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しおりを挟む「ウェンディ先生、今日も面白かったです!」
「ありがとうございます……!」
「続きも楽しみにしてますね!」
「はい……! ぜひ」
休日の朗読会終わり。女性客が帰っていき、ウェンディはほっと息をついた。今日はこの後、イーサンと買い物に行く約束をしている。――いわゆるデートだ。
キャラメルカラーのドレスワンピースに、後ろで編み込んだ長い髪。今日はいつもよりお洒落をして来ている。待ち合わせの場所の近くのショーウィンドウに映る自分の姿を確認する。
(……変じゃ、ないかな?)
家の方針により婚約者はいたものの、恋愛経験0のウェンディにとって、異性とデートは初めてのこと。そわそわした心を鎮めようと胸に手を当てて、深呼吸を繰り返す。
「ねえ見て? あの人かっこいい……!」
「本当だ。王子様みたい」
「声かけてみる?」
「あれだけ素敵なんだもの。きっと誰か素敵な恋人がいるわ」
集合場所の時計台の前で、ひとり明らかに異彩を放っている美丈夫がいた。ジャケットにスラックスといった簡素な装いでありながら、華やかなオーラは少しも損なわれていない。金髪に緑目の彼は、『王子様みたい』ではなく正真正銘の第3王子、イーサン・ベルジュタムその人だ。
(うわ……行きづらい)
人々の注目を集めている美男子の待ち人であれば、ウェンディは値踏みの対象になるだろう。その場に立ち尽くしていると、イーサンは人混みの中でも目ざとくウェンディを発見し、こちらに駆け寄って来た。
「こんにちは。ウェンディ」
「……こ、こんにちは」
朝食ぶりの再会だった。まるで後光が差しているかのような煌めく笑顔に、ウェンディは目を眇めて1歩後退する。イーサンはすでにどこかで買い物をしていたようで、紙の包みを片手に抱えていた。
「何かお買い物をされたんですか?」
「うん。本屋でね」
「本ですか! どんな本をお買いに!?」
「小説……かな」
「推理ですか!? 歴史ですか、それとも――恋愛だったり!?」
つい気になり、前のめりになりながら尋ねると、今度は彼の方が困惑して1歩後ろに下がる。鼻息を荒くさせて迫るウェンディの額を指でつんと弾き、「内緒」と優美に微笑んだ。
「好きな作家さんがいるんだ。……その人の新刊は絶対に3冊買うようにしてる」
「3冊、ですか?」
「読む用と保管用、布教用に」
「ふ。なるほど。好きなものがあるのは素敵なことです」
よほどその作家のことが好きなのだろうと理解した。最近ウェンディも新刊を出したのだが、まぁまかり間違っても彼が自分の作品を買うことはないだろう。イーサンはウェンディの作品を恨んでいるはずだから。
目的の店は、仕立て屋だ。夜会に備えて、イーサンの馴染みの店に、対の礼服を作ってもらうことにしたのだ。
街は活気に満ちていて、人の往来が激しい。人混みに紛れ込み、イーサンと何度がはぐれそうになった。すると、彼はこちらに手を差し伸べた。
「――はい」
「その手は……なんでしょうか」
「はぐれるといけないから。手、貸して」
父親以外の異性と手を繋ぐのは初めてのことで、戸惑ってしまう。けれど、そうしている間にもすれ違う人と体のあちこちがぶつかる。しばらくためらったあと、ウェンディは思い切って手を握り返した。
(これじゃ……本物の夫婦みたい。手……あったかい)
小さいころに繋いだ父親の手とは全く違う、若い男性の手。指は長くしなやかで、でも少し節がある。ウェンディの手をすっぽりと覆ってしまうほど大きくて逞しい。どきどきと加速する脈動を感じながら、石畳を踏み歩く。
彼は歩調をこちらに合わせてくれた。
「ウェンディの手は小さいね」
「……イーサン様が大きいんです。あの……私、汗とか大丈夫ですかね。緊張して……」
「ふ。全然気にならないよ。というか多分僕の方が緊張してるし」
「え……?」
どういうことですかと聞き返すと、彼は僅かに頬を染めて「なんでもない」と目を逸らした。
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◇◇◇
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