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しおりを挟むセルジュが伯爵邸を訪れてから四日後。突然デリウスから呼び出しを食らった。
(急に呼び出しなんて……どうしたのかしら)
懐疑的に思いながら、集合場所に向かう。集合場所は、イルゲーゼ侯爵領の中央都市だった。街道は大勢の人たちが行き交い、道の脇には高級な店が軒を連ねている。大きな荷馬車が店の前に止まり、従業員が仕入れをしているのを遠目に眺めながら、指定された広場で彼を待つ。
「おはよう、マノン」
「おはようございます」
待ち合わせの時刻から二十分ほど遅れてやって来たデリウス。……彼は昔から遅刻常習犯だ。毎回待たされるマノンだが、律儀なマノンはいつも約束の時間ぴったりに行くようにしている。もし遅刻したのが逆なら、デリウスは口うるさく嫌味を言うだろうから。
彼はマノンのことを上から下まで値踏みするように観察し、ふっと鼻で笑った。
「相変わらず洒落っ気がないな。少しは着飾ったらどうだ?」
今日は、装飾の少ないシンプルなドレスを着ている。ついこの前は、少しだけ華美に着飾ったマノンに『男に色目を使ってはしたない』と苦言を呈したばかりだ。どうせ彼な何を着たところで嫌味を言うのは分かっている。
「……申し訳ありません」
いちいち言い返すのも面倒なので、反省した素振りを見せてしおらしげに返す。そうするとデリウスは満足するから。典型的なモラハラだ。
「それじゃあ行くぞ」
デリウスは突然マノンの手を握って歩き出した。今まで触れて来たことなどなかったのでぎょっとするマノン。咄嗟に手を振り払うと、彼は怒ったような顔をした。
「なぜ拒む? 婚約者の手を振り払うのか、お前は」
「……人の目があるので」
「俺と手を繋ぐのは嫌か?」
「嫌じゃ……ないです」
嫌なんて、言えるはずがない。本心を口にしたらきっと不興を買ってしまうから。プライドを傷つけられた彼は、イライラした様子で頭を搔いて、マノンの手を強引に繋いでそのまま歩き出した。
街道を歩く途中、路地裏で男女が揉めているのが見えた。
「私は今から叔母の見舞いに行かなくちゃならないの!」
「10分だけだって言ってるだろ? ちょっとその辺でお茶するだけだから」
「それが無理だって言ってるのよ」
どうやら、男性の方がしつこく若い女性言い寄っているようだ。女性さかなり嫌がって抵抗しているのに、男性は一向に引き下がろうとしない。マノンが気になって立ち止まると、デリウスも路地裏の方に目線を移した。
「デリウス様、あれ……」
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