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しおりを挟むこういうときは、嘘でも軽いと答えるのが礼儀なのに、正直にものを言うところは彼らしい。ラティーシナが不機嫌に頬を膨らませると、「むくれるな」とまたからかうように笑った。
医務室にラティーシナを運んだあと、彼は手当までしてくれた。ソファに腰を下ろし、足に湿布を貼ってくれている彼の姿を眺めると、顔を上げた彼と視線がかち合う。
「俺がこういうことをするのが意外だったか?」
「えっと、あの……はい。……お優しいところもあるのですね」
「……!」
褒められて照れたのか、エリファレットの頬がわずかに赤くなる。
「別に、優しくなんてない」
一瞬見せた子どもっぽい姿がいじらしくて、もっと冷酷なだけの人だと思っていたという言葉は喉元で留めた。
「あまり私のことを避けないでくださいませ。でないと……私が王妃様に叱られてしまいますので」
「……考えておく」
手当てはしてくれたが、そっけなく返事をしたまま医務室を出て行ってしまった。けれどこのときに、少しだけエリファレットへの印象が変わった。
その日から、2人の関係性は少しずつ変化していった。相変わらず、エリファレットは横暴で素行が悪かった。しかしラティーシナだけには、優しさを向け心を開くように。
「殿下……! 昨晩、国宝の壺を割ったとお伺いしましたよ……!」
「ラ、ラティーシナ……! それは、違うんだ。訳があって……。わざと割った訳ではない!」
「それはそうでしょう。千鳥足になるまでお酒を飲まれたのですからね……!」
「……次は気をつけるから」
教育係として、厳しく叱責する。エリファレットは子どものころから甘やかされ、叱られることなく育ってきた。だからここまで自由奔放でろくでもない人に育ってしまったのだろう。
ラティーシナは教育係だけではなく、彼の妻であった。どんなに遊び回っても、夜更けにはラティーシナの部屋に戻ってくる。
「今何時だとお思いですか」
「またそんな大衆小説を読んでるのか」
「話を変えないでください。……これは今一番人気のウェンディ・エイミス先生の本なんですよ? 読みますか?」
「俺はいい。興味ないからな」
すると彼は、背中に隠していた小さな箱を取り出してこちらに渡した。箱の中には美しい首飾りが入っていて。
(……誕生日、覚えていてくださったのね)
今日はラティーシナの誕生日だった。
照れくさそうに頬を赤くしたエリファレットを見て、胸がきゅうと締め付けられる。ラティーシナは本を置き、彼に抱きついてありがとうと感謝を口にした。
――そんな風に、夫婦として少しずつ仲良くなり始めたころ、事件が起きた。
ルゼットとエリファレットが、3人の王子の出生について話しているのを聞いてしまったのだ。
「イーサンが最近、死んだ第2妃にますます顔が似てきた。……なんと忌まわしい」
「親子ですからね。……国王陛下はなぜあいつを婚外子として王宮に置いたのでしょうか」
「決まっている! 私から我が子を守るためだろう。そしていずれ私を廃位し、肝心な王位はイーサンに渡す魂胆なのだ」
ちょうどその日、エリファレットの私室にルゼットが訪れていた。扉の外で話を盗み聞きしていたラティーシナは、その事実に戦慄する。
(そんな……。エリファレット殿下とカーティス殿下が、国王の弟の子で、イーサン殿下が本物の王位継承者だったなんて……)
重大事実を王家が隠蔽していたのだ。イーサンは婚外子として、王妃を中心に強く迫害されていたが、それは不貞への嫌悪ではなく、王位を奪われるかもしれないという脅威から来ていたのだと理解する。
この事実が知れたら、とんでもない混乱が生じることは間違いない。正統な王位継承者を迫害してきたエリファレットまで非難されるのはもちろんのこと、もしかしたら、王家に対する民衆の信頼そのものが揺らぐことになるかもしれない。
(聞かなかったことにしなくては……)
早くここを立ち去り、今耳にしたことは決して他人に話さずにいよう。知ったことがあの王妃にバレたら、何をされるか分からないから。それなのに、足が竦んで、床に縫いつけられたように動けない。
呆然と立ち尽くしていると、ふいに人の気配を感じてこちらを見たルゼットと目が合い、盗み聞きしていたことを知られてしまう。
ラティーシナは私室の中に引きずり込まれた。
「すぐにその者を殺すのだ! エリファレット!」
「申し訳ございません、どうかお許しを……! 全て聞かなかったことにいたします。決して口外せず、胸に秘めたまま墓場まで持っていくことを誓いますから……!」
「信用ならぬ! 今まで……秘密を知った者は全員殺してきた。王子の妃だからと言って、お前だけを許すことはできぬ」
床に手を着き、必死に命乞いをするが、取り付く島もなかった。
すると、傲慢で他人を見下してばかりだったエリファレットが跪き、ルゼットの隣で初めて頭を下げた。
「……どうか、彼女の命だけは助けてやってください。なんの罪もない娘です」
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