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32.エミリア姉上とオーラン
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人身売買の闇市の会場を後にし、長い廊下を通り、階段をのぼって建物から出た。
後ろを振り返ると、オーランの姿はなかった。
まだ闇市に潜入しているのかもしれないな。
街でカーネルさんと分かれて、そのまま僕と姉上は城へと戻った。
自室のベッドの上に座ると、隣に腰かけたエミリア姉上がポツリと呟く。
「あれって、人買いの現場よね。あんな場所に何をしに行ったの?」
「……「蜘蛛」の組織の情報を集めようと思って……」
「そう……それで、あの二人に協力してもらったのね。そういうことなら、私に話してくれていてもよかったのに」
「ごめん、エミリア姉上を危険なことに巻き込みたくなかったんだよ」
「そういうことなら、尚更、一人でさせられないわ。私を巻き込みなさい」
そう言って、エミリア姉上は僕の頬を指で引っ張る。
姉上は一度決めると、なかなか引かない。それが僕が関わることだと一層引かない。
そのことを知っている僕は、観念して「うん」とだけ小さく応えた。
それで納得したのか、エミリア姉上はベッドから立ち上がると「おやすみ」と言って、部屋から去っていった。
闇市に出向いてから三日後、夜中に城を抜け出して街に行ったけど、カーネルさんに出会わなかった。
不思議に思って廃墟まで探しに行ったけど、カーネルさんもオーランもいない。
ちょっと心配になったけど、その日は会うことを諦めた。
それから三日後に再び街へと出向いけど、二人は廃墟にも、どこにもいなかった。
次の日、自室でエミリア姉上にそのことを話すと、思いっきり頬を抓られた。
「だから、一人で行っちゃダメって言ってるでしょ」
「だって、二人のことが心配だったし、一人のほうが危険を避けるのも簡単だから」
「そんな言い訳は通用しません」
エミリア姉上は仁王立ちになり僕に向けて指を差す。
これは本気で怒ってるよね。
こうなると何を言っても通じない。
床の上に正座をして、エミリア姉上の説教を聞いていると、窓のほうから声が聞こえた。
「牛乳女」
その言葉に反応してエミリア姉上がキッと窓を睨む。
慌てて僕の後ろを振り向くと、窓枠に腰をかけ、小さく手を振るオーランがいた。
「どうして、あなたがここにいるのよ! どうやって城の中まで入ってきたの!」
「牛乳には関係ない」
窓に詰め寄るエミリア姉上をヒラリと躱して、オーランは静かに僕の前に立つ。
そして懐から丸めた羊皮紙を取り出し、僕に差し出した。
それを羊皮紙を掴んで内容を読むと、どうやらカーネルさんが書いたモノらしい。
闇市が開催された夜、オーランは舞台の裏に忍び込み、闇市の主催者とおぼしき男性の後を追跡したらしい。
すると一軒の大きな邸に辿り着き、どうやら貴族の邸らしいということまでわかった。
その報告を受けたカーネルさんは、邸の周囲を監視し、その邸が地方貴族のメルセルク伯爵の別邸であることまで突き止めたという。
それから二人でメルセルク伯爵についての情報を集めていたらしい。
手紙の最後に、僕に廃墟に来いと書いてあった。
なるほど、あれから二人は手分けして情報を追ってくれていたのか。
内容はわかったけど、なぜ手紙にする必要があったのだろうか?
ふと疑問に思った僕は、オーランに訊ねた。
「どうして手紙なの? これぐらいの内容ならオーランが説明すれば簡単だよね」
「めんどい」
オーランの一言で、僕はすべてを納得した。
無口で面倒臭がりのオーランのことを考えて、カーネルさんは手紙にしたんだな。
「何が書いてあったの?」
「カーネルさんが、廃墟まで来てほしいって」
「あなたには関係ない」
隣に来たエミリア姉上に羊皮紙を渡そうとすると、それをオーランが強引に奪い取った。
そしてエミリア姉上とオーランが顔を間近に寄せて睨み合う。
どうしてオーランは姉上に喧嘩を売るのかな。
せっかく知り合いになったんだから、二人には仲良くなってもらいたいのに。
そこでフッと忘れていたことを思い出し、僕は棚まで歩いて一番上にあるガラスの瓶を手に取った。そして、今にも口喧嘩を始めそうなオーランに瓶を押しつける。
「色々と情報を集めてくれてありがとう。これは約束の報酬」
「……」
その瓶をジーっと見つめて、オーランは蓋を取って指を入れる。
そして淡い赤黄色の液体で濡れた指をパクリと口の中へ放り込んだ。
その途端にフニャリと恍惚の表情を浮かべる。
「ハチミツ」
このガラスの瓶に入っているハチミツは、報酬としてオーランに渡す予定だったモノで、僕が侍女に命じて取り寄せた最高級品だ。
一瓶で金貨二枚(約二万円)もすると侍女から聞いた時は驚いたけど、これだけ喜んでもらえるなら、よかったよ。
しばらくの間、オーランは夢中で瓶の中のハチミツを舐めていた。
僕達が見入っていることに気づいたのか、頬を真っ赤にして窓へと走り出した。
そして窓枠に足をかけて、振り返って僕に小さく手を振ると、そのまま飛び降りて姿を消した。
「また来る」
オーランが部屋を去った後、なぜかエミリア姉上が僕に詰め寄ってくる。
「あの少女とはどういう関係!」
オーランのことは説明したはずだけど……エミリア姉上の機嫌を直すには時間がかかりそうだな。
ホントに二人とも仲よくしてほしい……
後ろを振り返ると、オーランの姿はなかった。
まだ闇市に潜入しているのかもしれないな。
街でカーネルさんと分かれて、そのまま僕と姉上は城へと戻った。
自室のベッドの上に座ると、隣に腰かけたエミリア姉上がポツリと呟く。
「あれって、人買いの現場よね。あんな場所に何をしに行ったの?」
「……「蜘蛛」の組織の情報を集めようと思って……」
「そう……それで、あの二人に協力してもらったのね。そういうことなら、私に話してくれていてもよかったのに」
「ごめん、エミリア姉上を危険なことに巻き込みたくなかったんだよ」
「そういうことなら、尚更、一人でさせられないわ。私を巻き込みなさい」
そう言って、エミリア姉上は僕の頬を指で引っ張る。
姉上は一度決めると、なかなか引かない。それが僕が関わることだと一層引かない。
そのことを知っている僕は、観念して「うん」とだけ小さく応えた。
それで納得したのか、エミリア姉上はベッドから立ち上がると「おやすみ」と言って、部屋から去っていった。
闇市に出向いてから三日後、夜中に城を抜け出して街に行ったけど、カーネルさんに出会わなかった。
不思議に思って廃墟まで探しに行ったけど、カーネルさんもオーランもいない。
ちょっと心配になったけど、その日は会うことを諦めた。
それから三日後に再び街へと出向いけど、二人は廃墟にも、どこにもいなかった。
次の日、自室でエミリア姉上にそのことを話すと、思いっきり頬を抓られた。
「だから、一人で行っちゃダメって言ってるでしょ」
「だって、二人のことが心配だったし、一人のほうが危険を避けるのも簡単だから」
「そんな言い訳は通用しません」
エミリア姉上は仁王立ちになり僕に向けて指を差す。
これは本気で怒ってるよね。
こうなると何を言っても通じない。
床の上に正座をして、エミリア姉上の説教を聞いていると、窓のほうから声が聞こえた。
「牛乳女」
その言葉に反応してエミリア姉上がキッと窓を睨む。
慌てて僕の後ろを振り向くと、窓枠に腰をかけ、小さく手を振るオーランがいた。
「どうして、あなたがここにいるのよ! どうやって城の中まで入ってきたの!」
「牛乳には関係ない」
窓に詰め寄るエミリア姉上をヒラリと躱して、オーランは静かに僕の前に立つ。
そして懐から丸めた羊皮紙を取り出し、僕に差し出した。
それを羊皮紙を掴んで内容を読むと、どうやらカーネルさんが書いたモノらしい。
闇市が開催された夜、オーランは舞台の裏に忍び込み、闇市の主催者とおぼしき男性の後を追跡したらしい。
すると一軒の大きな邸に辿り着き、どうやら貴族の邸らしいということまでわかった。
その報告を受けたカーネルさんは、邸の周囲を監視し、その邸が地方貴族のメルセルク伯爵の別邸であることまで突き止めたという。
それから二人でメルセルク伯爵についての情報を集めていたらしい。
手紙の最後に、僕に廃墟に来いと書いてあった。
なるほど、あれから二人は手分けして情報を追ってくれていたのか。
内容はわかったけど、なぜ手紙にする必要があったのだろうか?
ふと疑問に思った僕は、オーランに訊ねた。
「どうして手紙なの? これぐらいの内容ならオーランが説明すれば簡単だよね」
「めんどい」
オーランの一言で、僕はすべてを納得した。
無口で面倒臭がりのオーランのことを考えて、カーネルさんは手紙にしたんだな。
「何が書いてあったの?」
「カーネルさんが、廃墟まで来てほしいって」
「あなたには関係ない」
隣に来たエミリア姉上に羊皮紙を渡そうとすると、それをオーランが強引に奪い取った。
そしてエミリア姉上とオーランが顔を間近に寄せて睨み合う。
どうしてオーランは姉上に喧嘩を売るのかな。
せっかく知り合いになったんだから、二人には仲良くなってもらいたいのに。
そこでフッと忘れていたことを思い出し、僕は棚まで歩いて一番上にあるガラスの瓶を手に取った。そして、今にも口喧嘩を始めそうなオーランに瓶を押しつける。
「色々と情報を集めてくれてありがとう。これは約束の報酬」
「……」
その瓶をジーっと見つめて、オーランは蓋を取って指を入れる。
そして淡い赤黄色の液体で濡れた指をパクリと口の中へ放り込んだ。
その途端にフニャリと恍惚の表情を浮かべる。
「ハチミツ」
このガラスの瓶に入っているハチミツは、報酬としてオーランに渡す予定だったモノで、僕が侍女に命じて取り寄せた最高級品だ。
一瓶で金貨二枚(約二万円)もすると侍女から聞いた時は驚いたけど、これだけ喜んでもらえるなら、よかったよ。
しばらくの間、オーランは夢中で瓶の中のハチミツを舐めていた。
僕達が見入っていることに気づいたのか、頬を真っ赤にして窓へと走り出した。
そして窓枠に足をかけて、振り返って僕に小さく手を振ると、そのまま飛び降りて姿を消した。
「また来る」
オーランが部屋を去った後、なぜかエミリア姉上が僕に詰め寄ってくる。
「あの少女とはどういう関係!」
オーランのことは説明したはずだけど……エミリア姉上の機嫌を直すには時間がかかりそうだな。
ホントに二人とも仲よくしてほしい……
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