黄金の魔族姫

風和ふわ

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【没】第五章 エレナと不屈の魔導士たち

93:“元”婚約者

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 シュトラール城の中庭。何百、何千という花々に囲まれたベンチでエレナとウィンは二人きりであった。エレナはスカートの裾をぎゅっと握りしめる。その手には汗が滲んでいた。瞼の裏で、ウィンと二人きりで話したいと言った時の不安げなノームの表情が強く残っている。エレナは深呼吸をするとようやくウィンに顔を向けた。

「それで、お話とはなんでしょうか。ウィン様」
「……っ、その、まずは君に謝罪したい。僕は君に酷いことをした。謝罪で許されることではないと分かっているが──」
「酷いこと、とはスペランサが私を処刑しようとしたことでしょうか」

 ウィンの口がぐっと閉じた後、小さく「その通りだ」と聞こえてくる。エレナは目を伏せた。

「そのことならばウィン様が謝罪する必要はありません。あの時の恩恵教にとって魔族とは罪そのものだったのですから。私はそんな恩恵教に所属していながらも魔族の子供を逃がしたのは紛れもない事実。私は恩恵教を裏切ったんです。あの婚約破棄と処刑は正当なものであったと理解しています」
「……それでも、長年僕を支えてくれた君への恩を忘れて僕が君を殺そうとしたことには変わらない」
「!」

 このウィンの言葉には驚いた。ウィンが自分に“恩”を感じているとは夢にも思っていなかったのだ。

「謝って許されるとは思っていない。だがそれは謝らない理由にもならない。……すまなかったな、エレナ。僕は恩恵教から君を守れなかった。本当に、すまない……!!!」

 ウィンがベンチから立ち上がり、エレナに深く頭を下げる。ポタリポタリとウィンの瞳からこぼれた雫が地面に落ちた。エレナはそれが広がっていくのを見て──自分も立ち上がり、頭を下げる。

「私の方こそ、申し訳ございません」

 ウィンが戸惑う息遣いが聞こえた。エレナは彼に断罪されようとした時の彼の言葉を思い出す。

 ──『どうして僕より自分の信条を優先した?』

(そうだ、私は身分の剥奪や処刑を覚悟の上でオリアス達を助けた。つまりそれは、ウィン様と共に歩む未来よりもあの子達を選んだということ。あの時、ウィン様は泣きそうだった。恋愛対象ではなかったとはいえ、長年一緒にいた婚約者に裏切られて傷ついたのかもしれない。そのことに対しては謝らないと)

「……貴方の言う通り、私は貴方との未来よりも友達を助けたいという自分の信条を選んだ。魔族の子供達を助けたこと自体は謝るつもりもありませんし、後悔もしておりません。けれど貴方を裏切り、傷つけたことには謝ります。申し訳ございません」

 顔を上げると、ウィンは言葉を詰まらせていた。瞬きをし、その際に綺麗な涙がまた彼の頬を流れる。そして穏やかに微笑するとエレナに手を差し出した。これで、終わりにしよう。彼はそう言った。エレナも頷いて、その手を握る。

 ……その時、だった。

「はは、これでだな。君がノーム殿下を誘惑していると知った時は流石に動揺したよ。僕の嫉妬を促すなんて、君は本当に可愛いらしい」
「……、……は?」

 エレナは口をあんぐりと開ける。身の危険を察し、握った手を引こうとしたがウィンがそれを許さなかった。皮膚が歪むほど、強く手首を捕らえられてしまった。ウィンは顔が赤く染まっており、吐息が荒い。もう片方の腕がエレナの背中に回り、引き寄せられる。

「君を一度手放してしまってすまない。僕は断固拒否したんだが、父上と大臣達がどうしても君を許さなかったんだ。レイナという厄介な存在が現れたのもあって君を処刑するしかなかった。でも勿論、それでも僕は君を愛するつもりだった。君のは僕のものにしていいと父上は言ってくれたからな……」
「っ、ウィン、様? 何を言って……」
「?? 何って、という話だが?」
「!!」

 エレナは暴れた。しかしウィンの腕が強くエレナに巻き付いている。エレナの頭は混乱していた。断罪前はエレナが話しかけても無表情だった彼が突然エレナに執着を見せるようになったのだから無理もないだろう。それに彼はエレナに彼女を「好き」だと一度も言ってきたことはない。それ故にエレナには今のウィンの言葉が過剰に不気味で気色の悪いものに感じられたのだ……。
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