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第2章 クリス・サン・エーデルシュタイン編
第11話:突然の訪問者②
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「──ニコル?」
それは「黎明のリュミエール」の主人公の名前だった。
しかし半信半疑だ。原作の彼女は明るい茶髪の天然パーマが特徴だったが、それは真っ黒に染まっていた。
まるで魔族のように。
それに彼女はあんなに意地の悪い笑みなんか絶対に浮かべない。画面越しの私ですら癒されるような天使な笑みが彼女のチャームポイントだったからだ。
彼女はディアの言葉にピクリと反応して、ふぅんと口角をあげた。
「へぇ、そうだったんだ。やっぱり、アンタも私とおんなじなんだ」
「っ! 貴女は……本当にニコルなの!?」
「私はニコルだけど、ニコルじゃない。そう言えば分かるわよね? 見たところアンタはクリス推しなのかしら?」
ディアの頭が追い付かないうちに、ニコルの身体から闇が溢れる。
「それじゃあ悪いけど──アンタの推し、殺すわね」
ディアはさらに混乱した。ニコルが使うことのできる魔法は治癒魔法のはずだ。どうして彼女は闇を身に纏っているのだろう。
闇魔法は攻略対象キャラの一人──魔王ジンだけのものだったはずだ。
「ニコル、貴女! どうして闇魔法を!」
「あら? 主人公が闇魔法なんて、変? でも今の私の魂はニコルじゃないんだから、治癒魔法じゃなくたって不思議じゃないと思わない?」
(……やっぱり! この人も私と同じ、転生者!)
ニコルの敵意を感じ取り、ディアは咄嗟に守護魔法を発動させる。
白い盾に闇が覆いかぶさってきた。カインの盾よりも強い圧を感じる。
(嘘! あっという間に盾にヒビが!)
このままじゃいけない。慌てて追加詠唱をしようとした時、クリスの声が響く。
「──輝け!」
クリスの呪文と同時にディアの盾を覆っていた闇がクリスの光に一時的に払われたが──また倍以上の闇が二人に襲い掛かる。さすがのクリスでも濁流のような闇には敵わない様だった。
闇はディアとクリスを監獄のように閉じ込める。
「滑稽ね。原作のクリスは頼りになる存在だったけれど、こうしてみると強敵でもなんでもなかったわ。色々備えてきて損しちゃった!」
ニコルが嘲笑した。
それを睨みながら、クリスがディアの腰に手を回し、耳打ちをする。
「ディア。なにもかもがわからない状況だけど──どうやら彼女の狙いは僕のようだ。僕が闇に道を作る。だから、君だけでも屋敷に逃げるんだ!」
「えぇ!? 嫌です! そんなの、絶対に嫌です! 私はクリス様を、絶対に見捨てませんっ!! むしろ私が彼女を食い止めます。クリス様だけでも逃げてくださいませ!」
「そんなこと、できるわけないだろう!」
「私もできません!!」
お互いに譲れず、沈黙が佇む。その間にもニコルの闇は二人に迫ってきていた。
クリスが焦って、声を荒げる。
「ディア!! どうして君はそこまで意地になって僕を守ろうとするんだ!!」
「それは──クリス様が私の恩人で、最推しだからですっ!!」
クリスのサファイアの瞳が、ディアを真っ直ぐにとらえる。
ディアは絶対に離さないと言わんばかりにクリスの腕を強く掴み、そのサファイアを見つめ返した。
二人の視線がぶつかり合い、互いの身体に熱を生む。
「クリス様の瞳が好きです。クリス様の声が好きです。クリス様の言葉が好きです。クリス様の髪も、唇も、眉も、好きです! クリス様の仕草一つ一つ、言動も、全部が好きなんですっ! 私の生きる希望なんです!」
絶対に逃げたくない。それを分かってほしくて、ディアの感情が爆発した。
「クリス様は知らないかもしれませんが、私が死にたいと絶望していた時、クリス様の存在が私を生かしてくれたんです! ……だから、私だけ逃げろなんて言わないでください!! クリス様のいない世界で、私は幸せになれません!」
「ディア、」
「それに!! 最推しを見捨てるくらいなら、私も一緒に死んでやるぅぅうううーっっ!!」
ディアはやけくそ気味にそう叫ぶと、クリスを守るように、ニコルに立ち塞がる。
一方のニコルは何故か楽しそうであった。
「ふふっ! 同志として、気持ちは痛いくらい分かるわ。私達、きっと別の出会い方をしたら素敵な友達になれたと思う。安心して、同志のよしみで痛みはないようにするから。じゃあね、クリス。じゃあね、ディアであってディアじゃない誰か。さようなら!」
ニコルの闇がさらに勢いをまして二人に襲い掛かる。
ディアは盾魔法を詠唱。声がひっくりかえったが、気にしない。
どんなに格好がつかなくても、関係ない。なんとしても最推しは守らなければと身体中が使命に燃えていた。必死だった。
「無駄な抵抗はやめなさい」とニコルの声がするが、やめてやらない。意地でも彼女の思うようになってやるもんか。
そんなディアの思考が伝わったのか、ニコルは楽しげな微笑みを一変、悪魔のように眉を吊り上げ、舌打ちをする。
「ああもう! 無駄だって言ってんのよ! クリスは殺す! あんたも殺す! 私の、大切な人を守るために──!!」
「!」
ニコルの闇と、ディアの盾がぶつかる。
火花が散り、周囲の空気がピリピリ揺れた。近くに咲いていた植物達が二つの魔法の衝撃波で無惨に散っていく。
やがて、ニコルの漆黒の闇がディアの白い盾をじわじわと浸食してくる。ディアは身体の内側から毒に侵されていくような感覚に陥った。
(苦しい! 頭が痛い! 息もしづらいし、吐き気も! このままじゃ──死、)
次第に闇の力に押され、後ずさるディア。
目の前で轟轟と渦巻く闇がもしクリスや自分を飲み込んだら──今以上の苦痛が二人を襲うのだろう。
「全身の細胞の一つ一つが生きることを諦め、走馬灯を見る暇も与えられずに、死に至る」。
ゲーム本編ではそんな闇魔法の描写がされていたが、いざ自分にそれが降りかかると思うと恐ろしいにもほどがある!
(悔しい! クリス様はここで殺されるようなお方じゃないのに! 私がハッピーエンドに導かないといけないのに!)
ここで盾を侵食してきた闇魔法がついにディアの指に触れる。途端に指先の感覚がなくなっていく。
先程ニコルは「痛みなく殺してあげる」と言っていたが……むしろ痛覚がなくなってしまう方が身体にどれだけの負担をかけているのか未知数で不気味である。
(怖い、怖いよ……逃げたい……! 死にたくない……!)
それでも。
震える手で、ディアは盾を顕現し続けた。この盾を失ってしまったら、自分が死ぬよりも怖いことになることを知っているからだ。
──そこで。震える彼女の小さな背中を、支える手があった。
「ディア! 踏ん張って! 僕が支えるから!」
気づけば、呼吸を感じるほどの距離にクリスの顔。二人の身体は密着している。
ディアはこんな状況だというのに鼻息が荒くなる。
「く、くくくクリス様!? か、かか、顔が、身体が、近──」
「大丈夫。怯えないで。先日、リオン殿とディアの魔法が溶け合って高度な魔法を発現できたんだってね。それを今度は僕と一緒に発動させてみよう」
「え、えぇ……!?」
「大丈夫。僕と君ならできるよ。そんな気がするんだ。僕を信じて──!」
クリスはそう言うと、ディアに優しく微笑んだ。きっとこれがゲームだったなら、確実にスチル回収シーンだっただろう。
目の前には未知の敵、魔法。でも背後には一緒に戦うと言ってくれる最推し。
いつの間にか、ディアの身体の震えは止まっていた。
「わ、分かりました! クリス様、いきますわ! そして一緒に屋敷へ帰りましょう! ──護れ!」
「──輝け! そして、切り裂け!」
光の盾と、闇。今、二つの魔法が激しく衝突する──!
それは「黎明のリュミエール」の主人公の名前だった。
しかし半信半疑だ。原作の彼女は明るい茶髪の天然パーマが特徴だったが、それは真っ黒に染まっていた。
まるで魔族のように。
それに彼女はあんなに意地の悪い笑みなんか絶対に浮かべない。画面越しの私ですら癒されるような天使な笑みが彼女のチャームポイントだったからだ。
彼女はディアの言葉にピクリと反応して、ふぅんと口角をあげた。
「へぇ、そうだったんだ。やっぱり、アンタも私とおんなじなんだ」
「っ! 貴女は……本当にニコルなの!?」
「私はニコルだけど、ニコルじゃない。そう言えば分かるわよね? 見たところアンタはクリス推しなのかしら?」
ディアの頭が追い付かないうちに、ニコルの身体から闇が溢れる。
「それじゃあ悪いけど──アンタの推し、殺すわね」
ディアはさらに混乱した。ニコルが使うことのできる魔法は治癒魔法のはずだ。どうして彼女は闇を身に纏っているのだろう。
闇魔法は攻略対象キャラの一人──魔王ジンだけのものだったはずだ。
「ニコル、貴女! どうして闇魔法を!」
「あら? 主人公が闇魔法なんて、変? でも今の私の魂はニコルじゃないんだから、治癒魔法じゃなくたって不思議じゃないと思わない?」
(……やっぱり! この人も私と同じ、転生者!)
ニコルの敵意を感じ取り、ディアは咄嗟に守護魔法を発動させる。
白い盾に闇が覆いかぶさってきた。カインの盾よりも強い圧を感じる。
(嘘! あっという間に盾にヒビが!)
このままじゃいけない。慌てて追加詠唱をしようとした時、クリスの声が響く。
「──輝け!」
クリスの呪文と同時にディアの盾を覆っていた闇がクリスの光に一時的に払われたが──また倍以上の闇が二人に襲い掛かる。さすがのクリスでも濁流のような闇には敵わない様だった。
闇はディアとクリスを監獄のように閉じ込める。
「滑稽ね。原作のクリスは頼りになる存在だったけれど、こうしてみると強敵でもなんでもなかったわ。色々備えてきて損しちゃった!」
ニコルが嘲笑した。
それを睨みながら、クリスがディアの腰に手を回し、耳打ちをする。
「ディア。なにもかもがわからない状況だけど──どうやら彼女の狙いは僕のようだ。僕が闇に道を作る。だから、君だけでも屋敷に逃げるんだ!」
「えぇ!? 嫌です! そんなの、絶対に嫌です! 私はクリス様を、絶対に見捨てませんっ!! むしろ私が彼女を食い止めます。クリス様だけでも逃げてくださいませ!」
「そんなこと、できるわけないだろう!」
「私もできません!!」
お互いに譲れず、沈黙が佇む。その間にもニコルの闇は二人に迫ってきていた。
クリスが焦って、声を荒げる。
「ディア!! どうして君はそこまで意地になって僕を守ろうとするんだ!!」
「それは──クリス様が私の恩人で、最推しだからですっ!!」
クリスのサファイアの瞳が、ディアを真っ直ぐにとらえる。
ディアは絶対に離さないと言わんばかりにクリスの腕を強く掴み、そのサファイアを見つめ返した。
二人の視線がぶつかり合い、互いの身体に熱を生む。
「クリス様の瞳が好きです。クリス様の声が好きです。クリス様の言葉が好きです。クリス様の髪も、唇も、眉も、好きです! クリス様の仕草一つ一つ、言動も、全部が好きなんですっ! 私の生きる希望なんです!」
絶対に逃げたくない。それを分かってほしくて、ディアの感情が爆発した。
「クリス様は知らないかもしれませんが、私が死にたいと絶望していた時、クリス様の存在が私を生かしてくれたんです! ……だから、私だけ逃げろなんて言わないでください!! クリス様のいない世界で、私は幸せになれません!」
「ディア、」
「それに!! 最推しを見捨てるくらいなら、私も一緒に死んでやるぅぅうううーっっ!!」
ディアはやけくそ気味にそう叫ぶと、クリスを守るように、ニコルに立ち塞がる。
一方のニコルは何故か楽しそうであった。
「ふふっ! 同志として、気持ちは痛いくらい分かるわ。私達、きっと別の出会い方をしたら素敵な友達になれたと思う。安心して、同志のよしみで痛みはないようにするから。じゃあね、クリス。じゃあね、ディアであってディアじゃない誰か。さようなら!」
ニコルの闇がさらに勢いをまして二人に襲い掛かる。
ディアは盾魔法を詠唱。声がひっくりかえったが、気にしない。
どんなに格好がつかなくても、関係ない。なんとしても最推しは守らなければと身体中が使命に燃えていた。必死だった。
「無駄な抵抗はやめなさい」とニコルの声がするが、やめてやらない。意地でも彼女の思うようになってやるもんか。
そんなディアの思考が伝わったのか、ニコルは楽しげな微笑みを一変、悪魔のように眉を吊り上げ、舌打ちをする。
「ああもう! 無駄だって言ってんのよ! クリスは殺す! あんたも殺す! 私の、大切な人を守るために──!!」
「!」
ニコルの闇と、ディアの盾がぶつかる。
火花が散り、周囲の空気がピリピリ揺れた。近くに咲いていた植物達が二つの魔法の衝撃波で無惨に散っていく。
やがて、ニコルの漆黒の闇がディアの白い盾をじわじわと浸食してくる。ディアは身体の内側から毒に侵されていくような感覚に陥った。
(苦しい! 頭が痛い! 息もしづらいし、吐き気も! このままじゃ──死、)
次第に闇の力に押され、後ずさるディア。
目の前で轟轟と渦巻く闇がもしクリスや自分を飲み込んだら──今以上の苦痛が二人を襲うのだろう。
「全身の細胞の一つ一つが生きることを諦め、走馬灯を見る暇も与えられずに、死に至る」。
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(悔しい! クリス様はここで殺されるようなお方じゃないのに! 私がハッピーエンドに導かないといけないのに!)
ここで盾を侵食してきた闇魔法がついにディアの指に触れる。途端に指先の感覚がなくなっていく。
先程ニコルは「痛みなく殺してあげる」と言っていたが……むしろ痛覚がなくなってしまう方が身体にどれだけの負担をかけているのか未知数で不気味である。
(怖い、怖いよ……逃げたい……! 死にたくない……!)
それでも。
震える手で、ディアは盾を顕現し続けた。この盾を失ってしまったら、自分が死ぬよりも怖いことになることを知っているからだ。
──そこで。震える彼女の小さな背中を、支える手があった。
「ディア! 踏ん張って! 僕が支えるから!」
気づけば、呼吸を感じるほどの距離にクリスの顔。二人の身体は密着している。
ディアはこんな状況だというのに鼻息が荒くなる。
「く、くくくクリス様!? か、かか、顔が、身体が、近──」
「大丈夫。怯えないで。先日、リオン殿とディアの魔法が溶け合って高度な魔法を発現できたんだってね。それを今度は僕と一緒に発動させてみよう」
「え、えぇ……!?」
「大丈夫。僕と君ならできるよ。そんな気がするんだ。僕を信じて──!」
クリスはそう言うと、ディアに優しく微笑んだ。きっとこれがゲームだったなら、確実にスチル回収シーンだっただろう。
目の前には未知の敵、魔法。でも背後には一緒に戦うと言ってくれる最推し。
いつの間にか、ディアの身体の震えは止まっていた。
「わ、分かりました! クリス様、いきますわ! そして一緒に屋敷へ帰りましょう! ──護れ!」
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