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43.戦車のアイデア
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ローランド兄上の計らいで、アーリアは城内に部屋を与えられ、バンベルク騎士団長とリシリア近衛兵団長が交代で部屋を警護することになった。
バンベルク騎士団長もリシリアも王国が誇る武人だ。
生半可な腕の者では二人に勝つことは難しい。
それにオーランがアーリアに付き添っている。
これなら暗殺者達が城内に忍び込んでも大丈夫だね。
自室で静かに本を読んでいると、扉が開いてアデル兄上がズカズカと部屋に入ってきた。
そして椅子にドカッと座ると、片手で髪をかく。
「この二週間ほど王宮騎士団を使って、王都内をくまなく調査した。闇賭博の開催場所を三つほど潰したし、薬剤販売のルートも潰したが、「蜘蛛」の尻尾は掴めなかった。めちゃくちゃ悔しいぜ」
さすがアデル兄上、この短期間でそれだけの成果は誇っていいと思う。
しかし、このままアデル兄上が動けば、「蜘蛛」と遭遇する前に「黒鴉」とぶつかりそうだ。
ここはなんとか、アデル兄上の興味の方向を変えないと。
アデル兄上は脚を組み替えて、目を細める。
「ローランド兄上から話は聞いた。エルファスト魔法王国の魔法士を保護したらしいな。となると魔法王国に知られるのも時間の問題だろ。いつか必ず魔導士を引き渡せと魔法王国は言ってくるぞ。その申し出を拒否すれば魔法王国との軋轢は深くなる。下手をすれば軍事的衝突も有り得るぜ」
「うん、そのことはローランド兄上も気づいてる。だから、この先どの方向に転んでもいいように準備しておく必要があると思う」
「俺は難しいことを考えるのは苦手だ。どう対策していいのか、いい案が全く浮かばん。だからイアンのいうことに従うぜ」
「どうして僕なの? ローランド兄上やエミリア姉上に協力すればいいでしょ」
「二人の指示に従うなんて、ムカつくから絶対にイヤだ。それにイアンのことは昔から見てきた。姉弟の中で、イアンはいつも奇抜なアイデアで俺を楽しませてくれる。だから何でも俺に言え。できる限り協力してやる」
ローランド兄上とエミリア姉上はアデル兄上と年齢が近いから、反発しちゃうんだろうな。
行動力のあるアデル兄上が協力してくれるなら、僕も大助かりだけど。
「それじゃあ、王宮騎士団の兵から幾人か抜擢して、魔導車の操作訓練をしてほしい。そして、その者達を連れて、王都周辺の森で魔獣を狩って、その血を持ち帰ってほしいんだ。魔獣の血は新鮮さが必要だから、魔導車を使ってできるだけ早く城へ運んでほしい」
「わかった。幾人かの兵を見繕って、訓練がてらに森へ向かおう。それで魔獣を新鮮な血が必要なんだな。お安い御用だ。今から行ってこよう」
アデル兄上はスクッと立ち上がり、部屋から颯爽と去って行った。
昼前になったので、僕は侍女へ、エミーを連れて来てもらうように指示を出した。
午後になってしばらくすると、僕の部屋にエミーが現れた。
ソファに座ったエミーに僕は問いかける。
「工房のドワーフ達の様子はどう?」
「魔導車工場が軌道に乗り始めたから、工員への指導も終わりつつあるって聞いてるわ」
工房のドワーフ達には魔導車工場が稼働を始めた時から、工場の工員に色々と指導をしてもらっていたる。
工員の募集で集まった人達は、機械の部品を作るのも初めてだし、魔導車を組み立てるのも素人だから、どうしてもドワーフ達に教えてもらう必要があったんだよね。
この調子なら工房のドワーフ達を工場から引き抜いても問題なさそうだな。
「工房のドワーフ達に頼みがあるんだ。以前、試作品として作ってもらった金属製の魔導車を六十台ほど作ってもらいたい」
「あれは重いし、コストがかかり過ぎるって言ってたわよね?」
「今は詳しく話せないけど、ちょっと状況が変わったんだ。いざという時のために生産をお願いしたいんだ。速度についてもリミッターを外してもらいたい」
「え、そんな事をすれば、悪路で車体が横転する危険があるわ。それにタイヤの耐久性が絶えられないわ。どうして、そんな危険な魔導車が必要なの? 教えてもらえないと協力できないわ」
まだ兄姉の中だけの話なので、エミーに話したくはなかったんだけど、これからのことを考えればエミーとドワーフ達の協力は必須だ。
ドワーフ族は頑固だから、このままだとエミーは協力してくれないだろう。
僕は静かにエルファスト魔法王国との経緯を説明した。
話を聞き終わったエミーは可愛い額にシワを寄せ、難しい表情をする。
「事情はわかったわ。最悪の場合、エルファスト魔法王国とぶつかるということね。それは『プリミチブの樹海』に住む私達ドワーフ族にも関係してくるわね。素直に話してくれたし、協力するわ。でも、タイヤの問題を解消しないと、リミッターを外した魔導車なんて危険なだけのシロモノよ」
「それについては僕にアイデアがある。ちょっと画に書いてみるね」
急いで机に座り、羊皮紙を広げて、自分の頭の中にあるイメージをペンで描く。
もちろんアイデアは、前世の日本の記憶にある戦車だ。
エミーに向けて、描きあげた羊皮紙を広げる。
「タイヤの代わりにキャタピラを装着すればいいんだよ」
そう……キャタピラなら金属で作れるし、悪路を走っても大丈夫だよね。
バンベルク騎士団長もリシリアも王国が誇る武人だ。
生半可な腕の者では二人に勝つことは難しい。
それにオーランがアーリアに付き添っている。
これなら暗殺者達が城内に忍び込んでも大丈夫だね。
自室で静かに本を読んでいると、扉が開いてアデル兄上がズカズカと部屋に入ってきた。
そして椅子にドカッと座ると、片手で髪をかく。
「この二週間ほど王宮騎士団を使って、王都内をくまなく調査した。闇賭博の開催場所を三つほど潰したし、薬剤販売のルートも潰したが、「蜘蛛」の尻尾は掴めなかった。めちゃくちゃ悔しいぜ」
さすがアデル兄上、この短期間でそれだけの成果は誇っていいと思う。
しかし、このままアデル兄上が動けば、「蜘蛛」と遭遇する前に「黒鴉」とぶつかりそうだ。
ここはなんとか、アデル兄上の興味の方向を変えないと。
アデル兄上は脚を組み替えて、目を細める。
「ローランド兄上から話は聞いた。エルファスト魔法王国の魔法士を保護したらしいな。となると魔法王国に知られるのも時間の問題だろ。いつか必ず魔導士を引き渡せと魔法王国は言ってくるぞ。その申し出を拒否すれば魔法王国との軋轢は深くなる。下手をすれば軍事的衝突も有り得るぜ」
「うん、そのことはローランド兄上も気づいてる。だから、この先どの方向に転んでもいいように準備しておく必要があると思う」
「俺は難しいことを考えるのは苦手だ。どう対策していいのか、いい案が全く浮かばん。だからイアンのいうことに従うぜ」
「どうして僕なの? ローランド兄上やエミリア姉上に協力すればいいでしょ」
「二人の指示に従うなんて、ムカつくから絶対にイヤだ。それにイアンのことは昔から見てきた。姉弟の中で、イアンはいつも奇抜なアイデアで俺を楽しませてくれる。だから何でも俺に言え。できる限り協力してやる」
ローランド兄上とエミリア姉上はアデル兄上と年齢が近いから、反発しちゃうんだろうな。
行動力のあるアデル兄上が協力してくれるなら、僕も大助かりだけど。
「それじゃあ、王宮騎士団の兵から幾人か抜擢して、魔導車の操作訓練をしてほしい。そして、その者達を連れて、王都周辺の森で魔獣を狩って、その血を持ち帰ってほしいんだ。魔獣の血は新鮮さが必要だから、魔導車を使ってできるだけ早く城へ運んでほしい」
「わかった。幾人かの兵を見繕って、訓練がてらに森へ向かおう。それで魔獣を新鮮な血が必要なんだな。お安い御用だ。今から行ってこよう」
アデル兄上はスクッと立ち上がり、部屋から颯爽と去って行った。
昼前になったので、僕は侍女へ、エミーを連れて来てもらうように指示を出した。
午後になってしばらくすると、僕の部屋にエミーが現れた。
ソファに座ったエミーに僕は問いかける。
「工房のドワーフ達の様子はどう?」
「魔導車工場が軌道に乗り始めたから、工員への指導も終わりつつあるって聞いてるわ」
工房のドワーフ達には魔導車工場が稼働を始めた時から、工場の工員に色々と指導をしてもらっていたる。
工員の募集で集まった人達は、機械の部品を作るのも初めてだし、魔導車を組み立てるのも素人だから、どうしてもドワーフ達に教えてもらう必要があったんだよね。
この調子なら工房のドワーフ達を工場から引き抜いても問題なさそうだな。
「工房のドワーフ達に頼みがあるんだ。以前、試作品として作ってもらった金属製の魔導車を六十台ほど作ってもらいたい」
「あれは重いし、コストがかかり過ぎるって言ってたわよね?」
「今は詳しく話せないけど、ちょっと状況が変わったんだ。いざという時のために生産をお願いしたいんだ。速度についてもリミッターを外してもらいたい」
「え、そんな事をすれば、悪路で車体が横転する危険があるわ。それにタイヤの耐久性が絶えられないわ。どうして、そんな危険な魔導車が必要なの? 教えてもらえないと協力できないわ」
まだ兄姉の中だけの話なので、エミーに話したくはなかったんだけど、これからのことを考えればエミーとドワーフ達の協力は必須だ。
ドワーフ族は頑固だから、このままだとエミーは協力してくれないだろう。
僕は静かにエルファスト魔法王国との経緯を説明した。
話を聞き終わったエミーは可愛い額にシワを寄せ、難しい表情をする。
「事情はわかったわ。最悪の場合、エルファスト魔法王国とぶつかるということね。それは『プリミチブの樹海』に住む私達ドワーフ族にも関係してくるわね。素直に話してくれたし、協力するわ。でも、タイヤの問題を解消しないと、リミッターを外した魔導車なんて危険なだけのシロモノよ」
「それについては僕にアイデアがある。ちょっと画に書いてみるね」
急いで机に座り、羊皮紙を広げて、自分の頭の中にあるイメージをペンで描く。
もちろんアイデアは、前世の日本の記憶にある戦車だ。
エミーに向けて、描きあげた羊皮紙を広げる。
「タイヤの代わりにキャタピラを装着すればいいんだよ」
そう……キャタピラなら金属で作れるし、悪路を走っても大丈夫だよね。
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