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二十九、
「・・・やっぱり、強い」
主審役の教師の合図で始まった、騎馬戦の最終戦。
それは、ここまで無敗同士の闘いというだけあって、激戦となった。
互いの気迫がぶつかり合い、怒号が飛び交う。
「みんな!雅のために、頑張って!」
そんななか、相も変わらずなことを叫んでいるのは、須田雅。
だが、須田雅のクラスの誰も、その呼びかけに答えることは無い。
しかし、須田雅がまがりなりにも自分のクラスを応援しているのだからと、薫もチアとしての役目を思い出し、薫も声を張り上げた。
「みんな!優勝目指して前進!目の前の敵を撃破すること考えて!」
なあんて、なかなかに無神経だよな。
俺は、陣の一番奥、しかも、騎乗しているだけの分際で。
「うおお。かおちゃんの激で、みんなの動きが更によくなった」
けれど、そんな風に自嘲する薫に対し、水原が流石と声をあげる。
「いや。俺、何もしてねえし」
「薫は、その姿でここに居るのが役目だ。さっきもそう言っただろ?」
「そうだぞ、舞岡。大将は、どんと控えているものだ」
苦笑しかできない薫に、将梧と門脇も大将なのだからそれでいいと、本気の声をかけ、激戦が繰り広げられているそのさまを、真剣な瞳で見つめた。
薫のクラスメイト達は一様に強く、これまで通り果敢に攻め込んでいくが、思うように敵騎馬を撃破できずにいる。
「あっ、司馬くんが落ちた!」
その時、挟み撃ちに遭った一騎が崩れ、騎乗していたクラスメイトが落ちるのを見て、薫は浮足だった。
「大丈夫だ、薫」
「だけど、将梧!」
「舞岡、よく見ろ。司馬も無事だ」
将梧に落ち着けと言われ、門脇に冷静に指摘されて見てみれば、確かに落下した司馬が力強く立ち上がるのが見える。
「大きな怪我は無さそうだね。すっごく悔しそうだけど」
水原もそう言って、小さく笑う。
「な、なあ。俺たち、ここに居るだけでいいのかな?もう少し、前に出て相手を引き付けるとかしなくていい?」
それでも、時間が経つにつれ敵味方問わず崩れ始めた騎馬を見て、薫は落ち着いていられなくなった。
少しでも役に立ちたい。
もちろん、大将なのだから猪突猛進して落とされるようなことはしてはいけないけどと、そわそわ体を動かした。
「落ち着け、薫。今、薫がすべきなのは自ら出て行くことじゃない。みんなを、力強く応援することだ。信頼していると、心を込めて」
「・・・将梧」
薫の足を掴む手に力を籠め、大丈夫だと伝えると共に今薫が真にすべきことを伝える。
「舞岡。その時が来たら、俺達も打って出る。歯がゆいだろうが、時期を待つのも大将の役割だ」
「大丈夫だよ、かおちゃん。大将同士の一騎打ちになっても、俺らは負けない」
そして、門脇と水原も、自らの手に力を籠めた。
「うん。分かった。その時が来るまで、俺は俺がやるべきことをするよ」
その時求められる役割を果たす。
そう改めて誓って、薫は声を張り上げた。
「囲まれないように!なるべく動き続けて!」
足を止め、一騎打ちをしている相手ではない敵騎馬に後ろを取られる。
逆に言えば、それが相手の戦略なのだろうと、そんな戦略に自クラスは負けないと、薫は血を滾らせる。
「薫。そろそろ出るぞ」
「ああ。舞岡の手で、幕引きをしろ」
「かおちゃん、俺の体、蹴っ飛ばしても文句言わないから」
それぞれに言葉を紡ぎ、大将騎である薫の騎馬三人がゆっくりと動き出した。
前方には、奇しくも敵味方二騎ずつ残った騎馬と、薫達と同じように動き出した大将騎。
騎馬二騎は、互いに激しく争い合い、一歩も譲らず自身の大将騎を護る。
「舞岡!無理でも無茶でも、相手を倒せ!」
井田が叫ぶと同時、井田と田上の騎馬に騎乗している長谷が、対峙していた敵の騎乗者を咆哮と共に落とした。
しかし同時に、残っていた別の一騎が崩されてしまう。
「舞岡くん!大将落としちゃって!門脇くん、秋庭くん、水原くん、頼んだよ!」
すかさず、残った一騎同士でぶつかり合い、簡単には大将騎へ近づけないよう猛攻が始まった。
「凄い。ここまでもずっと、戦ってたのに・・・次は、俺の番だね」
そんな激戦を見つめ、薫はゆっくりと既にリタイアしているクラスメイト達を見た。
みんなの目が、信頼をもって薫を見つめ返す。
その事実に、薫は、自分のなかに力が湧くのを感じた。
「行くよ」
「ああ」
「分かっている」
「うん。行こう」
薫の言葉に三人も頷き、ゆったりとした動きから急激な速さで走り出す。
「え!?ちょっと、なんで雅まで戦わないといけないわけ!?おかしいでしょ、姫が闘うなんて!」
一方の須田雅は、薫たち同様、自分の騎馬が動き出したことに対し、不平を叫んで暴れ始めた。
「よし、薫。チャンスだ」
「須田!しっかり戦え!自分が真の姫なんだろ!?」
「そうだぞ、今なら自分で証明できるぞ」
将梧が、勝機だとにやりと笑い、須田雅の騎馬たるクラスメイトが怒鳴る。
「うわあ、心にもないことを」
「みんな、須田の扱いを心得ているんだな」
『姫だなんて、少しも思ってない顔して言ってる』と水原が苦笑し、門脇が感嘆の声をあげた。
「いや、これだけのスピードで走りながら、余裕すぎるでしょ!?」
騎乗しているからこそ分かる速さで、相手大将騎を翻弄するように走りながらの会話に、薫が呆れた声を出す。
「ふんっ。雅が真の姫なんて、当たり前だけど!舞岡薫!雅にさっさと負けちゃって!雅がみんなを跪かせるんだから!雅は姫!これ絶対!」
そして、俄然やる気になった須田雅が、好戦的な目を薫に向けた。
「俺だって、負けない!・・・姫は、どうでもいいけど!」
須田雅に負けない、強い瞳で叫んだ薫が、果敢に須田雅へと手を伸ばすも、騎馬のふたりの動きは俊敏で、なかなか届かない。
「ちょっと!さっさと負けろってば!落ちろ!舞岡薫!」
しかし、その動きは将梧や門脇、水原も引けを取らない。
「舞岡!」
「舞岡くん!」
「舞岡にゃん!」
今や、クラスメイトだけでなく、観戦している他のクラス、学年までもが熱い声援を送るなか、薫は、一瞬、その喧騒が自分の周りから消えるのを感じた。
そして見える、須田雅の動き。
今だ!
「あっ!」
薫の動きを避け切れなかった須田雅の体がぐらりと揺れ、その好機を逃さなかった薫によって、完全に騎馬から落下させられる。
「わあああああ!」
「・・・・・・・勝った」
爆発するように起こった歓声のなか、薫は、騎乗でほっとしたのち、大きく拳を突き上げた。
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