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しおりを挟む長い付き合いだが、肝心なことはまるで覚えていないようだ。マノンはデリウスの好きな食べ物も、嫌いな食べ物もよく知っている。彼と食事をするときはいつも彼の好みに合わせてきたから。マノンは海老を皿の端に避けた。
「何をしているんだ? 行儀が悪いぞ」
「海老がアレルギーなので」
「そういうことは先に言え」
「すみません」
だから、以前から何度も伝えている。
今日は朝からデリウスと過ごしているけれど、ストレスが溜まるばかりだ。楽しませようとしてくれているのかもしれないが、何気ないひと言に憂鬱な気分にさせられる。
最後に豪華なデザートが運ばれてきた。
「これはあまり美味くないな」
「そ、そうでしょうか。私は美味しいと思いました」
「俺の舌はお前と違って肥えてるからな」
「…………」
せっかくの美味しい料理にケチを付ける彼。それに、マノンが卑しいみたいな言い方だ。甘いものが大好きなはずなのに、マノンも美味しく味わうことができず、嫌な気持ちが胸に広がった。
すると、デリウスがおもむろに包みを渡してきた。
「――これは?」
「開けてみろ」
「はい」
包みを開いてみれば、高そうなネックレスと指輪、宝石がついた靴が入っていた。
「お前の家は貧しいから、こういうものはあまり買えないだろう。ありがたく受け取れ」
だいぶ失礼な言い方だ。マノンにも、マノンの家族にも。彼は親切心のつもりかもしれないが、ちっとも嬉しくない。
(彼なりに機嫌を取っているつもりみたいだけど……)
そっと目を伏せて考える。今更マノンの機嫌取りをしてきてももう遅い。マノンの心は自分が思っているよりずっと彼から離れたところにあるようだ。
「――受け取れません」
「は?」
箱を押し返す。デリウスは困惑気味にどうしてかと聞いてきた。
「あなたなりに私と向き合おうとしてくださったことは伝わりました。その気持ちは……ありがたく思います。でももう遅いです。これまでデリウス様はあまりに不誠実でしたし……私たちはたぶん、一から十まで合わないんだと思います」
ルチミナに心移りしていたのに、マノンを失うのが惜しくなったのか。散々ひどい仕打ちをしておいて、今更関係を修復できると思っているなら虫がいいにもほどがある。するとデリウスは、初めて焦ったような表情をした。
「お前がそんな風に思うのはルチミナ様のせいか? 彼女とは関係を切る」
「そういうことを言ってるんじゃありません」
ルチミナは優しい人だ。浮気だとは言え、デリウスに振り回されて彼女も気の毒に思う。
「私は、高尚な劇より、高級な料理や宝石より、甘いお菓子を一緒に『美味しいね』と食べられるような関係を望んでいました」
「そのくらい俺だって、」
「知っていますか? デリウス様は、私が好きな食べ物を食べたとき、一度も『美味しい』とは言ってくださいませんでした。あなたはいつも、私の好きなものを否定するから」
「それは……」
マノンが悲しげに言うと、彼は焦りと怒りで眉間に皺を寄せた。
「お前はもう俺と別れたような気になっているが、馬鹿げた決闘で俺は負けないぞ。大公を負かした栄誉も、お前も全部手に入れてやる」
戦うのはデリウスではなく代理人ノアだ。
マノンは首を横に振った。
「勝敗はリージェ神にしか分かりません。少なくとも私は……セルジュ様に勝ってほしいと思っています」
椅子から立ち上がり、鞄を持つ。くるりと背を向けると、顔を真っ赤にしたデリウスがフォークを掴んで構えた。
「マノン。お前ってやつは、俺に対する敬意がないのか……!」
ひゅんっと音を立ててフォークが飛んでくる。マノンは後ろからの攻撃をかわし、片手でフォークをキャッチした。フォークをテーブルの上にことんと置き直し、にっこりと微笑む。
「今のあなたにあるのは……軽蔑です」
「~~~~!?」
初めて彼に告げる本心。こんな挑発的なことを言って、万が一この決闘でデリウスが勝って彼に嫁ぐことがあれば、マノンはきっとデリウスににひどい報復をされるかもしれない。
そんなリスクを背負うと分かっていながらはっきりと思いを告げたのは、セルジュの勝利に賭けたかったからかもしれない。
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