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三十七、
しおりを挟む「・・・だまし討ち?」
「だって、そうだろ?みんなも扮装するって言うから、俺ひとり女装するわけじゃないんだって思ったのに、他の奴らは扮装は扮装でも、中世騎士とか王とか貴族男性とかって・・・あ!将梧、こっち。見つかるかもだから、俺の陰に・・は、無理だから、しゃがめ!」
薫。
可愛い。
ぷりぷり怒りながらも、将梧を狙うように歩いて来る人物がいれば、さり気なく方向を変えて、自分を護るように、体を大きく見せようとしながら歩く薫が可愛いと、将梧は蕩けるような目で薫を見た。
俺のためだと思うと、虚勢を張っている薫も、敵わない相手に挑もうとする子猫みたいで、すっごく可愛い。
「そう言われたら。薫からみたら、騙されたみたいなのかもしれないけど、嘘は言っていない。俺も、門脇も、他の奴らも扮装する」
俺を護ろうとする薫、子猫みたいですっごく可愛い。
それに、それが俺のためって、何のご褒美?
顔がにやけるのを抑える将梧に、薫が厳しい顔を向ける。
「うん。劇に出る人は、扮装するんだよね。だって、中世のお話だから。でもさ、なんで俺だけ女装なの?」
「姫役だから」
それしか言いようがない、と、淡々と答える将梧に、薫がいらっとした目を向ける。
「そうじゃなくて!他にも侍女とか王妃とか、どっかの令嬢とか!中世の話で姫が居るなら、そういった人達も普通なら居るだろって言ってんの!それなのに、なんで、登場人物のなかでの女性が、俺だけ・・姫役だけなんだよ!?」
姫が居るなら、その母親とか、お付きの侍女とか、更に言えば恋人役の貴族の母親とか姉妹とか、ライバルの王子の母親・・つまりは王妃とか、王宮の侍女とか、その他大勢の貴族令嬢とか居るだろうがと薫が叫ぶ。
「ああ。あの脚本では、侍女じゃなくて侍従だし、王妃は出て来なくて王だけだし、令嬢は出て来ないけど子息は出て来る、からじゃないか?」
『それが、どうかしたか?』とでも言いたそうな将梧の肩を、薫がぽかりと叩いた。
「だから!それがおかしいって言ってんだよ!・・・あ、まずい。大きな声出したから、気づかれた。将梧、こっち!」
大きな声を出してまったゆえに、折角撒いた相手に気付かれたと、しゅんとする薫は、耳の垂れた犬のようで可愛い。
「薫が、不満に思っていることは、よく分かった。だけど、脚本だから、仕方ない。それに、姫のドレスも、薫なら絶対に似合う。それが、俺は今から楽しみだ」
にっこりと将梧に言われ『なら、まあいいか』と思う薫はしかし、今、一番難点だと思う、伸びて来た髪・・特に気になるうなじ部分に手を伸ばした。
「・・・・・はあ。だからって、髪まで伸ばすとか」
体育祭の折、薫のヘアメイクをしたがっていた井田だが、屋外で気温もあがるなか、ウィッグを着けるのはどうかという話になり、ならばと短い髪に少々の飾りをつけることで、不承不承ながらも納得した。
『え。こっちのほうがいい』
しかし、下手にウィッグを着けるよりも、地毛を生かした方がずっと可愛く出来ると気づいた井田は、学園祭まで髪を切らないことを、粘り勝ちで薫に約束させた。
『絶対!俺が、世界一、可愛くしてやるから!』
『・・・はあ。分かったよ。もう、何でもやってやるよ』
その時は、やけ気味にそう言った薫だが、夏の暑さを前に自分の発言を後悔しているのも、また事実。
「薫は、長い髪も似合う。絶対に可愛い」
しかし、常日頃から、より可愛い薫を見ることに貪欲な将梧は、その薫の決断を全力で、間違いなどではないと応援する。
「はあ。可愛い、って。将梧は、そればっかだな」
「だって、事実だから」
「うん。将梧に言われると、からかわれているのでもないし、冗談で笑おうとしているのでもないってことは分かるよ」
『将梧が、本当にそう思ってくれていることは分かる』と、何故か自嘲気味に言われ、将梧は焦った。
・・・なっ。
薫は、そんなに姫姿になるのが嫌なのか?
いや、ひとりで女装するのが嫌なのか。
そのうえ、そのために髪を伸ばすという、この暑さのなかでの苦行・・・・。
「分かった。なら、俺も髪を伸ばす」
ならばと将梧は、今自分に出来る、自分が最大考えられる薫への寄り添いを、決意と共に口にする。
「え?」
「薫にだけ、辛い思いはさせない。俺も、髪を伸ばす」
「え?将梧?いきなり王子っぽくなって・・って。いや、確かに、学園祭の劇で、将梧は王子役だって聞いたけど」
きっぱりと言い切り、力強く薫の手を引いて次なる目的地へと歩き出す将梧に、今度は薫が戸惑いの声をあげた。
「ああ。俺は、王子役だ。だから、髪が長くともいいだろう」
にやりと笑って、他の者の声など潰すと言い切る将梧は本当の権力者・・王子のようで、薫は、うっかり見惚れてしまった。
え。
長髪の王子。
それが将梧って、なに。
すっごく格好いいんだけど。
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