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五十三、
「いっち、にい、さんっ、いっち、にい、さんっ」
絢爛たる舞踏会での、華麗なるダンスの練習・・のはずなのだが、そこには、優雅の欠片も無く。
目を血走らせ、必死に拍子をとる。
もはや何処かの荷運びではないかという様相の薫に、ダンスの練習相手である門脇が、ふっと笑みを浮かべた。
「薫・・いや、アンネマリー。足元だけでなく、俺のことも見てくれないか?」
「ふぇっ!?・・あ、ああ、ごめん!門脇!・・じゃなくって、マクシミリアン!?・・俺、ステップ覚えられなくて、足踏んでばっかり」
劇中にある舞踏会の場面のため、互いにパートナー役である薫と門脇がダンスの練習をしているのだが、これがなかなかうまくいかない。
「もっと、俺に任せてくれて構わない。絶対、転ぶような真似はさせないから」
力強く言う門脇は、確かにこれまでも安定の実力を発揮していて、薫は頼もしく見上げた。
「門脇は上手いよな。俺は、ちっとも上達しないのに」
「まあ、俺は慣れもあるから」
「ふおお。慣れ・・慣れかあ・・。社交ダンスに慣れてるとか・・。現代の王子、門脇。はあ・・凄い。っていうかさ。俺のこの靴、なんとかならないの?」
ため息を吐き、薫は自分の履いている靴を見る。
それは、舞踏会で履くような優美なものではないが、ヒールは細く、それなりの高さがあるので、薫は歩くだけでも苦戦を強いられていた。
「確かに。それを履いているだけで、薫は転んでしまいそうだものな」
「笑い事じゃないんだからな!」
ぷうっっと膨れる薫を見て、門脇は、ふと考え込む。
「ん?なに?何か、文句ある?」
真顔で自分を見つめる門脇に、薫は、やや挑発的な態度で虚勢を張った。
「いや。俺が、薫と呼んでも平気そうだから。嫌ではないのかと思っただけだ」
劇の稽古中、ふたりだけでダンスの練習を課せられた薫と門脇。
空き教室にふたりという状態で、門脇は、真剣な目を薫に向けた。
「ああ、なんだ、そっちか。何か、靴にも慣れない、ダンスも上達しない俺に、何か言いたいのかと思った」
明らかにほっとしたように言う薫に、門脇は、少し顔を寄せる。
「それで?薫と呼んでもいいか?」
「いいよ、別に。あ、条件がある!」
『なんだ、そんなこと』と、笑いながら言った薫が、そう言って楽しそうに門脇を見た。
「条件。なんだ?」
「俺も、門脇のこと名前で恭輔って呼びたい!」
『どうだ!?』とでも言いたそうな薫に、門脇は、一瞬目を見開いてから破顔した。
「望むところだ。薫」
「ふふ。そうかよ、恭輔」
「ではまず。靴をどうにかしてもらおう。姫が舞踏会に出席するのだから、それなりの靴が必要だろうが。映像を挟むにしても、やりようがある筈だからな」
ふたり楽しく笑い合ってから、門脇が真剣な目になって薫にそう提案する。
「え?じゃあ、最初からそう言ってくれたら、良かったんじゃないの?」
綾小路が『これで踊ってみて』と言って靴を渡して来た時から、薫は無理だろうと絶望的になっていた。
靴を替えることを提案してくれるのなら、あの時でもと、薫は思わずにいられない。
「ああ、いや。そうなのだが」
「そうなのだが?」
歯切れ悪く言う門脇に、薫は、ずいと身を寄せる。
「慣れない靴でよろける薫は、さぞかし可愛いだろうと・・いや、あの場に居た全員が、絶対にそう思ったと思う!」
「はあ!?それで転んだら、どうすんだよ!?」
「もちろん、全力で支える」
『そんな、無責任な!』と叫ぶ薫に、門脇は、真顔のまま答えた。
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