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十二、学院入学
しおりを挟む「ああ・・・・ディア。本当に、最高に、可愛い」
その日。
いよいよ迎えた学院の入学式に共に出席するため、アギルレ公爵邸へレオカディアを迎えに来たエルミニオは、制服姿のレオカディアを前に、そう呟いたまま固まった。
はあ。
私相手に、蕩けそうな顔をしてくれちゃって。
・・・・・嬉しいけど。
嬉しいけど!
エルミニオ様の方が、ずっと格好いいから!
「エルミニオ様も、素敵です」
十五歳になり、王太子としても評価の高いエルミニオは、ゲームの攻略対象だけあって容姿も抜群に整っていると、レオカディアはきらきらと輝いてさえ見えるエルミニオを見つめる。
「可愛い・・・ディア・・・誰にも見せたくない」
「既に王城でも試着して、たくさんの方に見られていますから、今更です」
国王と王妃に乞われ、制服が出来てすぐ、レオカディアは制服姿でエルミニオと並んで国王と王妃の前に立った。
その際に多くの人に見られているのだからと、レオカディアは軽く流し、エルミニオを促して馬車へと移動する。
「ディア。学院では、僕の傍から離れないように」
「はい。エルミニオ様」
「うん。それでいい」
警備の問題からも、ふたりでなるべく一緒に居る方がいいとレオカディアも思いつつ、エルミニオの柔らかいはちみつ色の瞳を見つめた。
何か決定を下す時の凛々しい瞳も好きだけど、こうやって、やわらかくぽわわんとしている時の瞳も、好きなのよね。
「ディア?どうかした?もしかして、僕の顔に何か付いている?」
「いいえ。ただ、エルミニオ様の瞳、好きだなあって思って」
正直にレオカディアが答えれば、エルミニオの瞳が益々溶ける。
「好きなのは、瞳だけ?僕なんて、ディアの全部が好きだけど」
「私だって、瞳だけじゃなく・・・・っ。エルミニオ様、学院に着いたみたいです」
通学途中の馬車のなか。
朝から告白し合いそうになったところで、レオカディアは、見つめるエルミニオの肩越しに、乗っている馬車が学院の門を潜るのを見た。
いよいよ、始まるのね。
もし、本当にエルミニオがヒロインを好きになったら。
・・・・・・私、絶対に嫉妬するでしょうね。
今、こんなにも自分を大切にしてくれているエルミニオが、ヒロインに惹かれてしまうかも知れないゲーム「エトワールの称号」の舞台となる学院に、遂に来たのだと、レオカディアは複雑な気持ちになる。
でも、楽しむって決めたんだから。
そうして、色々な美味しい物を食べられるようになった、とレオカディアが楽しいことを思い返していると、エルミニオが、ふとレオカディアの髪をひと房、手に取った。
「ディアは、子供の頃から可愛かった。それこそ、世の中で一番きれいだと思う緑色の芋虫よりも。でも、こうして大人になっていくディアは、本当に羽化する蝶のようだと思う」
「エルミニオ様?芋虫って・・・。もしかしてあの、初めて会った時に見せてくれた、あれですか?」
まさかと思い尋ねるレオカディアに、エルミニオは綻ぶような笑みを浮かべる。
「そう。僕の宝物だからね。ディアには、どうしても見せてあげたかったんだ。今も、あの小屋で育てている。あれ以来、見せてあげられなくてごめんね。ディアも、王城に住むようになったら、一緒に育てようね」
あ、あの芋虫って嫌がらせじゃなかったの!?
宝物、って。
「エルミニオ様。今も、育てているのですか?」
「そうだよ。最初は、本当に好きなだけだったけど、父上から、何かひとつ国民のためにもなる事業を始めろと課題を出されてね。僕は、蝶に関する施設を作れたらと思っているんだ。蝶を放し飼いにする建物のなかに、花も一緒に植えて。娯楽施設だね」
「なるほど。お花と一緒に展示、っていう言い方も何ですけど、蝶と花なんて、貴族のご令嬢やご婦人方にも好まれそうです」
温室の花畑に蝶が舞う。
そんな光景を想像したレオカディアは、不意に蚕を思い出した。
「そういえば、絹の原料になる蚕の繭も、芋虫と同じように変化する生き物ですね」
「そうだね。まあ、蝶は羽化させるけど、蚕の繭はそれを絹に・・・・あ」
そこで、はっとしたようにレオカディアを凝視するエルミニオに、レオカディアは首を傾げる。
「エルミニオ様?どうかしましたか?」
「それだよ!ディア!ああ、やっぱりディアは最高だ!」
目を輝かせてそう叫んだエルミニオは、レオカディアの手を思い切り握り、思い切り上下に振るが、レオカディアには意味が分からない。
「え、エルミニオ様?」
「養蚕、という言葉を聞いたことがあるかい?ディア」
「はい。それを主産業としている国もあるとか。ですが、わが国では・・・あ」
そういうことか、とレオカディアはエルミニオのきらきら光る眼を目を、きれいだと見つめる。
「ああ。自国で絹を生産できるようになれば、もっと多くの人が絹を手に出来るようになるかも知れない。僕は、これを国民のための事業としようと思う」
「私も、お手伝いします。エルミニオ様」
他国からの輸入に頼っている絹は、価格の変動も激しく大変に高価なため、ごく一部の裕福な者しか手にすることは出来ないため、商人が故意に値を吊り上げることも珍しいことではなかった。
しかし、品薄のため王家も容易に介入できずにいた、その現状を打ち破ることが出来るかもしれないと、レオカディアとエルミニオは、共に瞳を輝かせる。
そうして、桃色の雰囲気を保ちながらも自国の産業について語り合ったふたりは、満ち足りた表情で馬車を降りた。
・・・・・その寄り添い微笑み合う様子が、本当に幸せそうでお似合いだった、とその日のうちに噂が駆け巡るなど、思いもせずに。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・
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