人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖

文字の大きさ
514 / 740
第三部 小さな国の人質王子は大陸の英雄になる

第189話 アインとジルバーン

しおりを挟む
 アーリア歴元年9月22日

 この時期になっても、生徒たちの自己紹介付きの挨拶が終わらなかった。
 そのためにアインの顔は、げっそりとやせ細っていた。
 疲れがピークだったのだ。
 どこかのタイミングで、休ませてくれれば、多少は回復するかもしれないと思いながらも、子供たちを軽くあしらう事はせずに、アインはなんとかしてやりくりをしていた。

 授業前。

 「これは・・・さすがに・・・厳しい」
 「やっぱり、ここは私が!」
 「いえ。駄目です。せっかくお友達も出来たのでしょ」
 「まあ、いますけど。アイン様がこんなに苦しんでいるなら、お手伝いしますよ」

 ルライアはこの一カ月近くで隣のクラスに友人が出来ていた。
 キリ・ミースという一般人の女の子で、ちょっと変わった女の子と知り合った。
 ルライアも変わっているのでちょうどよいのである。

 「いえいえ、大丈夫・・・何とかします」

 その子の為にも、ルライアの為にも、アインは一人で頑張る事にしていた。
 もしここで手伝ってもらったら、二人も巻き込まれ事故に遭うだろう。
 優遇とみられ、下手をすればいじめに発展するかもしれない。


 ここで二人の後ろの席にいる青年が話しかけてきた。
 突然の事に驚いて、二人で同時に振り向く。

 「おいおい。そこの少年」
 「は、はい?」
 「顔色が悪いけど、保健室に連れて行ってやろうか」
 「いや、大丈夫です。平気です」
 「いやいや、平気そうには見えないぞ。俺が連れて行ってやろう。ちょっと君。次の授業内容さ。あとでノートを見せてくれないか。いいかな」

 青年は、ルライアにノートを見せてほしいと言った。

 「あ、いいですよ。書いておきますね」
 「ありがとう。じゃあ、行こうぜ少年」
 「いや、大丈夫ですって」
 「いいからいいから、俺が連れて行ってやるって」

 青年はアインの手を引っ張っていった。


 ◇
 
 教室を抜けて、廊下を歩き、階段を登る。
 二階が教室だった彼ら。
 保健室は一階なのに、階段を登っていった。

 「ちょ・・・保健室なら下ですよ」
 「いいのいいの。ある意味保健室さ。心を癒しに行くのさ」
 「え? どういうことでしょうか」

 アインは手を振りほどくこともせずになすがままに階段を登っていく。
 屋上にまでやって来た。

 「どうよ。最高の景色だろ。あっちを向けば、デカい城だぜ。良い城だ。カッコいいからな」 
 「え・・ええ。そうですね」
 
 お城の見える北の方角を向いて二人で座った。

 「あんた。王子なんだって」
 「え? あ、はい」 
 「そうか。だからそんなに挨拶だらけだったんだな」
 「え。まあそうですね」
 「大変だったな」
 「いや、平気ですよ」
 「ん。そうは見えないぞ。辛そうだ」

 顔色の悪い事を把握している。 
 だから、この人は他とは違う。
 アインはそう思った。

 「俺は、ジョー。あんたは?」
 「僕はアインです」
 「アインか。大変だな。王子ってのは」
 「いえ」
 「俺も、親父がちょっと変わっててさ。それと、お袋の方がかなり変わってるからさ。俺が住んでるところじゃ、大変だったんだ」
 「そうなんですか」
 「ああ。だからさ。あんたの親、王だろ。なんとなく気持ちがわかるよ。でもよ。なんであんたさ。彼女の提案を受けないんだ? あの子、あんたを助けようとしてたじゃないか」

 ジョーは、後ろの席で、ルライアの言葉をずっと聞いていた。
 助けようと何度も声を掛けてくれているのに、毎度アインが断っていた。
 
 「ええ。それはですね。彼女にあそこで救ってもらうと、彼女を巻き込みます。そうなると彼女の学校生活に支障が出ますからね。僕は僕のせいで、誰かが不幸になるのが許せない」
 「そうか・・・なるほどね。そういう意図があったのね」

 ジョー。
 ことジルバーンは、このフュンからの任務では、アインの観察だけで済まそうとしていた。
 でも、彼の学校生活があまりにも厳しいので、救いの手を差し伸べてしまった。
 さらに、自分が救われそうな策が目の前にあるのに、彼がその選択を取らなかったことで、アインの心の根っこの部分を知りたいと思ったのだ。
 
 「それで、なぜあなたは僕をこんなところに連れ出したんですか」
 「あ? いや、いい景色を見て、気分転換よ」
 「え?」
 「いいか。あんたの顔色の悪さも気分から来るものさ。だから、心を変える事に徹する。そして、ひっきりなしに挨拶に来る連中に会わなくても済むのはここだけ。それにだ。いつも同じ環境に閉じこもってばかりじゃ、良い作戦は浮かばないのよ」
 「作戦ですか」
 「そう。それで。俺はこれをプレゼントしようと思う」

 ジルバーンは、アインの首に立て札を掛けた。
 
 「これ、なんですか?」
 「いいか。ここにこう書く。挨拶に来た奴から、顔も名前も覚えてやらない。これでどうだ」
 
 ジルバーンはペンで大きく字を書いた。

 「は?」
 「挨拶に来たらこれを見せな。あんたの顔も名前も覚えねえぞって宣言だ。顔も名前もさ。普通は、こっちから覚えるものだしさ。それによ、名前とか顔ってさ。押し付けられて覚えられるわけがねえんだよな。無理無理」
 「たしかに・・・そうですね」
 「そうだろ。覚えるのってのは大変な事なんだぜ。俺は無理。ここはさ。五千人もいるんだ。一人一人覚えていたら脳みそが爆発しちまうぞ」
 「ふっ。たしかに」
 
 アインは久しぶりに笑顔になった。
 ルライア以外で、この学校で普通に会話することなどなかったのだ。

 「だから、もっと楽に考えよう。あんた。王子だけど。もう少し、自分の方に、事を寄せて考えていいはずさ。立派な王になるのもいいけど、その前に一人の人間として、今を楽しまなきゃな。せめて、ここではさ」

 学校に通う間だけでも、王子じゃなくアインでいるべき。
 ジルバーンはそう考えていた。

 「それにあんた、この三年が終わればさ。嫌でも王子に戻るんだ。だから、ここでは王子の肩書きは忘れた方がいいぜ。あの子の手助けも得た方がいい。それで彼女が辛くなったと彼女が言って来たらその時考えればいいのさ。だって彼女が友達になってくれるんだろ。だったら、良いじゃないか。五千の他人より、一人の友達。だろ!」
 「そ。そうですかね。王となる者が・・・それでいいんでしょうか」
 「まあ、王とか王子としてだと、良くないだろうけど。でもここは学校だ。学生の時は学生の考えでいいはずさ。あんたが学生から王子に戻ったら、この考えを捨てればいいだけ。五千人も大切にしていこう。臨機応変さ」

 考えをコロコロ変えろ! 
 安易な言い方に、アインは笑う。

 「ふふっ。発想が柔軟ですね」
 「そう。物事は一面を見ちゃ駄目だ。裏もある。表もあるけど、横もあるし、斜めもあったりする・・・ということよ」
 「なるほど。多角的に見ろ。ということですね」
 「そういうこと」 

 ジルバーンは言い切った後に大の字になって寝そべった。
 空を見ていた。

 アインはジルバーンの言葉に納得した。
 面白い人がいたものだと一緒になって横に寝そべった。

 「どうよ。空が綺麗だろ。今日もさ」
 「ええ。そうですね」
 「だから、明日も綺麗だといいじゃん」
 「はい」
 「でも、突然雨になったりするからさ。今。この時。この瞬間を楽しんだ方がいいんだぜ」
 「なるほど」
 「だから、仕掛けよう。俺と彼女が、アインのそばにいてみようか」
 「え?」
 「お昼休憩になったら、教室に戻ろうぜ。保健室に行ってた感じで戻るぞ」
 「あ。はい」

 嘘をつけるかと心配になったアインであった。
 正直者の彼には難しい指令である。
 

 ◇

 お昼。

 教室に戻った二人は、ルライアの元に戻る。

 「ルライアさん。僕のそばにいてもらってもいいですか」
 「はい。いいですよ。私がおそばにいましょう」
 
 ルライアは、すぐに承諾してくれた。
 元々彼女はアインが頼ってくれるのを待っていた。

 「やっぱそうだよな。じゃ、俺はジョー。あんたはルライアだったな。ルライアちゃんでいいな」
 「はい。そうです」
 「それじゃあ、ルライアちゃんの友達もいいかな。仲間は多い方がいいんだ。いいかな。敵がこちらに来た時に、追い返せる確率が上がるんだよね」

 敵って・・・学友では?
 と思うアインは横目でジルバーンを見た。

 「いいですよ。彼女の所に行きましょう。隣のクラスです」
 「おう。いこうぜ。アインも来いよ」
 「は、はい」

 三人で隣の教室に行った。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

処理中です...