孫雁はそこで、操魂の術の概要を説明した。四代名家と皇家には、それぞれひとつ、秘術が伝わっている。家の外部にはその詳細が公表されていないが、それぞれの家は術を駆使して今の地位まで成り上がった。

 そして、李家に受け継がれている秘術は、死者の魂を呼び戻すというもの。
 李家の血を引く者しか行使できないが、この術を使うことで戦乱の時代、勇猛果敢な戦士たちよ蘇らせ、数多の武勲を上げた。

 ただし、一度術を使うと、術者は鏡に少しずつ、少しずつ命を吸い取られ続ける。生きている間ずっと。
 術を使った回数ごとに、吸い取られる寿命は倍増していく仕組みになっている。

 孫雁は少なくとも樹蘭を蘇らそうとした一度、操魂の術を使ったため、この後の人生であの鏡に命を蝕まれ続けるという訳である。

「そんな……では、術を使った一回分は確実に吸い取られ続けるってことですか!?」
「そうだ。だが、覚悟の上だった」
「どうにかして、寿命を減らなくさせる方法はないんですか?」
、私の寿命は減り続けるだろうな」

 存在する限りは、ということは、存在しなければ孫雁の寿命は吸い取られずに済むということ。らんかははっと気づきを得て、強い語気で呟く。

「……あの鏡を、割っちゃえばいいんですね」
「あれは先祖たちが今の地位を築くために大切にしてきた家宝だ。私の命より遥かに価値がある。そして、李家の人間には壊せないようにまじないがかかっている」
「…………」

 けれど孫雁は、自分の命を賭してまで、樹蘭に会いたかったのだと分かった。その切実な願いは叶うことがなかったのだが。

(どうして、操魂の術で呼ばれたのは……私だったのかな)

 以前彼は、この術が失敗した前例はほとんどないと言っていた。そんな成功率が高い術で、今回に限ってなぜ失敗してしまったのかと疑問に思う。
 夢の中で会った樹蘭は、自らの意思で呼び出しを拒んだと語っていたが。

 らんかの背中から、服越しに孫雁の体温が伝わってくる。彼の背中はらんかよりもずっと広くて、逞しい。暗闇に閉じ込められた恐怖も、彼の熱で溶けて消えていくような感覚がする。

 何の因果かかは分からないが、樹蘭の代わりに自分が召喚されたことで、孫雁に会うことができた。彼に会うことができてよかったと、らんかは思っている。

 孫雁の目には樹蘭しか映っていないと思っていたが、鏡に吸い込まれる前に、『愛している』と言ってくれた。樹蘭だけにではなく、彼は自分にも命を賭してくれたのだ。

 あの言葉を思い出すと、胸が甘く締め付けられ、身体が熱くなる。
 らんかは小さく唇を動かして、おもむろに、自分の想いを口にしかけた。

「……私も、陛下のことがす――」

 好きだと言いかけた瞬間、ふたりの目の前に白い光が現れた。
 白い光はやがて、視界全体に広がり、ある風景を作り出していく。


 ◇◇◇


 そこは、らんかが寝泊まりしていた寝所だった。けれど調度品は、新調したばかひのように綺麗だった。

「樹蘭!」

 そして、天蓋付きの大きな寝台に、樹蘭が腰を下ろしていた。寝着を身にまとい、笑顔はなく、冷たい表情で床の一点を見つめている。

(あの衣は、確か初夜の……)

 孫雁は寝台に座る樹蘭の名前を呼びかけるが、彼女の耳には届かない。

「これは一体、どういうことだ?」
「恐らく、鏡の力で樹蘭様の記憶を見せられているんだと思います。以前鏡を陛下に見せていただいたときもそうでした」

 あのときは、意識だけが鏡に吸い込まれたのだが、全く同じ状況を見せられたのを覚えている。
 すると、まだ年若い孫雁が入室し、樹蘭に愛を囁きかける。
 だが彼女は孫雁に対して、「妾はあなたを愛しておりません」とばっさり斬り捨て、孫雁が落胆した様子で部屋を出て行った。

(これも、前と同じだわ)

 前回この記憶を見たとき、らんかは孫雁の背中を追いかけて行ったため、樹蘭のその後の様子は知らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

処理中です...