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第一章
49話:2人きりの出張(1日目)①
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はっきり言って、大後悔中である。
合コンなんて、その場のノリで約束しなきゃよかった……。
久遠は、先週の金曜夜にありすと取り付けてしまった約束を思い出していた。
今日からまた月曜日。朝ごはんを食べ、歯磨きをしている久遠の顔は、鏡の中でどんよりと曇っている。
自分が参加するだけで困ってる人の力になれるならとその場の勢いで返事をしてしまったけれど、人には、得手不得手がある。
仕事は、たとえその勢いで引き受けたとしても何とか自分なりにやり遂げればいいので後悔することはないが、社交の場はわけが違う……。
後先考えずに依頼を受けてしまう自分の性格に、ここまで後悔したこともあまりないかもしれない。それほど、合コンというイベントは久遠にとって未踏で不安な課題だった。
ありすからの最後のLINE、
『この間はありがとう!
日付はやっぱり再来週の金曜で変更なしです!時間はみんなが仕事終わる頃、19:30で予約取りました!
場所は、赤坂の――』
というURL付きのメッセージを見て、やっぱりあの時の約束は確定してしまっているのだなとため息をつく。ありすにじゃない。後々こんなに後悔することも考えないで、応じてしまった自分の浅さにだ。
だけど、今日はくよくよしている場合じゃない。
久遠は持ち物が全て揃っているかを、昨晩作った持ち物リストと照らし合わせながら指差し確認する。
――よし。
久遠はキャリーケースとサブバッグを持ち、家を出た。
今日は、ネクサイユに勤めてから初めての出張なのだ。月曜から金曜日の4泊5日。行先は、海が見える病院があるという伊豆だ。
その病院は、先日の医療展示会よりも前からブリッジノートに関心を持ってくれていて、既に導入しているらしい。その使用感やデータを共有してもらうために、今回神永チームが出向くのだ。
神永チームと言っても、実際に向かうのは、3名のみ。久遠と谷口と、それから神永だ。
この出張が決まった際は動揺したが、今まで2人になってしまっていた仕事と違い、今回は谷口がいる。これは、かなりでかい。谷口がいてくれるだけでも、神永との閉塞的な緊張感はかなり緩和されるはずだ。
それに何より、今の久遠は、神永一織に既に彼女がいることを知っている。その事実は、神永と2人になってしまうと変に浮き出す不安定なあの気持ちを、容易く沈めてくれる機能を持っていた。
ありすとの間で決まってしまった気が重い予定についての懸念から逃げるように早足で歩き、最寄りまで東京駅へ向かう。東京駅から新幹線に乗ることになっており、彼らとの待ち合わせは駅構内の新幹線乗り場だった。
待ち合わせまではあと20分ある。さすがに久遠が一番乗りかと思われたが、約束の場所にあの異次元のスタイルの人物を見つけてしまい、ため息をついた。
東京駅の慌ただしい人混みがスローモーションに見える。彼の存在を際立たせるために、自分の視界に変な加工が入った。
気持ちを、一派遣社員という無色なものへ切り替えるために、久遠はギュッと目を瞑った。そしてまた、キャリーケースをひいて歩き出す。
「お疲れさまです」
久遠が話しかけると、神永は文庫本に落としていた視線を上げ、久遠を認めると「おはよう」と返してくれた。
本をしまう手をなんとなく視線で追ってしまうが、どの指にも指輪は嵌められていなかった。そんなことを無意識に確認してしまう自分はまだ、一派遣社員モードへの移行が完了していないみたいだ。
そして辺りを見回してみるが、谷口の姿はまだ見当たらない。
「……あのね、残念なお知らせがあるんだけど」
神永のやけに改まった導入に、久遠は不思議に思い、神永の方を見た。その顔は、普段と変わらないように見えたけれど、よく見ると、その目に力がない。
「今朝、谷口から連絡があってね。インフルになっちゃったって」
はっきり言って、大後悔中である。
合コンなんて、その場のノリで約束しなきゃよかった……。
久遠は、先週の金曜夜にありすと取り付けてしまった約束を思い出していた。
今日からまた月曜日。朝ごはんを食べ、歯磨きをしている久遠の顔は、鏡の中でどんよりと曇っている。
自分が参加するだけで困ってる人の力になれるならとその場の勢いで返事をしてしまったけれど、人には、得手不得手がある。
仕事は、たとえその勢いで引き受けたとしても何とか自分なりにやり遂げればいいので後悔することはないが、社交の場はわけが違う……。
後先考えずに依頼を受けてしまう自分の性格に、ここまで後悔したこともあまりないかもしれない。それほど、合コンというイベントは久遠にとって未踏で不安な課題だった。
ありすからの最後のLINE、
『この間はありがとう!
日付はやっぱり再来週の金曜で変更なしです!時間はみんなが仕事終わる頃、19:30で予約取りました!
場所は、赤坂の――』
というURL付きのメッセージを見て、やっぱりあの時の約束は確定してしまっているのだなとため息をつく。ありすにじゃない。後々こんなに後悔することも考えないで、応じてしまった自分の浅さにだ。
だけど、今日はくよくよしている場合じゃない。
久遠は持ち物が全て揃っているかを、昨晩作った持ち物リストと照らし合わせながら指差し確認する。
――よし。
久遠はキャリーケースとサブバッグを持ち、家を出た。
今日は、ネクサイユに勤めてから初めての出張なのだ。月曜から金曜日の4泊5日。行先は、海が見える病院があるという伊豆だ。
その病院は、先日の医療展示会よりも前からブリッジノートに関心を持ってくれていて、既に導入しているらしい。その使用感やデータを共有してもらうために、今回神永チームが出向くのだ。
神永チームと言っても、実際に向かうのは、3名のみ。久遠と谷口と、それから神永だ。
この出張が決まった際は動揺したが、今まで2人になってしまっていた仕事と違い、今回は谷口がいる。これは、かなりでかい。谷口がいてくれるだけでも、神永との閉塞的な緊張感はかなり緩和されるはずだ。
それに何より、今の久遠は、神永一織に既に彼女がいることを知っている。その事実は、神永と2人になってしまうと変に浮き出す不安定なあの気持ちを、容易く沈めてくれる機能を持っていた。
ありすとの間で決まってしまった気が重い予定についての懸念から逃げるように早足で歩き、最寄りまで東京駅へ向かう。東京駅から新幹線に乗ることになっており、彼らとの待ち合わせは駅構内の新幹線乗り場だった。
待ち合わせまではあと20分ある。さすがに久遠が一番乗りかと思われたが、約束の場所にあの異次元のスタイルの人物を見つけてしまい、ため息をついた。
東京駅の慌ただしい人混みがスローモーションに見える。彼の存在を際立たせるために、自分の視界に変な加工が入った。
気持ちを、一派遣社員という無色なものへ切り替えるために、久遠はギュッと目を瞑った。そしてまた、キャリーケースをひいて歩き出す。
「お疲れさまです」
久遠が話しかけると、神永は文庫本に落としていた視線を上げ、久遠を認めると「おはよう」と返してくれた。
本をしまう手をなんとなく視線で追ってしまうが、どの指にも指輪は嵌められていなかった。そんなことを無意識に確認してしまう自分はまだ、一派遣社員モードへの移行が完了していないみたいだ。
そして辺りを見回してみるが、谷口の姿はまだ見当たらない。
「……あのね、残念なお知らせがあるんだけど」
神永のやけに改まった導入に、久遠は不思議に思い、神永の方を見た。その顔は、普段と変わらないように見えたけれど、よく見ると、その目に力がない。
「今朝、谷口から連絡があってね。インフルになっちゃったって」
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