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十一、茶会のあと
しおりを挟む「ディア!可笑しな女に、酷い言いがかりをつけられたんだって!?」
「だが、冷静に撃退したのだとか」
「さっすが、レオカディア!」
茶会の終わり。
王妃と共に参席者の見送りをし、その後、王妃の見送りも終えたレオカディアの元へ、エルミニオとセレスティノ、それにヘラルドが、突撃する勢いで駆けて来た。
「え?言いがかり、って。どうして、それを?」
茶会は今終わったばかりで、王妃陛下もお戻りになったばかりなのにと、不思議がるレオカディアに怪我が無いことを確かめながら、エルミニオが笑う。
「それはもちろん、茶会の様子を教えてくれるよう、侍女たちに頼んでおいたからね」
「え。それ、そんな威張って言うこと?」
「当たり前だろ。何かあってからじゃ、遅いんだから。細かな情報収集は必須だよ」
いくら何でも過保護なんじゃ、ていうか、覗きと一緒?と若干引き気味に言うレオカディアに、エルミニオは当然と頷き、そんなエルミニオに、ヘラルドとセレスティノも続く。
「それに、何か暴力を振るわれそうになっても、絶対に守り抜くよう、警備も特別厳重に手配した」
「今日の茶会は、王妃陛下主催のものの中でも、下位貴族から上位貴族まで、子供ばかりとはいえ招待客が桁違いに多かったからな。警備や給仕はもちろん完璧に手配されていたが、レオカディアを護るとなれば、個別に対処が必要だと判断したわけだ」
大真面目に言う三人に、レオカディアは顔を引き攣らせた。
「王妃陛下主催のお茶会、しかも女の子ばかりのお茶会で、そんな危険があるとは思えないけど?」
「何を言っているんだ。現に、可笑しな女に絡まれたそうじゃないか・・・ディア。本当に、言葉で攻撃されただけか?何か、飲み物をかけられたり、死角で何か暴力を振るわれたりなんて、していないか?」
目立った傷は無さそうだが、もしや痣など、と心配そうに言うエルミニオに、レオカディアは、肩を上下させ、両手を握って開いて見せる。
「大丈夫よ。そういったことは、何もされていないわ・・・驚きはしたけど」
呟けば、エルミニオがそっとレオカディアの手を握った。
その温かさに、レオカディアは、自分が突発的なあの事件に緊張していた事を知る。
「チェロ・ガゴ。下級文官のガゴ男爵の娘、か」
「領地持ちじゃなくて、良かったな。父親が職と男爵位を失うだけで済む。尤も、俺の親父に言えば、物理で首が飛びそうだけど」
「それも当然だろう。王妃陛下主催の茶会を乱したんだ。しかも傷つけた相手は、エルミニオの婚約者であるレオカディアなんだぞ?この国の宝になんてことを」
「え?エルミニオ様?ヘラルド?セレスティノ?」
王太子と婚約者、そしてその側近として共に過ごすうち、すっかり信頼を寄せるようになった頼もしい仲間の恐ろしい発言に、レオカディアは頬を引き攣らせた。
ぶ、物理で首が飛ぶって。
そんな、みんな当たり前みたいに。
そりゃ、王妃陛下のお茶会を乱した責任は問われるだろうけど、私のことは別に。
「『私のことは別に』って顔をしているよ、ディア。だけどね。僕が、そんなの許すはずないだろう?僕のディアに、何を言ったあの女。嘘つき呼ばわりをしたなど、絶対に許せない。ディアの努力も知らないで」
「エルミニオ様」
王家へ嫁ぐために、レオカディアは、普通の貴族令嬢よりずっと高度な教養を身に付けることを当然と要求されてきた。
そしてそれは、今後もっと厳しさを増すことが予想される。
けれど、その苦労を、誰より傍にいて分かってくれるエルミニオの存在に、レオカディアは救われたような気持ちになった。
「仇は取ってやるから、安心しろ。ディア」
「仇って、そんな。本当に王妃陛下に対する不敬だけで・・って、それだけでもかなりの罰を受けそうだけど・・・それにしても、どうしてあの場で事に及んだのかしら。それも、あんな大声で。もっと小声で嫌味を言うくらいなら、人気のあるエルミニオ様たちといるんだもの。仕方ないって思う程度で済んだのに」
本当に、どうして王妃陛下の茶会でやらかした、とレオカディアはミルクティ色の髪と瞳の令嬢を思い出す。
「ディアが僕たち、特に僕と一緒に居るのは、当然のことだろう。それを、とやかく言う方がおかしい」
「そうだぞ、レオカディア」
「あの女は、家で、何処ぞの王女のような扱いをされて育ったらしいからな。両親からも、レオカディアより優れているとか、可愛いとか言われ、その気になったのだろう。つまり、親の責任でもあるのだから、レオカディアが気に病む必要は無い」
「あのう・・さっきも思ったんだけど。あのご令嬢の名前や素性だけでなく、そんな細かな情報まで、何処から?」
チェロ・ガゴ男爵令嬢が、自分に叫んだ茶会から間もない今、どうやってそこまで調べたのかと問うレオカディアに、セレスティノがきらりと目を光らせた。
「もちろん。茶会前に、全員の詳細を調べた」
そう、胸を張って言い切るセレスティノに、レオカディアは完敗だと脱帽する。
「そうなのね。あの数を・・・・。分かった。これからは、私もちゃんと事前に調べて、覚えるようにする」
「そうか。だが、自分で調べる必要は無い。こういった仕事をするのも、側近の役割だからな」
「ありがとう」
答えつつ、レオカディアは、今日のことを教訓と無念に刻む。
貴族名鑑。
男爵位まで、ちゃんと全部覚えよう。
きちんと情報の更新も忘れずに。
「だけど、ディア。僕は、嬉しくもあったよ。あの可笑しな女に向かって『お断りします。エルミニオ王太子殿下の婚約者は、わたくしです』って言い切ってくれたって。それで、その時のディアが、すっごく凛々しくて恰好良かった、流石未来の王太子妃だって、侍女たちが騒いでいた」
「ああ・・・それ」
あの時、レオカディアの周りで瞳を輝かせていた令嬢たち、そして王妃の笑みを思い出し、当分の間、色々噂されるのだろうなと、何処か他人事のように覚悟を決めたレオカディアだった。
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