人気俳優が恋人なので、気苦労が絶えません

夏笆(なつは)

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「今日の記事?何か、衝撃受けるようなことでもあったのか?」 

 途端、紅葉乃さんは、心底俺を心配する目になって聞いてくれた。 

 そのこと自体はとても嬉しい、んだけど。 

 

 何か、衝撃受けるような、って。 

 俺がこんなに動揺する記事なんて、あんたのことしかない、っての! 

 大体、あの記事のこと、そっちから説明してくれるべきなんじゃねえの!? 

 

 基本、何事にも動じない自覚のある俺は、そんな紅葉乃さんの態度に簡単にイラっとして。 

 だから、つい。 

「なに、って。恋人の、自分じゃない相手との熱愛報道にショック受けない人間なんていませんよ」 

 鋭い目、凄んだ声でそう言った・・つもりで、拗ねたような声が出た。 

 自分で言うのもなんだけど、俺はかなりドライだし、誹謗中傷にも強い。 

 だから、俺の心を傷つけられるのって紅葉乃さんだけなんだな、なんて改めて思い、事実を記事にしたものでなくても、何らかの説明は欲しい、とぼそぼそ言えば。 

「え?説明?俺がお前に?熱愛報道の件で?・・・え、なに。つまり、その記事って俺のこと!?」 

 きょとんとした紅葉乃さんが、俺と自分を交互に指差した。 

「もしかして、知らないんですか?」 

「うん、知らない」 

 はっきり返ったのは、有り得ないと思えるような言葉。 

 自分の記事なのに知らないとは、これ一体。 

「じゃあ、もしかして、本当にすっぱ抜かれた、とかなんですか?」 

  

 信じてる。 

  

 なんて、言いながら、俺は自分の目がつり上がるのを感じた。 

 だって。 

 すっぱ抜かれた、んなら、本当の熱愛報道、ってことじゃないか。 

「すっぱ抜かれた、って、なに!?なにを!?俺が何したっての!?鏡、何か怖い!」 

 紅葉乃さんは、そんな俺に怯えてるようだけど、ことは曖昧を許さない。 

「だから、すっぱ抜かれたのは、紅葉乃さんの熱愛、です」 

 だから、はっきり音にすれば。 

「ええ!?俺たち、ばれちゃったの!?」 

 わたわたと。 

 急に紅葉乃さんが慌て出す。 

 その様子に、俺は本当に不安になった。 

「紅葉乃さん。本当になにか、心当たりがあるんですか?」 

「ない!ないから焦ってんだよ。えぇ、どこでばれたんだろ。ちゃんと気を付けてたのに・・・あ、じゃあ、今日とかもまずいんじゃ!?」 

 そんな風に言って、紅葉乃さんが、急にきょろきょろと周りを見回す。 

「なにしてるんですか?かなり挙動不審なんですけど」 

 何をそんなに動揺しているのか、と俺が胡乱な目をすれば紅葉乃さんは何故か声を潜めた。 

「なに、って。あのさ、もしかして、カメラとか用意されたりしてねえ?音声録音されてるとか」 

「どうしたんですか、急に。この店は信用できるから、って紅葉乃さんが連れて来てくれたんじゃないですか。っていうか。普通に飯食っててカメラ気にする、って可笑しいでしょ」 

 俺は、訳が判らなくて、紅葉乃さんをじっと見た。 

 何で、今、ここで、このときに、紅葉乃さんは、カメラなんて気にしているのか。 

 そんなの、思い当たる理由はひとつだけ。 

  

 はあ。 

 俺と居るの、撮られたらまずい、ってことか。  

 そりゃそうだよな。 

 自分の知らないところでそんな記事が出た、ってなれば、用心もするか。 

 え。 

 てことは何だ。 

 すっぱ抜かれた時は油断してた、ってことかよ! 

 

 俺じゃない、あの女優と居る時は周りも気にできないほどなのか、と思えば、怒りが、ぐわっ、と込み上げた。 

「だってさ、ばれたんだろ?俺たち。だから、何かこう、今この時も大丈夫かなって」 

「今この時・・も?」  

 けれど俺は、その怒りを音にする前に冷静さを取り戻す。 

 どうもさっきから、紅葉乃さんと会話がずれているような気がしてならない。 

  

 紅葉乃さんが言う『俺たち』 

 俺は、紅葉乃さんとあの女優、ってことかと思ったけど、それにしては俺に対しての紅葉乃さんの態度が普通すぎる。 

 

 断言してもいい。 

 紅葉乃さんは、こういうことで嘘がつけない。 

 いや、俳優としてなら出来るんだろうけど、素の紅葉乃さんは絶対に無理だ。 

 

 と、いうことは? 

  

 あの記事を知らないようだった紅葉乃さん。 

 そして、俺からの情報で、自分の熱愛報道があったと知った紅葉乃さんは、急にカメラだなんだ言い出した。 

「紅葉乃さん。熱愛発覚の相手、誰だと思っています?」 

「え?俺の・・ね、熱愛相手って言ったら、鏡しかいないじゃん」 

 ややもすると、と思い言ってみれば、迷うことなく紅葉乃さんがそう言った。 

 それはもう耳まで真っ赤になって、でも、はっきりと。 

 

 だから、くっそ可愛いんだ、っての! 

 つか、やっぱり勘違いしてやがったのか! 

 

 もじもじ、なんて言葉が似合う仕草で上目に俺を見る紅葉乃さんに悶絶しつつ、俺は思い切り首を横に振った。 

 

 
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