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続きの物語 ~今へと続く道~
13、特別任務
「ディア。僕たち三人とも、特別な倉庫の警護に選ばれたよ。しかも朔の日に」
その日の夕食の席でエルミニオが、レオカディア特製の調合スパイスで味付けされたチキンステーキを満足そうに食べながら、そう言った。
「流石ですね。入団して、未だひと月も経っていないのに・・って、あ!私、お父様に朔の日の話、していないわ!」
特別な倉庫の朔の日の警護は、殊更に特別な任務であるとは、あのイポルト情報で、それを聞いたレオカディアは、すぐさまエルミニオ達に報告、共有していたのだが、オットーには言い忘れていたと青い顔になる。
「それなら大丈夫だよ、ディア。今回、朔の日の特別警護の体調は義父上なんだ。それで、それとなくディアからの情報を告げてみたところ、既にご存じだったから」
そんなレオカディアに、エルミニオが心配ないと、力強い笑みを浮かべた。
「そうなのですか。ありがとうございます、エルミニオ様」
「いや。当然のことだ」
「だよなー。エルミニオ様、張り切ってんもんな。『義父上に認められる絶好の好機だ』って」
揶揄うように言うヘラルドに、セレスティノも頷いた。
「ああ。的を得ているのかいないのか。レオカディアの夫として認められたいのなら空回りだが、アギルレ公爵閣下本人に認めらるということならば、存分に存在を示せていると思う」
騎士見習いとしての実力は、オットーも認めているところだと聞き、レオカディアは嬉しくなった。
「仲良き事は、美しきかな、ってね。でも、気を付けてね。お役目は、夜なのでしょう?」
わざわざ朔の日。
新月の日を選ぶということは、先方も行動を起こすのは夜なのだろうと、レオカディアはエルミニオ達の身を案じる。
「ああ、夜だ。特別な船が到着するのだと、義父上が言っていた」
「特別な船、ですか?」
「船の積み荷も、倉庫の荷も、特別なものだそうだ・・いや、荷と言っては失礼か」
「エルミニオ様?どういう、意味でしょうか?」
惑うように呟くエルミニオを、レオカディアは不思議そうな目で見た。
「レオカディア。対象が人であるがゆえに、エルミニオ様は言葉選びに苦慮されているんだ」
「対象が、人」
「つまり。倉庫に入れられているのも、船で運ばれるのも、人ってことだ」
「え」
セレスティノの説明にも、今一つきょとんとしたままのレオカディアに、ずばりヘラルドが言い切り、レオカディアは目を見開いてしまう。
「どうやらアルモンテ侯爵は、人身売買に手を染めているようだ。そして脱税。いや、それ以外も色々悪事を働いているというのは、歴史で学んだ通りなのだが。過去のものとして学ぶのと、実際、その場に己が立つというのとでは、実感が違うものだと日々噛みしめている」
「エルミニオ様の言う通りだな。俺も、そう思う」
「ああ、俺もだ」
エルミニオの言葉に、セレスティノとヘラルドも大きく頷きを返した。
「そんな。人身売買だなんて。何とか、助けられないのでしょうか」
人身売買は、レオカディア達が生きている時代はもちろん、今のこの時代でも認められていない。
今この時にも、その被害に遭っている人たちがいると思うと、レオカディアは居ても立っても居られない思いに駆られた。
「安心していい、ディア。そこが、義父上の流石と思わせる手腕だ。既に手をまわしていて、被害者たちは無事、保護した」
「無事、保護した、って。エルミニオ様。そのおっしゃり方。もしかして」
「ああ。僕たちも、被害者の保護に関わった」
瞳を輝かせ言うエルミニオに、レオカディアは、思わずぽかんと口を開ける。
「レオカディア。そんな間抜けな顔をしていると、エルミニオ様の百年の恋も冷めるぞ」
「いいや、ディア。可愛いから、問題ない」
「はあ。痘痕もえくぼってやつだな」
口を開けたままのレオカディアにセレスティノが笑いながら言えば、エルミニオが真剣に返し、セレスティノが呆れた声を出した。
「まあ、何はともあれ。被害者は保護できている。そうだな。昨日、レオカディアが俺達の夕食を作ってくれている頃合いだったか」
「そんでもって、倉庫には代わりに騎士が潜んでいるというわけだ」
セレスティノとヘラルドの言葉に、レオカディアは、こくりと息を呑んだ。
「じゃあ、その日。今度の朔の日に、アルモンテ侯爵家の人身売買を暴くのですか?」
「義父上は、そのつもりだとおっしゃっていた。これで、アルモンテ侯爵家が母上に手を出すことはできなくなるだろう」
人身売買の現場を押さえ、更には脱税の証拠も示して一気にアルモンテ侯爵家を追いつめるのだと、エルミニオは毅然とした表情で言い切った。
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