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決戦
特殊形態
しおりを挟む「レオンスさまの頭のなかって、どうなっているのでしょう」
その日、寝支度を整えたリリアーヌは、先に寝室のソファで寛いでいたレオンス王子の傍へ行くと、唐突にその額に、てんてん、と叩くように触れ、心底不思議そうに首を傾げた。
「リリアーヌ?なにをそんな可愛いことをしているのかな?」
どうかしたのか、とレオンス王子はリリアーヌの手を取り隣に座らせる。
今日、明日とリリアーヌは登城の日で、いつものように昼間はみっちりと政務について学び、幾つかの実務にも就いていた。
そのことを当然知っているレオンス王子は、何か問題でもあったのか、とリリアーヌの瞳を覗き込む。
「レオンスさまは、わたくしと同じ年でいらっしゃるとは思えない為政者ぶりで、最早感心を通り越して不思議な思いがするのです。本当に同じ地上人ですか?何か特殊な存在だったりしないですか?少しでいいですから、その才能を分けてください」
間近でレオンス王子の瞳を見返し、何やら意味不明なことを言いながら、リリアーヌは自分の額をレオンス王子の額にくっつけた。
「リリアーヌだって、理解が早い、と言われているじゃないか。母上も褒めていらした」
やがて王子妃として受け持つことになる政務を学んでいる最中のリリアーヌは、初めてとは思えない理解力、と指導役の王妃始め周りの人々を喜ばせている。
「必死なのです。このような余裕の無さで、最強の王子殿下であるレオンスさまの隣に並べるのか、不安になります」
「最強、って。リリアーヌ、随分疲れているんだな」
疲労が滲んでいるようなのに、目だけが血走ったように異様な輝きを見せているリリアーヌの頭を撫で、レオンス王子はその手を取って共に立ち上がった。
「ご就寝されますか?」
もう眠るのか、とベッドへと行こうとするリリアーヌを、レオンス王子は部屋の中央へと連れて行く。
「レオンスさま?」
「リリアーヌ。これから俺がやることを真似して」
何が始まるのか、と、じっと自分を見つめるリリアーヌにそう指示をして、レオンス王子は首や肩をほぐす運動を始めた。
「わあ、首、痛いです。腕も。そういえば、最近、弓を引いていないです」
鍛錬を怠ったせいか、あちこち痛い、と言いながらも、リリアーヌは楽しそうに身体を動かす。
「少しは気分転換になったか?」
「はい!ありがとうございます。やっぱり、レオンスさまは最強の王子殿下ですね」
先ほどまでの疲労が嘘のように、リリアーヌは笑いながら、ベッドへと座ったレオンス王子の隣に、ぽすん、と座った。
「手も、ほぐしてあげようか」
自分よりずっと小さなリリアーヌの手を取り、レオンス王子はその手のひらや指を丹念にほぐして行く。
「レオンスさまには、わたくしが」
そしてリリアーヌも、交代、と笑ってレオンス王子の手を取り、同じようにほぐす。
「リリアーヌ」
片方の手をリリアーヌに預けながら、レオンス王子はもう片方の手でリリアーヌの髪を撫で、肩を撫でて、そのまま滑り下ろすと悪戯するように胸の頂を掠めた。
「っ!」
すっかりと慣れたその刺激に身を竦め、リリアーヌの手が止まる。
「リリアーヌ」
そうして、下から掬い上げるようにして唇を塞ぐと、そのまま深く口づけながらリリアーヌの身体をベッドへと沈めた。
「レオンスさま」
その動きに逆らうことなく、むしろ自分からレオンス王子の背に両手を回したリリアーヌの寝衣を乱すと、レオンス王子は自らの膝で、リリアーヌの足を開かせる。
「んっ」
そのまま膝がしらを使ってリリアーヌの秘所を押せば、リリアーヌが堪え切れない声を漏らした。
「リリアーヌ・・・っ」
そうなれば、もう止まることなど出来ない。
レオンス王子は、リリアーヌを啼かせながらその身体を開き、熱杭を穿って嬌声をあげさせ続ける。
「レオンス・・さまっ・・・あつい・・んっ・・あっ・・もぅっ・・おっきくしないで・・・っ・・・ひぅっ」
リリアーヌがレオンス王子を止めようとする声は、却ってレオンス王子を煽る結果となり。
リリアーヌは、その意識を飛ばすまでレオンス王子に激しく貪られることとなった。
「今日は、政務での手紙の書き方を実践せねばなりませんのに」
陽が昇って暫く。
ベッドから動くことのできないリリアーヌは、無体を強いたレオンス王子を恨みがましい目で見つめた。
「そんな顔しても、可愛いだけだよ、リリアーヌ。大丈夫。だからこそ、登城は二日は連続で、ということになっているのだから」
けれどレオンス王子は、とても幸福そうに言うばかりで反省など微塵もしていない。
「どういう、意味ですか?」
「そのまま、そういう意味だよ。リリアーヌが動けなくなって、公爵家に帰れなくならないように、という対処だね。もちろん、俺はそれでも構わないけれど、そんな規律を乱すような真似をすれば、公爵もアルノーも黙っていないだろうから」
爽やかに言い切るレオンス王子に、リリアーヌは無駄と知りながらも口を開いた。
「動けなくなるほど、なさらなければいいのでは」
「リリアーヌが可愛いのがいけない」
はっきり笑顔で言い切ったレオンス王子にリリアーヌが絶句していると、その髪をそっと梳いたレオンス王子が、優しく語りけてくる。
「でも、リリアーヌは政務をきちんとしたい、のだろう?」
「もちろんです」
そのために登城しているのだし、学ぶことはたくさんある、とリリアーヌは力強く頷いた。
「はは、そんなにか。でもそれなら、ここで仕事をすればいい」
「え?」
ここで、とは寝室で、ということだろうか。
けれど、政務を寝室で、などいいのだろうか。
などと思っていたリリアーヌは、ノックの音を聞いて体勢を整えた。
ベッドから動けないとはいえ、余り乱れた姿を見せる訳にはいかない。
「ああ、来たな」
対するレオンス王子は、うきうきとした様子で立ち上がり、満面の笑みでリリアーヌを見た。
「レオンスさま?」
使用人が来たから、といってうきうきする理由が判らずリリアーヌが首を傾げていると、使用人達が大きなクッションやテーブルらしき物を運び込んで来る。
そして、リリアーヌが戸惑っているうちに、大きな固めのクッションで背中と両脇を固められ、ベッドには作業用と思しき大きなテーブルまで設えられた。
「これ、リリアーヌの動けない時用の執務形態だから。これから、今日みたいな状況になった時は設えるといい。取り外し自由だから、便利だと思う」
ベッドに腰掛け、レオンス王子がにこにこと笑う。
「え、あの、これ」
リリアーヌは、驚きに声も出せず、ただ只管に背中を支えるクッションの絶妙な固さや両脇のクッションというより最早ひじ掛けの状態として計算され尽くしているサイズをしみじみと体感していた。
「気に入った?」
「はい。凄い、です。凄いですけれど、オレリーさまに何と言ったらよいのでしょう」
王妃オレリーは優しいが、こと公務に関しては指導が厳しい。
このような状態で仕事をする、などと言えばやる気を疑われるのでは、とリリアーヌは不安になった。
「ああ、母上はご存じだから問題無い。というより、この形態は必須だから必ず用意するように、と言ってくださったのは母上なんだ。今日、これを使う事態になったと言ったら、思ったより遅かったとか言っていたな」
「オレリーさま、公認ということですか」
「ああ。もちろん、父上も」
当たり前のように言うレオンス王子に、リリアーヌは魂が口から出て行きそうなほどの脱力を覚える。
この形態での公務が認められている事実、そして、そうなった原因を当然知られているだろう事実。
それはもう、王城全体のことだと思って間違いはないだろう。
「ああああ」
この先、どのような顔をして城内を歩けばいいのか。
リリアーヌは、肌触りのいいテーブルに突っ伏して頭を抱え。
「リリアーヌ。こっち」
その頭をレオンス王子に抱き込まれ、優しく髪を撫でられて、その心地よさに現実逃避を決め込んだ。
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