【完結】嫌われ者の王子様へ。契約結婚には相応の見返りを要求します。

曽根原ツタ

文字の大きさ
44 / 52

44

しおりを挟む

 こういうときは、嘘でも軽いと答えるのが礼儀なのに、正直にものを言うところは彼らしい。ラティーシナが不機嫌に頬を膨らませると、「むくれるな」とまたからかうように笑った。
 医務室にラティーシナを運んだあと、彼は手当までしてくれた。ソファに腰を下ろし、足に湿布を貼ってくれている彼の姿を眺めると、顔を上げた彼と視線がかち合う。

「俺がこういうことをするのが意外だったか?」
「えっと、あの……はい。……お優しいところもあるのですね」
「……!」

 褒められて照れたのか、エリファレットの頬がわずかに赤くなる。

「別に、優しくなんてない」

 一瞬見せた子どもっぽい姿がいじらしくて、もっと冷酷なだけの人だと思っていたという言葉は喉元で留めた。

「あまり私のことを避けないでくださいませ。でないと……私が王妃様に叱られてしまいますので」
「……考えておく」

 手当てはしてくれたが、そっけなく返事をしたまま医務室を出て行ってしまった。けれどこのときに、少しだけエリファレットへの印象が変わった。

 その日から、2人の関係性は少しずつ変化していった。相変わらず、エリファレットは横暴で素行が悪かった。しかしラティーシナだけには、優しさを向け心を開くように。

「殿下……! 昨晩、国宝の壺を割ったとお伺いしましたよ……!」
「ラ、ラティーシナ……! それは、違うんだ。訳があって……。わざと割った訳ではない!」
「それはそうでしょう。千鳥足になるまでお酒を飲まれたのですからね……!」
「……次は気をつけるから」

 教育係として、厳しく叱責する。エリファレットは子どものころから甘やかされ、叱られることなく育ってきた。だからここまで自由奔放でろくでもない人に育ってしまったのだろう。

 ラティーシナは教育係だけではなく、彼の妻であった。どんなに遊び回っても、夜更けにはラティーシナの部屋に戻ってくる。

「今何時だとお思いですか」
「またそんな大衆小説を読んでるのか」
「話を変えないでください。……これは今一番人気のウェンディ・エイミス先生の本なんですよ? 読みますか?」
「俺はいい。興味ないからな」

 すると彼は、背中に隠していた小さな箱を取り出してこちらに渡した。箱の中には美しい首飾りが入っていて。

(……誕生日、覚えていてくださったのね)

 今日はラティーシナの誕生日だった。
 照れくさそうに頬を赤くしたエリファレットを見て、胸がきゅうと締め付けられる。ラティーシナは本を置き、彼に抱きついてありがとうと感謝を口にした。

 ――そんな風に、夫婦として少しずつ仲良くなり始めたころ、事件が起きた。
 ルゼットとエリファレットが、3人の王子の出生について話しているのを聞いてしまったのだ。

「イーサンが最近、死んだ第2妃にますます顔が似てきた。……なんと忌まわしい」
「親子ですからね。……国王陛下はなぜあいつを婚外子として王宮に置いたのでしょうか」
「決まっている! 私から我が子を守るためだろう。そしていずれ私を廃位し、肝心な王位はイーサンに渡す魂胆なのだ」

 ちょうどその日、エリファレットの私室にルゼットが訪れていた。扉の外で話を盗み聞きしていたラティーシナは、その事実に戦慄する。

(そんな……。エリファレット殿下とカーティス殿下が、国王の弟の子で、イーサン殿下が本物の王位継承者だったなんて……)

 重大事実を王家が隠蔽していたのだ。イーサンは婚外子として、王妃を中心に強く迫害されていたが、それは不貞への嫌悪ではなく、王位を奪われるかもしれないという脅威から来ていたのだと理解する。

 この事実が知れたら、とんでもない混乱が生じることは間違いない。正統な王位継承者を迫害してきたエリファレットまで非難されるのはもちろんのこと、もしかしたら、王家に対する民衆の信頼そのものが揺らぐことになるかもしれない。

(聞かなかったことにしなくては……)

 早くここを立ち去り、今耳にしたことは決して他人に話さずにいよう。知ったことがあの王妃にバレたら、何をされるか分からないから。それなのに、足が竦んで、床に縫いつけられたように動けない。

 呆然と立ち尽くしていると、ふいに人の気配を感じてこちらを見たルゼットと目が合い、盗み聞きしていたことを知られてしまう。
 ラティーシナは私室の中に引きずり込まれた。

「すぐにその者を殺すのだ! エリファレット!」
「申し訳ございません、どうかお許しを……! 全て聞かなかったことにいたします。決して口外せず、胸に秘めたまま墓場まで持っていくことを誓いますから……!」
「信用ならぬ! 今まで……秘密を知った者は全員殺してきた。王子の妃だからと言って、お前だけを許すことはできぬ」

 床に手を着き、必死に命乞いをするが、取り付く島もなかった。
 すると、傲慢で他人を見下してばかりだったエリファレットが跪き、ルゼットの隣で初めて頭を下げた。

「……どうか、彼女の命だけは助けてやってください。なんの罪もない娘です」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

愛人の生活費も、お願いします 〜ATM様、本日もよろしくてよ〜【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
政略結婚で結ばれた王子ザコットと、氷のように美しい公爵令嬢ビアンカ。だが、ザコットにはすでに愛する男爵令嬢エイミーがいた。 結婚初夜、彼はビアンカに冷酷な宣言を突きつける。 「お前を愛することはない。俺には愛する人がいる。このエイミーだ」 だが、ビアンカは静かに微笑み、こう返す。 「では、私の愛人の生活費も、お願いします」 ──始まったのは、王子と王子妃の熾烈な政略バトル。 愛人を連れて食卓に現れるビアンカ。次々と辞表を出す重臣たち、そしてエイミーの暴走と破滅……。 果たして、王子ザコットの運命やいかに!? 氷の王子妃と炎の愛人が織りなす、痛快逆転宮廷劇! ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 コメディーです。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

婚約破棄されたので契約を終了しただけですが? ~王国が崩壊したのは私のせいではありません~

しおしお
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 王太子レオナードは突然、婚約者である公爵令嬢アデリーナとの婚約破棄を宣言する。 隣に立つのは、涙を流す義妹ミレイナ。 「お姉様に虐げられてきました」と訴える彼女の言葉を、貴族たちは信じてしまう。 悪女として断罪され、追放を宣告されるアデリーナ。 だが彼女は怒りも悲しみも見せず、ただ静かに微笑んだ。 「承知いたしました。では――契約を終了いたします」 その一言が、すべての始まりだった。 公爵家による融資、貿易、軍需支援。 王国を支えていたすべてが、静かに停止する。 財務は崩壊し、軍は止まり、商人は離反。 王都は混乱に包まれていく。 やがて明らかになる義妹の嘘。 そして王太子の責任。 すべてが暴かれたとき、二人を待っていたのは―― 完全な破滅だった。 一方アデリーナは、隣国で静かな紅茶の時間を過ごしていた。 これは、 婚約破棄された公爵令嬢が“何もしなかった”ことで始まる、 王国崩壊と地獄のざまぁの物語。 ――その報告書を、彼女が読むことは一度もなかった。

白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。 だが彼女は泣かなかった。 なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。 教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。 それは逃避ではない。 男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。 やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。 王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。 一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。 これは、愛を巡る物語ではない。 「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。 白は弱さではない。 白は、均衡を保つ力。 白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

処理中です...