お腐れ令嬢は最推し殿下愛されルートを発掘するようです~皆様、私ではなくて最推し殿下を溺愛してください~

風和ふわ

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第1章 リオン・ムーン・ヴィエルジュ編

第4話:親の顔より見た周回ステージを舐めていた

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 ネアンの森。「黎明のリュミエール」ではレベル上げのための周回ステージになっていた場所だ。

 ゲームではゴブリンやスライムの二種類が主に生息しているという情報しか分からないため、親の顔より見たステージといえどディアにとっては未知の場所と言ってもいい。
 本当ならば情報収集等の準備を万端にしてから、といきたいところだが、最悪な事に「今日中に」という時間制限がある。

 ディアはとりあえず従者のリンの目を盗んでどうにか屋敷を抜けだした。

「──はぁ!? ネアンの森に行きてぇだぁ!?」
「しーっ! 色々と訳ありなんですから大きな声を出さないで!」

 ディアは口に人差し指を当てた。運送屋の男は「おっと」と口を押さえると、怪しいフードマントに身を包むディアをジロジロ観察する。

「ネアンの森はアンタみたいなおこちゃまが行くところじゃねぇよ。悪いが、俺だって他人の自殺を手伝う気はねぇ」
「自殺なんかしません!! 運送屋さんの移動魔法を使えば、今日中に森にたどり着けますわよね? 私、どうしても今日森に行かないといけないんです!! お願いします!!」
「う、うーん……。嬢ちゃんに何か事情があるのは分かったが……」

 運送屋は顎に手を当てて、迷っているようだ。

(主人公が原作にて運送屋で移動する場面を思い出して正解だったみたいね。移動魔法で任意の場所に行くには、発動者が実際にそこへ行って魔法陣を残す必要があるらしいけれど……。おじさんの言い方からして、彼自身は森に行ったことがあるみたい)

 ──ならば、と。

 ディアは懐から強い輝きを放つ真っ赤な宝石の指輪を取り出した。こういう時のためにと家から持ってきたものだ。後で母からこっぴどく叱られることを覚悟して、運送屋に見せつける。
 運送屋は案の定、目を見開かせた。

「お、お、お嬢ちゃん! こりゃあ……!!」
「これが往復分の代金です。お願いだから、すぐに私を森に送ってください!」
「へ、へい!! 勿論ですとも! ちなみにこっちに帰る時は俺の魔法陣に触れて待っててくれよ。すぐに転送するからよ!」
「分かりましたわ」

 どうやら宝石は効果てきめんのようだ。運送屋が手を揉み始めた。
 さっそくディアの足元に慣れた手つきで魔法陣を描き始める。

「よし! それじゃあ転送するぜ、嬢ちゃん! ……あっ! そういや言い忘れてたが、移動中にどこか身体の部分がなくなっちまっても責任は取らねぇからよろしくな!」
「えっ!?!?」

 「先に言え」と怒鳴りたくなるような恐ろしい忠告の後、すぐさま視界が真っ暗になる。ディアは思わず目を瞑った。

 数秒後、目を開けた時には森の中だった。
 自分よりも背の高いきのこに、どこかじめっとした空気感。昼のはずなのに日光は木々に遮られ、薄暗い。湿った草木と土の匂いが鼻を擽る。

「間違いないわ。ここは確かにネアンの森。周回の際に何度もステージの背景を見ているから、分かる!」

 作戦は成功。次は魔花を探すのみ。

「えっと、魔花は確か魔法を宿している者が近づけば光るお花だったはず。どんな見た目のお花なのかは分からないけれど、そこらへんをウロウロしていればきっと見つかるわよね。お守り程度だけど魔物よけの護符も持ってきたし、音を立てずに気配を殺して歩けばきっと大丈夫……」

 ──でも、もし見つかってしまえば?

 そんな不安が心を襲った。ぎゅっとドレスを握り締める。恐怖を払うように首を振った。
 怖いのは当たり前だ。まだ魔物に対抗する手段がないくせにこの森に来た自分の愚かさを誰よりも自分が分かっているのだから。

 だが、この機を逃してしまったら約束通り、リオンはディアの話を聞いてくれないだろう。
 
(でも、まさかこんなことになるなんて。初っ端から難易度が高すぎだわ……)

 ディアはため息をこぼした。

「リオンとの接触を一番に選んだのは、もしかしたら本来のディアの感情が私にも宿っているのからかしらね。ゲームのディアはずっとリオンと仲良くなることを望んでいたから」

 だが皮肉な事に、ディアが死亡する確率はリオンルートが圧倒的に高い。
 からして、仕方ないのかもしれないが。

 「黎明のリュミエール」の攻略キャラ達は各々闇を抱えている。リオンも例外ではない。

 リオンは実はディアの実の兄ではない。元々は従兄妹だったが、養子としてヴィエルジュ公爵家に入ってきたのだ。
 リオンの本当の両親はドラゴンに喰われ、死んでいる。……リオンの目の前で。
 その時、リオンは無惨に喰われていく両親を見て、こう思った。

 ──人間では、魔族に勝てない、と。

 ならばどうするか。魔族よりも強い人間を

 故にリオンはヴィエルジュ家に入った後、両親を失った孤独を抱えながらも魔族・魔物の研究に明け暮れていた。
 ちなみにリオンルートのクライマックスでは好感度がMAXでもリオンの闇落ちは不可避になっている。魔族の血を飲み続けることで魔族化を果たしたリオンが主人公や攻略キャラに襲いかかるという展開に必ずなるのだ。バッドエンドでは主人公がリオンに殺されるか、他の攻略キャラにリオンが殺されるかのどちらかだった。
 ハッピーエンドではリオンの魔族化を主人公が治癒魔法の奇跡で食い止め、リオンは人間に戻ったはずだ。

「そう考えるとやっぱりリオンから魔法を習った方がいいわね。彼の魔族の研究に費やす時間も減らせるわけだし」

 ディアはリオンルートの流れを思い出す。

 たしか、リオンルートの終盤では『両親を失った孤独で気がおかしくなって、魔族化こんなことをしてしまったのかもな……』というリオンの台詞に対して主人公が泣きながら『もっと私が早く貴方に出会い、傍にいたかった』と言う場面があった。
 あの場面はクリス様推しのディアも思わずうるっと泣いてしまいそうだった。

 つまりはリオンを独りにする時間も減らせば、リオンルートのバッドエンドを防ぐこともできるというわけだ。これはリオンルートで殺される確率が高いディアにとって大きな収穫である。
 
「ついでにクリス様も誘って一緒に魔法の指導をしてみるのもいいかもしれないわね! リオン×クリスのカップリングを傍で観察できるいい機会になるだろうし……うふふ!」

 そんな事を考えている途中で、ディアはハッとした。視界の端で何かが光ったような気がしたからだ。

 まさか、と思いそちらを見てみると──少し先の辺り一面に地面を埋め尽くすほどの様々な花が輝いていた。ディアに反応して光度が変わっているため、おそらく魔花で間違いない。

「い、いつの間にこんな魔花が!? 全く気付かないほど考え事をしていたのかしら……。はっ! そんなことよりも、早く魔花を取ってさっきの運送屋の魔法陣にもっていかないと! ふふ、これでリオンにも認められるわよね! 私の偉大なる作戦への大きな一歩だ、わ……? ……あれっ?」

 足を踏み入れたその瞬間──ぐるんっと視界が揺れた。

「え、」

 地面には落とし穴があったのだ。それに気づいた時には体中を透明の粘膜が覆っていた。

(これは──スライム!? もしかして、今の魔花は幻覚!?)

 この森のきのこ達の胞子には幻覚作用でもあったのだろうか。ゲームではたかが周回ステージのそんな細かい描写などあるはずもないから分からなかった。
 そう考えている間にも、ディアは息苦しくなる感覚に襲われていた。このままでは溺死してしまう。
 前世で風呂で溺れた記憶がよみがえり、ディアはパニックになる。

(なんてこと! 嫌だ、死にたくない!! まだクリス様愛されルート計画の序盤も序盤だってのに!! ここで私が死んだら、誰が彼らをバッドエンドから守るっていうの!? 私はまだ、ここで……っ!! ここで、しね、ない……のに……)

 意識が朦朧としてくる。スライムに包まれている皮膚が少しだけ熱を持ち、溶け始めているのが分かった。

(お願い、だれか……誰か、たす、け──)
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