アーモンド ~王女とか溺愛とか殺害未遂とか!僅かな前世の記憶しかない私には荷が重すぎます!~

夏笆(なつは)

文字の大きさ
2 / 32

一、記憶喪失と過保護な夫 2

 

 

 

「エミィ、調子はどう?」 

 目覚めてから三日。 

 その間に、超絶男前な彼が私の夫であることとか、超絶男前な彼がこの国、アールクヴィスト王国のアールグレーン公爵であることとかを教えてもらった。 

 私はといえば、あれほど酷かった頭痛も収まり、身体のふらつきは未だあるものの、体調が戻りつつあるのを実感している。 

 そんななか、アールグレーン公爵閣下・・・じゃなかったフレデリク様は、一日に何度も私を心配して訪れてくれる。 

 それはもう過保護の域では、と思うほど私のことを気遣ってくれ、私が望むことは何でも叶えてくれるほどなのだけれど、ただひとつ。 

 私が公爵閣下と呼ぶことには難色、というより激しい拒絶を示し、名前で必ず呼ぶようにと念を押された。 

 なので、私が躊躇しつつもフレデリク様と呼ぶと。 

『フレデリク様、か。まあ、仕方が無いか』 

 と、寂しそうな笑みを浮かべたので、記憶を失くす前の私はもっと違う呼び方をしていたらしいと見当を付けるも、今の私に呼ばれたくはないかも、とも思い、それ以上は深く追求していない。 

 初日に、記憶にあるのは日本という国にいたこと、そこの言葉やお話は幾つか覚えているけれど、名前や年齢など自分のことは何も分からないことを伝えた私に、フレデリク様は優しくこの国での私のことを教えてくれた。 

 それによれば私はエミリアという名で、生まれた時から正真正銘この国の人間であり、フレデリク様は私の従兄で幼なじみでもある、らしい。 

 赤ん坊の頃から知っているんだから間違いないよ、と笑ったフレデリク様はとても格好良くて、私は思わず顔が熱くなるのを感じて俯いてしまった。 

「エミィ?どうかした?気分でも悪くなった?」 

「ああ、いえ。フレデリク様は今日も格好いいなあ、と思いまし・・・すみませんっ」 

 そんなことを思い出していたせいで、私に近寄り心配そうな瞳で私を見つめるフレデリク様にするっと言ってしまってから、私は思い切り顔が熱くなるのを感じる。 

「エミィこそ、今日も可愛いよ」 

 気障にも嫌味にもならず、そんな甘い言葉を自然に音に出来るフレデリク様は本当に格好いい、などと見惚れていたら、その顔が極限まで近づいて、頬に優しく唇が触れた。 

「っ」 

「嫌だった?」 

 目覚めて初めてのことに私がぴくりと驚けば、フレデリク様が哀しい瞳になる。 

「い、嫌ではありません、でした。ただ、驚いて」 

 本当にそれだけなので正直に言えば、フレデリク様が嬉しそうに笑って私の頬を撫でた。 

 私を気遣ってか余り触れないようにしてくれる、手の甲側を使ったその仕草も優雅で優しくて、フレデリク様が本当に私を大切にしてくださっているのだ、と、そのあたたかさに実感する。 

「僕にとっては日常でも、今のエミィには受け入れ難い事もあると思うから。その時は、きちんと伝えて欲しい」 

「はい。ありがとうございます。あ、あの。今日のご本はそれですか?」 

 フレデリク様と居ると、記憶の無い不安も忘れるほど穏やかで優しい気持ちになれる反面、落ち着かない気持ちになるのも事実で、誤魔化すようにそわそわとフレデリク様が持って来てくれた本を見て言えば、優しい笑みが返る。 

「ああ。約束していた、建国の英雄譚だよ。でも、本当にこれでいいのかい?」 

「はい。とても楽しみです」 

 今の私に、この国の記憶は何も無い。 

 何度も読み返すほどに好きだったという建国史はおろか、この国の言語を書くことも読むことも出来ない。 

 記憶にあるのは、日本で読み聞きしたお話とその言語だけ。 

 なので私は、何故か会話することだけは出来るこの国の言語で、フレデリク様に日本のお話をたくさんした。 

 いつも、この国での暮らし方を教えてくれるフレデリク様にお礼がしたいと思っていた私にフレデリク様が願ってくれたのだからと、それはもう張り切って。 

 フレデリク様は、どのお話も興味深く聞いてくれたけれど、かぐや姫を語った時は私の手を握りしめて『エミィを、日本という月に帰しはしないからね』と、強く宣言された。 

 その瞳は『いえ、日本という月はありません』などという軽い返答を許さないくらい強くて、フレデリク様にこれほど愛されているエミリアが、自分なのに羨ましくなるという複雑な体験をすることになった。 

 尤も、記憶が定かでない私は、そもそも日本が本当に月じゃないのかどうかも正確には判らないのだけれど。 

 

 日本って、月じゃない、わよね? 

 だったら、帰る、って言わないもの、ね? 

 

「じゃあ、読むよ」 

 本を読んでくれるとき、フレデリク様はいつも私を膝に乗せ、本が良く見えるようにして読んでいる場所に指を添わせ、私も文字を追えるようにゆっくり発音してくれる。 

 今もその体勢を整えたフレデリク様が、良く通る声で建国の英雄達を語り始めた。 

 その臨場感ある読み方に、私は直ぐ物語に夢中になってしまう。 

 冒険あり、陰謀有りのその世界に、自分も生きているかのように私はフレデリク様の声を聞き、懸命に文字を追った。 

 

感想 2

あなたにおすすめの小説

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

恋詠花

舘野寧依
恋愛
アイシャは大国トゥルティエールの王妹で可憐な姫君。だが兄王にただならぬ憎しみを向けられて、王宮で非常に肩身の狭い思いをしていた。 そんな折、兄王から小国ハーメイの王に嫁げと命じられたアイシャはおとなしくそれに従う。しかし、そんな彼女を待っていたのは、手つかずのお飾りの王妃という屈辱的な仕打ちだった。それは彼女の出自にも関係していて……? ──これは後の世で吟遊詩人に詠われる二人の王と一人の姫君の恋物語。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。  ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、 王弟殿下と出会いました。 なんでわたしがこんな目に…… R18 性的描写あり。※マークつけてます。 38話完結 2/25日で終わる予定になっております。 たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。 この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。 バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。 読んでいただきありがとうございます! 番外編5話 掲載開始 2/28