72 / 136
72.可愛いは増殖します。
しおりを挟む「おお、ホットビスケット。これはもしかして、ローズマリー嬢が?」
皆さまがお持ちの知識から、テオとクリアが聖獣であることは間違いないと思われるけれど、今のテオとクリアは伝承にある聖獣のように闘いに特化しているわけでもなく、身体も小さいことから<断定不能により様子見>という結論に至った。
そもそも最初から、お父さまたちだけでなくパトリックさまもウィリアムも、テオとクリアが聖獣だと認識していたようだったけれど、私の頭のなかは疑問符でいっぱいだった。
なぜ、そもそも実在しない聖獣を、皆さんは普通に存在し得るものとして話ししていらっしゃるのか。
先ほどから話にのぼる<伝承>とは、一体何なのか。
私の知っている聖獣の知識と、皆さまの聖獣の知識は違う。
何も判らないながら、聞いているうちに私はそんな結論に至った。
そして話が一段落したところで、よろしければお茶を、と言った私の案を喜んで受けてくださった皆さんが、今のテオとクリアは幼生なのかもしれない、と話しつつソファに落ち着いてすぐ、ウェスト公爵がテーブルに用意したホットビスケットを見て声をかけてくださる。
「はい、そうです。恥ずかしながら、わたくしがお作りしました。お口に合うとよろしいのですが」
「おお、そうか。これが、パトリック悲願のローズマリー嬢のホットビスケット、か。そうか、そうか」
言えばウェスト公爵が感慨深そうに、けれど何故か可笑しみを堪えるように言ってパトリックさまをご覧になった。
「へえ。ローズマリー手作りの菓子が、パトリックの悲願ねえ」
「ホットビスケットに拘っている、という所が、な。まるで、ローズマリーにとってホットビスケットが特別な菓子だ、と知っているかのようで不思議だ」
頷き言い合うお兄さまとお父さまは、なぜか不機嫌そうにパトリックさまをちらりと見遣る。
「ローズマリーのホットビスケット、絶品ですよね。おふたりは、その他の菓子についてもよくご存じなのでしょう?とても羨ましいです」
そんなふたりに対し、パトリックさまも殊更貴族的な笑みを貼り付けて応戦している。
な、なぜ!?
確かに、パトリックさまとは最近までお会いすることはなかったので、パトリックさまが、ホットビスケットは私が最初に作れるようになった特別なお菓子、と承知されている様子が私も不思議だったけれど、それは先日解決済み。
「何をおっしゃっているのですか。パトリックさまにお話しされたのは、お父さまなのでしょう?」
なので、確信の笑みをもってそう言ったのだけれど、お父さまには苦笑されお兄様には何故か頭を撫でられた。
え?
違う、ということ?
え?
それでは、パトリックさまはどうやって?
てっきりパトリックさまの”からくり”はお父さま絡みだと思っていた私がくるくる考えていると、お父さまが小さく息を吐いた。
「まあ、それは本人から直接聞くといいよ」
「ありがとうございます、侯爵閣下」
そして、お父さまの言葉に何故かパトリックさまがお礼を言う。
その顔は、さきほどまでの貴族冷戦仕様でない、心の籠ったものだと分かって私は益々混乱するけれど、お父さまの目を見て、私はそれ以上聞くのをやめた。
こういう目をしたときのお父さまの決定は、何があっても覆らないのをよく知っているから。
「賢明だ、ローズマリー。そんなローズマリーにご褒美だ」
「ご褒美、ですか?」
「ああ。今回、テオとクリアのことを何故サウス公爵令嬢やアーサー殿下にも話ししてはいけないのか教えてあげるよ」
言われ、私は姿勢を正す。
「それに、聖獣のことを私達が普通に話すのも不思議だったのだろう?可愛い瞳がきょときょとしていたからね、父様にはお見通しだ」
にこにこと言われ、はっとして皆さんを見れば、全員お父さまと似たような目で私を見ている。
「俺の妹は本当に可愛いな」
そんな私にお兄さまは頓珍漢な事を言うけれど、それどころではない。
「未熟で申し訳ありません」
貴族令嬢としては失格だったと頭を下げれば、ウェスト公爵が鷹揚に首を横に振った。
「身内なのだから、気にすることは無い」
「ああ。むしろ可愛い姿をたくさん見られて嬉しい」
すると娘も欲しかった、と常々言っているウィルトシャー侯爵も微笑んでくださる。
それに甘えてはいけないのかもしれないけれど、おふたりの言葉に逆らうのも良くないというお兄さまの言葉にお父さまも皆さんも頷いていたので、有り難く頷かせてもらった。
夜会などでは、気合を入れるようにしないと。
思いつつ私は、お父さまたちの説明を聞くべく、改めて姿勢を正した。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる