17 / 58
17
しおりを挟む「デリウス様、あれ……」
「ほっとけ。女の方も満更ではない」
「満更でもない? 本気でそう思ってますか?」
「ああいう面倒事には首を突っ込まない方がいいってことだ」
デリウスはそう言っているが、マノンには全くそのように見えない。すると、男性が女性の腕を強引に引いた。
「ちょっ、離して、嫌……っ!」
強引にどこかに連れて行こうとする様子を見たマノンは、思わず前に出ていた。デリウスはこういうことを見て見ぬふりできるタイプだが、マノンにはそれができない。
「彼女が嫌がってるわ。その手を離しなさい」
「はぁ? なんだよ急、に……」
忌々しそうにこちらを振り向いた男性だが、マノンの姿を見て瞠目し、ほぅと呟く。
「お嬢ちゃんが相手してくれるっていうならいいぜ」
「お断りするわ」
「――いだっ!」
手刀で男の手首を打つと、女性の腕を握っている力が緩められる。マノンはその隙に女性を逃がした。
「何すんだてめぇ!」
「私は彼女を変態から助けただけ」
「なっ……!」
マノンが底冷えする眼差しで男性を威圧する。彼は痛む手首を摩りながら眉間に縦じわを刻む。一触即発の雰囲気に、周りもざわざわし出すが、そこでデリウスがやって来た。
「もうその辺にしておけ。行くぞ」
マノンが男連れだと分かった男性は、悔しそうにこちらを睨みつけたあと逃げて行ってしまった。そのあと、目的地に着くまでデリウスに延々と叱られ続けた。くだらない正義感だと。
それでもマノンは、女性を助けたことに一切の後悔がなく、自分が責められることに納得できないのだった。
(――きっとセルジュ様なら……ためらいなくあの女性を助けていたでしょう)
セルジュは泣いているマノンにハンカチを差し出してくれた。でもデリウスは自分の利益しか考えておらず、優しさがない人だ。
◇◇◇
連れて行かれたのは、大きな劇場。高尚な劇を観せられたけれど、マノンはあまり楽しめなかった。眠気に襲われてうつらうつらしつつ、なんとか鑑賞を終えた。劇が終わったあと、移動中延々とデリウスの考察を聞かされたが、それも退屈だった。
それから、高級なレストランに案内された。上階の席に着き、コース料理が運ばれてくる。前菜、スープの次は、海鮮料理が運ばれてきた。
「美味いか? お前は海鮮が好きだったはず」
「はい。好きです」
海鮮が好きだと言ったことは一度もないし、そこまで好きではない。むしろ苦手な部類だ。
(これはたぶん……別の女性と勘違いしてる)
そう直感したが、マノンを喜ばせようとしてくれた彼の気持ちを汲み、愛想笑いを返す。しかし、ナイフを入れて気づいた。料理の中に海老が入っていることに。マノンは海老アレルギーで、食べると全身に蕁麻疹が出る。
(海老アレルギーだってことは、何度かお伝えしたことがあるけど)
218
あなたにおすすめの小説
私はあなたの前から消えますので、お似合いのお二人で幸せにどうぞ。
ゆのま𖠚˖°
恋愛
私には10歳の頃から婚約者がいる。お互いの両親が仲が良く、婚約させられた。
いつも一緒に遊んでいたからこそわかる。私はカルロには相応しくない相手だ。いつも勉強ばかりしている彼は色んなことを知っていて、知ろうとする努力が凄まじい。そんな彼とよく一緒に図書館で楽しそうに会話をしている女の人がいる。その人といる時の笑顔は私に向けられたことはない。
そんな時、カルロと仲良くしている女の人の婚約者とばったり会ってしまった…
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む
佐藤 美奈
恋愛
公爵家の広大な庭園。その奥まった一角に佇む白いガゼボで、私はひとり思い悩んでいた。
私の名はニーナ・フォン・ローゼンベルク。名門ローゼンベルク家の令嬢として、若き騎士アンドレ・フォン・ヴァルシュタインとの婚約がすでに決まっている。けれど、その婚約に心からの喜びを感じることができずにいた。
理由はただ一つ。彼の幼馴染であるキャンディ・フォン・リエーヌ子爵令嬢の存在。
アンドレは、彼女がすべてであるかのように振る舞い、いついかなる時も彼女の望みを最優先にする。婚約者である私の気持ちなど、まるで見えていないかのように。
そして、アンドレはようやく自分の至らなさに気づくこととなった。
失われたニーナの心を取り戻すため、彼は様々なイベントであらゆる方法を試みることを決意する。その思いは、ただ一つ、彼女の笑顔を再び見ることに他ならなかった。
幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!
ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。
同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。
そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。
あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。
「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」
その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。
そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。
正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。
伯爵令嬢の婚約解消理由
七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。
婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。
そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。
しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。
一体何があったのかというと、それは……
これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。
*本編は8話+番外編を載せる予定です。
*小説家になろうに同時掲載しております。
*なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる