【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影

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第二章

92話:二人を結ぶ形③

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 店内に並ぶいくつもの輝きの中で、2人の視線が吸い寄せられるように一点で止まった。

「……これ、綺麗」

 差し出されたトレーの上で静かに光を放っていたのは、緩やかなV字のカーブを描くペアリングだった。男性用は、シンプルで潔い、知的な輝きを放つシルバー。女性用は、優しいピンクゴールド。

「本当だね。試させてもらおっか」

 彼は店員の女性を呼んでくれ、2人はそれぞれその指輪を右手の薬指へと滑り込ませた。 

 リングの中央でゆるやかに重なり合うデザインは、まるで、別々の道を歩んできた2人がある一点で交わり、再び共に歩み始める姿を象徴しているみたいだった。

 さっき彼が選んでくれた、真っ白なツイードの袖口。そこから覗く薬指に、2人を繋ぐ"形"が煌めいている。

「久遠、すごく似合ってる」

 神永は自分の左手を、久遠の手の隣に並べる。リングの色は違っても、その独創的なフォルムは鏡合わせのように重なり、店内に差し込む陽の光を反射してキラキラと輝いている。

「一織くん、私、これが好きだな」

 久遠がはっきりとそう告げると、神永は眩しそうな顔をして、久遠の手を優しく包み込んでくれた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 ジュエリーショップの扉を押し開ける。店員が店の外まで2人を見送ってくれたので、神永と久遠は会釈をして店をあとにした。

 久遠の手元には、指輪の入った小さな小さな紙袋。それをまるで宝物を検分するように、涼やかな青空にかざして眺めてみる。

「一織くん、本当にありがとう」

 車通りのない路地で足を止め、神永を振り返った。久遠に見上げられた神永はふっと笑い、久遠の手から優しく紙袋を引き取る。

「こちらこそありがとう。俺が欲しかったもの、一緒に選んでくれて」

 神永は、一歩久遠と距離を詰めると、紙袋の中から小箱を取り出しながら、柔らかい表情のまま言った。

「焦ってるとか、子どもっぽいとか思われたっていいから、何か俺たちを繋げてくれるものが欲しかったんだ。……それに、これをつけてれば『彼氏いますよ』っていう証明になるでしょ? 久遠のこと縛れる」

 ニコニコと恐ろしいほど綺麗な顔で言うものだから、それが明け透けな束縛のメッセージだということに一瞬気づかなかった。2人の頭上を覆っている清々しい青空に似合わない彼の毒気に久遠は驚きつつも、彼の中に自分と同じだけの離れたくないという熱量があることを知って、胸が熱くなる。

「こんなにたくさん幸せもらっちゃって、私、どうやって返したらいいのか分からないんだけど……」

 神永の指が小箱の紐を器用に解いていくのを見つめながら久遠が言うと、彼はふっと鼻で笑った。

「もう、久遠はそうやって……。んーだから、ずっとこれをつけていてくれるのが、俺へのお返しになるのかな。強いて言うなら、だけど」

「でも、今日だけでこんなにもらっちゃって……」

 まだ食い下がる久遠に、神永は困ったように眉を下げた。そして、久遠の緊張を解きほぐすように付け加える。

「そうやって言うけど、この指輪そんなに高いものじゃないから。そこまで言われちゃうと、かえってもっと高いものあげればよかったって思っちゃうかも」

「えっ……」

「本当はもっと高い店にしようかなぁとかも考えたんだけど……必要ないかなと思ってやめたんだ。どうせこの指輪、そんなに長くは使わないから」

 その言葉に、久遠の心臓が冷たく跳ねた。 

 せっかく選んだのに。あんなに幸せな気持ちで、一生大切にしようと思っていたのに、どうして――?

 どうせ使わなくなる。そんな鋭い言葉で突き放す彼の意図が分からず、幸せだった気分が、一気に不安へと書き換えられていく。

「……ずっと、つけてたらダメ……なの?」

 消え入りそうな声で、縋るように問う。彼は、2人の関係についてもう終わりのことを考えているのだろうか。

 久遠のトーンが一気に落ちたことに気がついたのか、神永は「あ、ごめんごめん」と声を上げて笑った。その笑い声はどこまでも明るく、慈しみに満ちている。

「俺が今言ったのはね――」

 彼はそう言いながら、今にも泣きそうな顔をしている久遠と目線を合わせてくれる。久遠と対照的に、彼の目は三日月のような美しい弧を描いている。

「どうせすぐ婚約指輪を渡すことになるから、恋人期間のためのリングは、すぐに必要じゃなくなるかなって思っただけなんだ」

「…………え?」

 さらりと、あまりにも日常の延長線のようなトーンで、彼は未来の約束を口にした。 思考が停止する久遠を余所に、神永は久遠の右手をそっと引き寄せる。

「だから、これはそれまでの繋ぎ。いい?」

 そう言って、ピンクゴールドのリングが久遠の薬指に滑り込んできた。 さっき店内で試着した時よりも、ずっと確かな重み。そして、言葉として届けられた彼の覚悟。 視界が急に潤んで、2人だけしかいないなんの変哲もない路地の景色がキラキラと滲んでいく。

「うん。……一織くんも」

 久遠は、もう一つのリングを手に取った。彼の大きな、綺麗な指。そこにシルバーのリングを丁寧にはめる時、自分の指先から彼へと、これまでの8年間の想いと、これからの未来への約束が伝わっていくような気がした。

 表参道の街角で結ばれた2つの手。爽やかな風が、見つめ合って笑う2人を祝福するように吹き抜けていった。
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