人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖

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第三部 小さな国の人質王子は大陸の英雄になる

第62話 罠を発見

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 帝国統一歴531年6月2日。

 都市ビスタを占拠している王国は、もぬけの殻の都市を入念に探索していた。
 民家の家具や店の商売道具などは、そのままの形で放置してあって、生活感が残っている。
 でも、屯所や城壁の上などの兵士が使うだろう場所の物は無くなっていた。
 しかしそれでも、重要な資料などがないか。
 スクナロが住んでいた場所や、兵舎などをくまなく探してはみたが、やはり王国が使えそうなものは全て処分されていた。
 前回までの戦争資料はあるのに、今回の戦争資料だけはどこにも置かれていなかったのだ。

 スクナロのお屋敷の中でドリュースはまだ粘っていた。
  
 「あとは、ここしかないと思ったんだがな。情報が残っているとしたら、ここにあるかと」
 「閣下」
 
 スクナロの椅子に座るドリュースは、呼ばれたので部屋のドアを見た。

 「どうした?」
 「寝室に地図がありました」
 「地図? それがどうした? そんなものは我らだって持っているだろう。報告に値する価値のある地図なのか?」
 「それは私には分かりませんが・・・我々が調べた地図とは、違いがありまして。気になる部分があるので閣下に報告しろとゴレード隊長が・・・」
 「そうか。見に行こう」

 違いが気になったドリュースは歩きだした。
 目的地に向かう途中も報告を聞く。

 「それで、何が違うんだ?」
 「それが、普通の地図とは別の。とある線が書かれているようで」
 「線? 何のだ?」
 「水路でもないようなのです。都市の外に繋がっているので」
 「・・・都市の外だと?・・・まさか」

 何かに気付いたドリュースは早歩きになった。


 ◇

 「ゴレード!」
 「閣下。こちらを」

 報告は部下がしたはずだから、自分は同じことを言わなくてもいい。
 無駄のないゴレードは地図を見せる。

 「う・・・こ、これは」

 ドリュースは地図を見て驚いた。

 「閣下、この地図。この都市の地下道の設計図では?」
 「そうか。これで逃げたのか・・・東に逃げるための連絡路があったのか」
 「はい。それで私の部下をここに出しました」
 「そうか。仕事が早いな。よくやった」
 「いいえ。当然な事なので」

 謙虚な男は、褒め言葉を受け取らない。

 「しかし、このうっすらと消されているような痕・・・この線、変だな」
 「ん? 閣下?」
 「この線。北にも伸びているぞ。ほら。よく見てくれ。薄く線が残っている」

 ドリュースが指差した位置は、ビスタの中央からやや北西。
 広場から北に伸びる線であった。

 「まさか。ここにも道があるのでしょうか?」
 「・・・二段構えだったのか。ゴレード。お前も見に行くか?」
 「はい。いきましょう」
 「よし。確認だ」

 ドリュースとゴレードは、地図に示された二か所に行った。

 ◇

 太い線で描かれた東の道は、実際に存在した。
 都市中央の作戦司令部の下。
 そこに東へと続く道が存在した。
 入口は作戦司令部。出口は都市から三キロ先。
 これは連絡路というよりも脱出路であると推測される。

 「この道を利用して、民たちが脱出したか」
 「ドリュース様。そのようでありますね」
 「ゴレード。この道、かなり長い道だよな」 
 「そうですね。部下が往復するまでかなりの時間を要しました」 
 「それを民たちが文句は言わずに移動したってことだな。だったら。この都市、始めから負けることが前提であったのではないか」
 「?」

 ドリュースはこの道を移動する民たちを想像していた。
 急遽、移動をしてくれと言っても、民たちは納得しない。
 必ず文句が出てくるはず。
 そうなれば、脱出にも時間が掛かる。
 なのに、あの短い期間で逃げた。
 スクナロが城壁の上に現れている間にも、民たちが移動していたと仮定しても、あの日数で全てが移動することは不可能だ。
 皆が納得していなければ出来ない事だ。
 ならば、負けることが前提で動いていて、あらかじめ住民たちを納得させていたに違いない。
 思考型のドリュースは、相手の行動の計算をしていた。

 「・・・ということはだ。ここの奪還も計算しているのかもしれない」
 「閣下。この状況で奪還ですか?」
 「ああ、この道を利用して逆に包囲攻撃を完成させることが出来るだろう。内部侵入も簡単にできる。例えば、もっと近い位置にだ・・・・城壁の近く辺りに・・・もう一つ道があったりする。そうなれば、攻城戦のどさくさに紛れて侵入が容易に・・・」

 自分たちの上が城壁辺り。
 ドリュースは上と横の壁を見ていた。

 「ここらに、地図にはない。穴があったりするはずだ。別な道を作って侵入経路を作る。そうやってこちらの目を欺くつもりだろう。もしかしたら、あそこに地図が残っていたのも。そういう意味でわざと残して・・・」
 「なるほど。ビスタを攻める際に人を隠して、こちらに送り込ませるのですね」
 「そういうことだ・・・ん? あった。これだ。この壁」
 
 奥から風の音が聞こえる。脆い壁を発見した。
 ドリュースが叩くと、壁が崩れ落ちた。

 「あった。道だ。いくぞ、ゴレード」
 「はい」

 道の先にある階段の出口は、東門の扉の近くであった。

 「なるほど。ここから潜り込んでいく設定だったか。潜入してビスタを再度奪還。そんな作戦だったわけか」
 「だから敵は無血開城したのですか。この罠に嵌めるために?」
 「そうみたいだ。そしてもう一つ。私はあっちの線が気になっている。これがカモフラージュに感じるんだ。わざとこの道を発見させているように感じる」
 「ここがですか」
 「ああ。本命はあっちかもしれない。あの道を知られたくないと見た」

 ドリュースは同じように北も確認。
 地図に書いてある薄くなった線の位置に到着すると、同じような場所を発見した。

 「やはりだ。ここも侵入経路だ。こっちが本命だろう。あそこは気付かれる恐れがあるから、奴らは・・・こっちにも用意していた。そんな感じだろうな」
 「閣下。それだと、間抜けすぎませんか」
 「?」
 「地図を残すのがおかしい話になるかと。わざと残したのでは?」
 「確かに・・・変だな。これほど大掛かりな事を仕掛けているのに、おかしいな」

 ドリュースとゴレードは、北の地下道を歩きながら疑問に思っていた。
 敵が単純な罠を仕掛けるとは思えないし、こんなミスをして来るとも思えない。
 あからさまな場所に地図を置いていたことが罠。
 それが二人の答えだった。

 「閣下。ここにも脇道があります」
 「やはりこちらもか。東と北から攻める場所を作っていたということか」
 「閣下。ここは、他にも道があるかもしれないので、私が調べておきましょう。奴らの罠がここの二つだけなわけが無いでしょうから、実は四方にも道があったりするのかもしれません」
 「そうだな。そうしよう。ゴレードに任せる。それと、ネアル王に連絡をして、人を連れてこよう。王都かギリダート。そのどちらかに援軍を頼めば、帝国の攻撃を防ぎつつ、ここから反撃が出来るだろうからな。ここを帝国攻略の拠点にせねば」
 「そうですね。連絡を入れましょうか」 
 「ああ。頼む」

 ビスタ奪取の連絡から、ここでさらに追加の連絡を決断した。
 ドリュースが出したのは帝国攻略のための援軍の連絡である。
 しかし、これは自分たちの置かれている状況をまだ知らない連絡だ。
 
 彼らの最短の連絡距離は、アージス平原を横切り、ルクセント到着後、ギリダートまで北上してから、そのまま北へと進んで、パルシスまで行って、ガイナル山脈まで移動する事。

 しかし、これでは上手くいかない。
 なぜなら、ギリダートがすでに落ちているのだ。
 ドリュースがいくら次の手を考えても、伝わるまでに長い時間を要する。
 それは、連絡をネアルにしたくても、ギリダートを避けて北へと連絡しなければならず、大きく迂回をしなくてはならない。
 そうなると時間が掛かる。
 だから、王国側にビスタを取ったという利点が生まれなかった。
 この先の行動が上手く取れない。
 彼らは、待つしか出来なかったのだ。

 ◇

 これが、フュンの考えたギリダートの攻略の意味である。
 左右の戦場の分断。
 これが可能になるには、ギリダートがこちらの手にある事。
 王国がたとえ大都市ビスタを手に入れても。
 大平原アージス平原を手に入れたとしても。
 アーリア大陸中央南を完全に掌握していても、連携が取りにくいのであれば、これらを取った意味がない。
 大陸中央にある湖の方が利用価値が高いのだ。
 ここに来て帝国と王国との連絡速度にも違いが出て、全体の連携は帝国の方が遥か上となる。

 これが、フュン・メイダルフィアの仕掛けた罠。
 大陸の地図から描き出された仕掛けは、帝国が、情報戦略において、全てが上となる作戦だった。
 戦争を勝つには、何よりも情報が大事だ。
 これが、師であるミランダから教わった大切な教えである。
 端の二つの地域を奪われても、大陸中央のギリダートとフーラル湖があれば十分。
 フュンの作戦の真の意図は、ここにあったのだ。
 
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