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18.魔導車の噂
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商会主達と話し合いを行った三日後、シルベルク宰相主導の元で王都の外壁の外に魔導車工場の建設するための人員募集が始まった。
集まった労働者達は本人が希望すれば、工場が完成した後、工員として工場で働くことになる。
これで王都に集まっている貧民に少しでも職を提供することができると、ローランド兄上は大喜びしていた。
それから一週間後、魔導車工場の工事が本格的に始まった。
その頃、大商会が売り出した魔導車が王都の中をチラホラと走りはじめた。
大商会達には既に魔導車二十台を納品している。
その魔導車を誰かが購入したのだろう。
魔導車を初めて見た庶民は驚き、そして魔導車に興味を持った子供達が目をキラキラさせていたと、街へ調査に行った王宮騎士団の兵が教えてくれた。
そしてまた一週間が経ち、工場建設の進み具合を聞くため、シルベルク宰相の執務室へ向かっていると、パンヤミン伯爵が慌てた表情で廊下を走ってきた。
パンヤミン伯爵は王宮務めの法衣貴族で、たしか財務系の仕事をいていたはず。
「今、王都では魔導車という乗り物が注目されておりまして、それで街で色々と飛び交っている噂を辿っていくと、イアン殿下が魔導車の考案者というではありませんか。誠に素晴らしい」
「いやいや、僕はアイデアを出しただけで、魔導車を作ったのはドワーフ達だから」
「しかし、王都の商会に販売する前に、私共、法衣貴族に一言いただきたかった。そうすれば王宮にいる法衣貴族はこぞって魔導車を購入したことでしょう。なんとも惜しいことです」
だからイヤだったんだよ。
大商会と交渉する前に、法衣貴族に情報を漏らしたら、法衣貴族だけで魔導車を独占しようとするに決まっているからね。
法衣貴族と地方貴族は仲が悪い。
魔導車を手に入れれば、法衣貴族は地方貴族に自慢するに決まっている。
そうなったら、両者の溝はますます深まるし、トバッチリが王家に向く。
そんな危険な目には遭いたくない。
ゲンナリした気分になっている僕の気持ちに気づかず、パンヤミン伯爵は話しを続ける。
「魔導車は王宮、いや王家の権威の象徴となりますよ。ぜひ、私も一台購入したいものです。イアン殿下、お願いできないでしょうか?」
「魔導車を優先して売るなんてことは、僕にはできないから」
「魔導車の発明したイアン殿下の口添えであれば、シルベルク宰相もイヤとは申しますまい。何卒、よしなにお願いいたします」
「無理なモノは無理だから!」
このまま立ち話をしていたら、このままごり押しされると感じた僕は、両手の平を見せ首を左右に振ってから、逃げるようにその場を去った。
廊下を走って扉をノックするのももどかしく、勢いよく扉を開けて部屋の中へ入ると、シルベルク宰相が悲愴な表情で豪華なデスクの前に座っていた。
その様子を不思議に思った僕は首を傾げる。
「疲れてるようだけど、何かあったの?」
「イアン殿下ですか……王都を走る魔導車の噂をどこかから聞きつけた法衣貴族達が、王宮に務めている自分達こそ、魔導車を購入する権利があると言ってきましてな……魔導車工場が完成するまで待つように説得しているのですが納得しないのです……」
パンヤミン伯爵の様子で感じていたけど、やはりシルベルク宰相のところにも、法衣貴族達が詰め寄ってきていたのか。
魔導車を欲しいと言われるのは嬉しいけど……魔導車を貴族だけで独占するようなことはしたくない。
だから大商会に声をかけたわけなんけど……
シルベルク宰相はチラッと僕を見て、大きく息を吐く。
「問題は今ある魔導車をどうするか……それと魔導車工場が完成してから、優先的に誰に売るかを考えないと……」
「そんなの早いもの順でいいんじゃないの?」
「そんなことをしたら王都にいる法衣貴族ばかりが魔導車を持つことになり、地方にいる貴族達は購入する順番が遅くなりますぞ。それに大商会に卸す魔導車の数が足りなくなる可能性もありますな」
工場が完成したら問題が解決すると思ったんだけど、見通しが甘かったかな。
それにしても貴族の見栄ってスゴイよね。
早いモノ順がダメとなると、他の方法を考えないと……
少しの間、胸を前で腕を組んで考えた僕は、シルベルク宰相へ向けて一つ提案する。
「抽選はどう? 抽選であれば運だから、法衣貴族も地方貴族も文句はないでしょ」
「良い案だと思うが、表向きは抽選として、裏では王宮または王家が、お気に入りの貴族に優先的に魔導車を渡していると風聴される恐れがありますな」
え、そんな風に受け取られるの!?
貴族ってどこまでハラ黒思考なんだよ。
「では、みんなの前で抽選会を開けばいいんじゃないかな。工場で作った魔導車に車体番号を付与しておいて、抽選番号と車体番号が合致するようにしておくんだ。そうしておけば車体番号の合った魔導車は自分のモノになるから、文句も言いにくくなるでしょ。そうなると魔導車がすぐ手元にくるか遅くなるかは、ホントに抽選の運になるからね」
「おお、それは名案ですな」
「それで大商会に卸す分の魔導車は別で確保しておいて、貴族達が大商会から魔導車を買うことについては黙認すればいいんだよ」
「なるほど魔導車を早く購入したい者は、大商会を頼れということですな。となれば抽選の結果、魔導車が手に入らない不満が王宮や王家に向かうことはないと」
「うん。大商会には少し迷惑がかかるかもしれないけど。大商会にも利益が入るんだから、そこは文句を言ってこれないよね」
それからしばらく、僕とシルベルク宰相は抽選会を催す企画を二人で考えた。
なかなか面白い催しになりそうだ。
集まった労働者達は本人が希望すれば、工場が完成した後、工員として工場で働くことになる。
これで王都に集まっている貧民に少しでも職を提供することができると、ローランド兄上は大喜びしていた。
それから一週間後、魔導車工場の工事が本格的に始まった。
その頃、大商会が売り出した魔導車が王都の中をチラホラと走りはじめた。
大商会達には既に魔導車二十台を納品している。
その魔導車を誰かが購入したのだろう。
魔導車を初めて見た庶民は驚き、そして魔導車に興味を持った子供達が目をキラキラさせていたと、街へ調査に行った王宮騎士団の兵が教えてくれた。
そしてまた一週間が経ち、工場建設の進み具合を聞くため、シルベルク宰相の執務室へ向かっていると、パンヤミン伯爵が慌てた表情で廊下を走ってきた。
パンヤミン伯爵は王宮務めの法衣貴族で、たしか財務系の仕事をいていたはず。
「今、王都では魔導車という乗り物が注目されておりまして、それで街で色々と飛び交っている噂を辿っていくと、イアン殿下が魔導車の考案者というではありませんか。誠に素晴らしい」
「いやいや、僕はアイデアを出しただけで、魔導車を作ったのはドワーフ達だから」
「しかし、王都の商会に販売する前に、私共、法衣貴族に一言いただきたかった。そうすれば王宮にいる法衣貴族はこぞって魔導車を購入したことでしょう。なんとも惜しいことです」
だからイヤだったんだよ。
大商会と交渉する前に、法衣貴族に情報を漏らしたら、法衣貴族だけで魔導車を独占しようとするに決まっているからね。
法衣貴族と地方貴族は仲が悪い。
魔導車を手に入れれば、法衣貴族は地方貴族に自慢するに決まっている。
そうなったら、両者の溝はますます深まるし、トバッチリが王家に向く。
そんな危険な目には遭いたくない。
ゲンナリした気分になっている僕の気持ちに気づかず、パンヤミン伯爵は話しを続ける。
「魔導車は王宮、いや王家の権威の象徴となりますよ。ぜひ、私も一台購入したいものです。イアン殿下、お願いできないでしょうか?」
「魔導車を優先して売るなんてことは、僕にはできないから」
「魔導車の発明したイアン殿下の口添えであれば、シルベルク宰相もイヤとは申しますまい。何卒、よしなにお願いいたします」
「無理なモノは無理だから!」
このまま立ち話をしていたら、このままごり押しされると感じた僕は、両手の平を見せ首を左右に振ってから、逃げるようにその場を去った。
廊下を走って扉をノックするのももどかしく、勢いよく扉を開けて部屋の中へ入ると、シルベルク宰相が悲愴な表情で豪華なデスクの前に座っていた。
その様子を不思議に思った僕は首を傾げる。
「疲れてるようだけど、何かあったの?」
「イアン殿下ですか……王都を走る魔導車の噂をどこかから聞きつけた法衣貴族達が、王宮に務めている自分達こそ、魔導車を購入する権利があると言ってきましてな……魔導車工場が完成するまで待つように説得しているのですが納得しないのです……」
パンヤミン伯爵の様子で感じていたけど、やはりシルベルク宰相のところにも、法衣貴族達が詰め寄ってきていたのか。
魔導車を欲しいと言われるのは嬉しいけど……魔導車を貴族だけで独占するようなことはしたくない。
だから大商会に声をかけたわけなんけど……
シルベルク宰相はチラッと僕を見て、大きく息を吐く。
「問題は今ある魔導車をどうするか……それと魔導車工場が完成してから、優先的に誰に売るかを考えないと……」
「そんなの早いもの順でいいんじゃないの?」
「そんなことをしたら王都にいる法衣貴族ばかりが魔導車を持つことになり、地方にいる貴族達は購入する順番が遅くなりますぞ。それに大商会に卸す魔導車の数が足りなくなる可能性もありますな」
工場が完成したら問題が解決すると思ったんだけど、見通しが甘かったかな。
それにしても貴族の見栄ってスゴイよね。
早いモノ順がダメとなると、他の方法を考えないと……
少しの間、胸を前で腕を組んで考えた僕は、シルベルク宰相へ向けて一つ提案する。
「抽選はどう? 抽選であれば運だから、法衣貴族も地方貴族も文句はないでしょ」
「良い案だと思うが、表向きは抽選として、裏では王宮または王家が、お気に入りの貴族に優先的に魔導車を渡していると風聴される恐れがありますな」
え、そんな風に受け取られるの!?
貴族ってどこまでハラ黒思考なんだよ。
「では、みんなの前で抽選会を開けばいいんじゃないかな。工場で作った魔導車に車体番号を付与しておいて、抽選番号と車体番号が合致するようにしておくんだ。そうしておけば車体番号の合った魔導車は自分のモノになるから、文句も言いにくくなるでしょ。そうなると魔導車がすぐ手元にくるか遅くなるかは、ホントに抽選の運になるからね」
「おお、それは名案ですな」
「それで大商会に卸す分の魔導車は別で確保しておいて、貴族達が大商会から魔導車を買うことについては黙認すればいいんだよ」
「なるほど魔導車を早く購入したい者は、大商会を頼れということですな。となれば抽選の結果、魔導車が手に入らない不満が王宮や王家に向かうことはないと」
「うん。大商会には少し迷惑がかかるかもしれないけど。大商会にも利益が入るんだから、そこは文句を言ってこれないよね」
それからしばらく、僕とシルベルク宰相は抽選会を催す企画を二人で考えた。
なかなか面白い催しになりそうだ。
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