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しおりを挟むどこに嫁いだところで、女は政治的道具であり、男の所有物という扱いをされることが大半だ。でも、セルジュは何か違う気がする。マノンと向き合ってくれる気がするのだ。はっきりとそう告げると、セルジュは安堵したように「そっか」と答えた。
するとまもなく、応接間に侍女がやって来た。ティーワゴンの上に、ホールのキャロットケーキとティーセットが。
「わ……美味しそう」
キャロットケーキと言えば、ティータイムの定番だ。セルジュが気を利かせて買ってくれたらしい。
「これ、チョコレートが入ってる……!」
フォークで切ってひと口食べたマノンは、あまりの美味しさに目を丸くする。普通のキャロットケーキはチョコレートは入っていないし、カカオは滅多に手に入らない高級品だ。濃厚なしっとりした生地に、キャロットと胡桃、レーズンが入っており、ジンジャーとシナモンの風味がよいスパイスになっている。上のクリームチーズもさっぱりしていて生地によく合う。
「美味しい~~っ!」
「ふふ、分かるよ。びっくりするよね」
「あっ」
心の中の感動がつい外に漏れていたことに気づき、はっとする。
「キャロットケーキ専門店で、あちこちから注文が絶えないんだとか。生地にチョコレートを練り込んだのは、大公妃のための特別レシピなんだよ」
「大公妃様のための特別レシピ……。では、店頭では購入できない貴重な一品ですね。セルジュ様は甘いものがお好きですか?」
「割と好きかな。女の子は特に甘いものが好きだと聞いて注文したんだけど、正解だったかな?」
「大正解!」
フォークを握った手でぐっと親指を立てる。キャロットケーキを切り、どんどん口に運ぶ。セルジュが好きなだけどうぞと言うので、あっという間にホールケーキがマノンの胃袋に収まってしまう。
マノンは活動量が多いので、食欲も旺盛だ。いつも男性の二人前くらい食べる。デリウスの前だと、品がないと言われるのでほとんどご飯を食べることができないが、セルジュはその姿を「いい食べっぷりだ」と喜んで見ていた。
ふと、セルジュと視線がかち合う。
「美味しいね」
「!」
同じようキャロットケーキを食べながら、嬉しそうにはにかむ彼。それを見て目頭が熱くなった。
「ま、マノン!? どうして急に泣いたりして、」
「…………っ」
……ずっと、叶わない夢だと思っていた。いつか夫婦になる人と、美味しいものを食べて美味しいねと笑い合うささやかな瞬間が。デリウスの婚約者でいる間、決して叶うことはないと諦めかけていた夢を、この人は叶えてくれるかもしれない。その嬉しさと、過去の辛かった思いが色々と込み上げて来て、涙が出てしまった。
手の甲で涙を雑に拭い、キャロットケーキをもうひと口。今日食べた中で、一番甘くて美味しく感じた。
「美味しいですね、すごく……」
マノンは泣き笑いを浮かべながらそう返した。
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