【完結】他の令嬢をひいきする婚約者と円満に別れる方法はありますか?

曽根原ツタ

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「デリウス様、あれ……」
「ほっとけ。女の方も満更ではない」
「満更でもない? 本気でそう思ってますか?」
「ああいう面倒事には首を突っ込まない方がいいってことだ」

 デリウスはそう言っているが、マノンには全くそのように見えない。すると、男性が女性の腕を強引に引いた。

「ちょっ、離して、嫌……っ!」

 強引にどこかに連れて行こうとする様子を見たマノンは、思わず前に出ていた。デリウスはこういうことを見て見ぬふりできるタイプだが、マノンにはそれができない。

「彼女が嫌がってるわ。その手を離しなさい」
「はぁ? なんだよ急、に……」

 忌々しそうにこちらを振り向いた男性だが、マノンの姿を見て瞠目し、ほぅと呟く。

「お嬢ちゃんが相手してくれるっていうならいいぜ」
「お断りするわ」
「――いだっ!」

 手刀で男の手首を打つと、女性の腕を握っている力が緩められる。マノンはその隙に女性を逃がした。

「何すんだてめぇ!」
「私は彼女を変態から助けただけ」
「なっ……!」

 マノンが底冷えする眼差しで男性を威圧する。彼は痛む手首を摩りながら眉間に縦じわを刻む。一触即発の雰囲気に、周りもざわざわし出すが、そこでデリウスがやって来た。

「もうその辺にしておけ。行くぞ」

 マノンが男連れだと分かった男性は、悔しそうにこちらを睨みつけたあと逃げて行ってしまった。そのあと、目的地に着くまでデリウスに延々と叱られ続けた。くだらない正義感だと。
 それでもマノンは、女性を助けたことに一切の後悔がなく、自分が責められることに納得できないのだった。

(――きっとセルジュ様なら……ためらいなくあの女性を助けていたでしょう)

 セルジュは泣いているマノンにハンカチを差し出してくれた。でもデリウスは自分の利益しか考えておらず、優しさがない人だ。



 ◇◇◇



 連れて行かれたのは、大きな劇場。高尚な劇を観せられたけれど、マノンはあまり楽しめなかった。眠気に襲われてうつらうつらしつつ、なんとか鑑賞を終えた。劇が終わったあと、移動中延々とデリウスの考察を聞かされたが、それも退屈だった。

 それから、高級なレストランに案内された。上階の席に着き、コース料理が運ばれてくる。前菜、スープの次は、海鮮料理が運ばれてきた。

「美味いか? お前は海鮮が好きだったはず」
「はい。好きです」

 海鮮が好きだと言ったことは一度もないし、そこまで好きではない。むしろ苦手な部類だ。

(これはたぶん……別の女性と勘違いしてる)

 そう直感したが、マノンを喜ばせようとしてくれた彼の気持ちを汲み、愛想笑いを返す。しかし、ナイフを入れて気づいた。料理の中に海老が入っていることに。マノンは海老アレルギーで、食べると全身に蕁麻疹が出る。

(海老アレルギーだってことは、何度かお伝えしたことがあるけど)
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