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第三章 魔族姫と白髪の聖女編
63:遅れて現れた者
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「あ、あああ、ああああああああああああ!!」
言葉にならない奇声を発しながらノームがエレナの死体に手を伸ばしたところで腹部に強い衝撃が加えられる。そして身体が空を切り、背中に激痛が走った。
どうやら獣耳の男に地面に向けて蹴り飛ばされたらしい。
ノームはハッハッと浅い息を繰り返すと頭を抱える。周りを見てもどこにもエレナの死体はなかった。おそらく今のはオッドアイの悪魔の能力による幻覚だろう。そう理解できた瞬間、心の底から安堵した。綺麗に着地してきたオッドアイの悪魔をノームは睨む。
「くっ、最悪な能力だな……」
「おやおやぁ、今の一瞬では少し甘かったですかね? 次はもう少し残酷な夢を見せてあげる事にしましょう。そう、貴方様が怠惰するその時までね」
「ぐだぐだうるせぇじゃんベルフェゴール! このクソ勇者は俺っちが殺す!! てめぇはチャチャ入れてくんじゃねぇじゃん死ネ!!!!!!」
「ふふ、死ねなんて言葉をよりにもよってこの吾輩に言うとは……貴方は本当に面白い御方だベルゼブブ」
彼らの会話からどうやら獣耳の方はベルゼブブ、オッドアイの方はベルフェゴールという名前というらしい。二人がそんな会話をしている隙に樹人が二人へ拳を振り落とす。広場が揺れるほどの衝撃だったが、悪魔二人が身軽過ぎるのかあっさりと避けられてしまっていた。この悪魔二人相手に巨大樹人を使役しているメリットがない。ノームが樹人の太い足に触れ、「解除!」と唱えるとがみるみるうちに樹人の身体が裂け、朽ちていく。魔族達を拘束している樹人達には影響のない、巨大樹人のみの限定解除だ。樹人の残骸の上に着地したベルゼブブとベルフェゴールがこちらを見下ろしている。
「おや、もう巨人ごっこは終わりですか? まぁ賢明でしょう。貴方が庇っている魔族も民衆も巻き込みやすいですからね」
「どうでもいいじゃん死ね!!」
悪魔二人が再びノームに猛撃してくる。ノームはベルフェゴールに触れられないようにしつつ、ベルゼブブの牙を受け止めるので精いっぱいだった。回避のみで攻撃がなかなか出来ない。何か次の手を考えなければ、とノームが思考を巡らせた時──どこからか、彼のこめかみに石が飛んできた。それに気を取られてしまい、一瞬の隙を生んでしまうノーム。ベルフェゴールがそれを見逃すはずがなかった。
「はい、触れさせていただきました」
「っ! ぐぁっ、」
今度は彼に思い切り抱きしめられてしまった。耳元で息を吹きかけられ、ノームがすぐに剣を振ったがベルフェゴールはまたもや後方へ。ノームは目を抑えた。瞼を閉じているというのに、強制的に幻覚を見てしまう。目の前にまたエレナの死体が現れる。しかも今度はもっと最悪だ。ノーム自身が、エレナの身体に馬乗りし、その死体に何度も何度もナイフを突き立てて──それを理解した瞬間、ノームは吐き気を催した。頭を振り、発狂する。やめてくれと叫んでも、幻覚は止まらない。そして、ノームが膝を崩した瞬間──
「ぐ、あああああああ!!!」
──右腕に激痛が走る。その痛みで我に返ると、ノームの右腕にベルゼブブが喰いついていた。ベルゼブブはノームの皮膚を食いちぎると、口についた血をペロリと舐める。ノームは咄嗟に地面に手を付け、「僕よ!」と叫んだ。地面が盛り上がり、ベルゼブブの足を掴む手へと変貌する。そして彼の身体を振り回し数回地面に叩きつけた。ノームは右腕を抑え、流れていく血に唇を噛みしめる。まだ土の勇者として未熟な自分が既に限界など越えてしまっていることをじわじわと実感しながら、必死に倒れまいと踏ん張った。
……と、ここでベルフェゴールがノームの背後を見て「おやおや」と興味深そうに呟いた。自分の背後から影が差したことに気づき、ノームが振り向く。そこにいたのは──蠢く赤い瞳でノームを見下ろすレイナだった。レイナはしばらく無言でノームを見据えていたが、そっと彼に手を伸ばす。
「──死にぞこないのくせに」
「っ、」
レイナがノームの首を掴んだ。ノームは足掻くが、魔力の使いすぎによりレイナの手を振りほどく力すら残されていなかった。ぐぐぐ、と喉を圧迫され、息苦しくなる。
「が、はぁっ、」
「許せない、許せない許せない。あたしとセロ様の邪魔をするなんて許せない。絶対に殺してやるから。絶望に沈んで沈んで、あの女の下へ行くといいわ」
「っ、あ、の、おん、な……?」
レイナはそう尋ねるノームに「そういえば知らないんでしたっけ」とわざととぼけた。そしてこの状況に似合わない無垢な笑みを浮かべると──
「アンタの想い人、死んだの。今頃キメラに食い散らかされてそりゃあもうぐっちゃぐちゃになっているはずね。ふふ、昨晩はずぅっと遊んであげたし、あの子も満足して死んでいったはずよ」
「──、うそ、だ……」
「別に信じなくてかまわないわよ? だってアンタももう死ぬんだから!」
ノームは頭が真っ白になった。涙で視界が歪む。自分の背後には守るべき民達がいる。それなのにこうしてあっけなく殺されそうになっている自分への情けなさと、想い人の安否を確認出来ない苦しみに精神が侵食されていった。まだ残る意識の中、ひたすらエレナの名を呼ぶ。
──しかしノームの涙が顎を伝って地面に滴り落ちた時、事態は急変する。
「レイナ、やめるんだ」
静かな声だった。レイナが顔色を変え、慌ててノームから手を離す。ノームはギリギリのところで酸素を取りこむことができ、それを必死に味わった。顔を上げると、レイナを止めた声の主は──風の勇者シルフ。ノームは思わず彼の名前を叫んだ。
「シルフ! 来てくれたのか!!」
「やぁ、ノーム殿下。驚いたよ。まさか君が勇者になっているなんて」
シルフはノームに手を伸ばし、微笑する。相変わらず飄々としているものの、彼の実力はノームも知っていた。なんとか彼に腕を引かれ、ノームは立ち上がる。涙を拭い、地面に落ちていた剣を再び握った。
「シルフ! お前がいてくれるのは心強い! 頼む、どうか余と一緒にたたかっ──」
「──セロ様!!」
レイナの頬がピンク色に染まる。そして乙女のような黄色い声を発しながら、レイナはシルフに熱のこもった瞳を向けた。ノームはそんなレイナに唖然とするしかない。
「レイナ、いや、今はレヴィというべきかな。レヴィ、随分と無理をしているようだけど大丈夫?」
「はい! セロ様の為ならば、あたしは限界なんていくらでも超えることができます!」
「おい、なんでここに現れたじゃんセロ。お前は様子見だけって言ってたじゃん!」
「そんなつまらないことを言わないでよベルゼブブ。ボクとマモンだけ仲間はずれなんて嫌だよ。どうせ遊ぶなら、皆一緒がいいじゃないか」
──どうなっている、余の目の前で何が起こっているんだ?
ノームはシルフと悪魔達が親し気に話しているのを見て──また、彼が「セロ」と呼ばれていることに気づき──一つの結論にたどり着いた。
──まさか、そんな。そんなわけ、ないだろう……。
しかしそんなノームの反応を楽しむかのように、ベルフェゴールが恭しくシルフを指した。
「何やらノーム殿下が戸惑っているご様子ですのでこの吾輩がご紹介しましょう。殿下、この御方こそ──我らが大罪の悪魔の創造主である原初の悪魔様でございます。以後はシルフではなく、そうお呼びください」
原初の悪魔。その言葉にノームはぐらりと視界が揺れる。シルフ──否、セロはそんなノームを一瞥した。その向けられた瞳は──レヴィアタン、ベルゼブブ、ベルフェゴールと反響し合っているかのように真っ赤に、染まっていた……。
言葉にならない奇声を発しながらノームがエレナの死体に手を伸ばしたところで腹部に強い衝撃が加えられる。そして身体が空を切り、背中に激痛が走った。
どうやら獣耳の男に地面に向けて蹴り飛ばされたらしい。
ノームはハッハッと浅い息を繰り返すと頭を抱える。周りを見てもどこにもエレナの死体はなかった。おそらく今のはオッドアイの悪魔の能力による幻覚だろう。そう理解できた瞬間、心の底から安堵した。綺麗に着地してきたオッドアイの悪魔をノームは睨む。
「くっ、最悪な能力だな……」
「おやおやぁ、今の一瞬では少し甘かったですかね? 次はもう少し残酷な夢を見せてあげる事にしましょう。そう、貴方様が怠惰するその時までね」
「ぐだぐだうるせぇじゃんベルフェゴール! このクソ勇者は俺っちが殺す!! てめぇはチャチャ入れてくんじゃねぇじゃん死ネ!!!!!!」
「ふふ、死ねなんて言葉をよりにもよってこの吾輩に言うとは……貴方は本当に面白い御方だベルゼブブ」
彼らの会話からどうやら獣耳の方はベルゼブブ、オッドアイの方はベルフェゴールという名前というらしい。二人がそんな会話をしている隙に樹人が二人へ拳を振り落とす。広場が揺れるほどの衝撃だったが、悪魔二人が身軽過ぎるのかあっさりと避けられてしまっていた。この悪魔二人相手に巨大樹人を使役しているメリットがない。ノームが樹人の太い足に触れ、「解除!」と唱えるとがみるみるうちに樹人の身体が裂け、朽ちていく。魔族達を拘束している樹人達には影響のない、巨大樹人のみの限定解除だ。樹人の残骸の上に着地したベルゼブブとベルフェゴールがこちらを見下ろしている。
「おや、もう巨人ごっこは終わりですか? まぁ賢明でしょう。貴方が庇っている魔族も民衆も巻き込みやすいですからね」
「どうでもいいじゃん死ね!!」
悪魔二人が再びノームに猛撃してくる。ノームはベルフェゴールに触れられないようにしつつ、ベルゼブブの牙を受け止めるので精いっぱいだった。回避のみで攻撃がなかなか出来ない。何か次の手を考えなければ、とノームが思考を巡らせた時──どこからか、彼のこめかみに石が飛んできた。それに気を取られてしまい、一瞬の隙を生んでしまうノーム。ベルフェゴールがそれを見逃すはずがなかった。
「はい、触れさせていただきました」
「っ! ぐぁっ、」
今度は彼に思い切り抱きしめられてしまった。耳元で息を吹きかけられ、ノームがすぐに剣を振ったがベルフェゴールはまたもや後方へ。ノームは目を抑えた。瞼を閉じているというのに、強制的に幻覚を見てしまう。目の前にまたエレナの死体が現れる。しかも今度はもっと最悪だ。ノーム自身が、エレナの身体に馬乗りし、その死体に何度も何度もナイフを突き立てて──それを理解した瞬間、ノームは吐き気を催した。頭を振り、発狂する。やめてくれと叫んでも、幻覚は止まらない。そして、ノームが膝を崩した瞬間──
「ぐ、あああああああ!!!」
──右腕に激痛が走る。その痛みで我に返ると、ノームの右腕にベルゼブブが喰いついていた。ベルゼブブはノームの皮膚を食いちぎると、口についた血をペロリと舐める。ノームは咄嗟に地面に手を付け、「僕よ!」と叫んだ。地面が盛り上がり、ベルゼブブの足を掴む手へと変貌する。そして彼の身体を振り回し数回地面に叩きつけた。ノームは右腕を抑え、流れていく血に唇を噛みしめる。まだ土の勇者として未熟な自分が既に限界など越えてしまっていることをじわじわと実感しながら、必死に倒れまいと踏ん張った。
……と、ここでベルフェゴールがノームの背後を見て「おやおや」と興味深そうに呟いた。自分の背後から影が差したことに気づき、ノームが振り向く。そこにいたのは──蠢く赤い瞳でノームを見下ろすレイナだった。レイナはしばらく無言でノームを見据えていたが、そっと彼に手を伸ばす。
「──死にぞこないのくせに」
「っ、」
レイナがノームの首を掴んだ。ノームは足掻くが、魔力の使いすぎによりレイナの手を振りほどく力すら残されていなかった。ぐぐぐ、と喉を圧迫され、息苦しくなる。
「が、はぁっ、」
「許せない、許せない許せない。あたしとセロ様の邪魔をするなんて許せない。絶対に殺してやるから。絶望に沈んで沈んで、あの女の下へ行くといいわ」
「っ、あ、の、おん、な……?」
レイナはそう尋ねるノームに「そういえば知らないんでしたっけ」とわざととぼけた。そしてこの状況に似合わない無垢な笑みを浮かべると──
「アンタの想い人、死んだの。今頃キメラに食い散らかされてそりゃあもうぐっちゃぐちゃになっているはずね。ふふ、昨晩はずぅっと遊んであげたし、あの子も満足して死んでいったはずよ」
「──、うそ、だ……」
「別に信じなくてかまわないわよ? だってアンタももう死ぬんだから!」
ノームは頭が真っ白になった。涙で視界が歪む。自分の背後には守るべき民達がいる。それなのにこうしてあっけなく殺されそうになっている自分への情けなさと、想い人の安否を確認出来ない苦しみに精神が侵食されていった。まだ残る意識の中、ひたすらエレナの名を呼ぶ。
──しかしノームの涙が顎を伝って地面に滴り落ちた時、事態は急変する。
「レイナ、やめるんだ」
静かな声だった。レイナが顔色を変え、慌ててノームから手を離す。ノームはギリギリのところで酸素を取りこむことができ、それを必死に味わった。顔を上げると、レイナを止めた声の主は──風の勇者シルフ。ノームは思わず彼の名前を叫んだ。
「シルフ! 来てくれたのか!!」
「やぁ、ノーム殿下。驚いたよ。まさか君が勇者になっているなんて」
シルフはノームに手を伸ばし、微笑する。相変わらず飄々としているものの、彼の実力はノームも知っていた。なんとか彼に腕を引かれ、ノームは立ち上がる。涙を拭い、地面に落ちていた剣を再び握った。
「シルフ! お前がいてくれるのは心強い! 頼む、どうか余と一緒にたたかっ──」
「──セロ様!!」
レイナの頬がピンク色に染まる。そして乙女のような黄色い声を発しながら、レイナはシルフに熱のこもった瞳を向けた。ノームはそんなレイナに唖然とするしかない。
「レイナ、いや、今はレヴィというべきかな。レヴィ、随分と無理をしているようだけど大丈夫?」
「はい! セロ様の為ならば、あたしは限界なんていくらでも超えることができます!」
「おい、なんでここに現れたじゃんセロ。お前は様子見だけって言ってたじゃん!」
「そんなつまらないことを言わないでよベルゼブブ。ボクとマモンだけ仲間はずれなんて嫌だよ。どうせ遊ぶなら、皆一緒がいいじゃないか」
──どうなっている、余の目の前で何が起こっているんだ?
ノームはシルフと悪魔達が親し気に話しているのを見て──また、彼が「セロ」と呼ばれていることに気づき──一つの結論にたどり着いた。
──まさか、そんな。そんなわけ、ないだろう……。
しかしそんなノームの反応を楽しむかのように、ベルフェゴールが恭しくシルフを指した。
「何やらノーム殿下が戸惑っているご様子ですのでこの吾輩がご紹介しましょう。殿下、この御方こそ──我らが大罪の悪魔の創造主である原初の悪魔様でございます。以後はシルフではなく、そうお呼びください」
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