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第3章 ホープ編
第23話:俺の夢(ホープ視点)
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『ホープ! 私ね、将来治癒魔法を授かるんだよ!』
それが俺の幼馴染、ニコルの口癖だった。
そもそも平民が魔法を授かることさえ希少だというのに、ニコルは伝説の治癒魔法なんてものが自分に宿るのだと信じて疑わなかった。
まさに戯言だ。俺はニコルがそんなことを言う度にハイハイと適当にあしらっていた。
『もう、ホープってば! また信じてない! 本当に本当に、私には治癒魔法が宿るの! そんな気がするの!』
『そうか。よかったな』
『もー!! じゃあ、ホープの夢はなんなの』
拗ねながら投げられたその問いに俺はなんと答えたんだったか。
……いや、たしか答えなかった。照れ臭かったんだ。
ニコルを守るために国で一番強い騎士になるなんて青臭い夢を語るのは。
元々、元王城兵だった親父の背中を見て育ち、国仕える戦士に憧れていた。特に亡くなった母さんがよく読み聞かせてくれた物語に登場するような、騎士になりたかった。国のために、誰かのために戦うことが、どれほど誇らしくて、どれほど名誉なことで、どれほどカッコいいか知っていたから。
ニコルの両親が魔物に殺された時、号泣するニコルを抱きしめながら、より一層その気持ちが強くなる。
物心ついた時から俺はニコルと共にあった。
だから、この先もこの妹分と一緒に暮らしていくんだろう。そう思っていたのだが……
半年前、ニコルは謎の高熱でおかしくなっちまった。
『おい、ニコル! 何してんだよ! 親父に叱られるぞ!』
高熱を出して四日目の早朝。俺が起きた時にはもうニコルはベッドにいなかった。
慌ててニコルを探して、どういうわけかあいつは親父のグリフォンを鎖から解いていた。だから、そう怒鳴った。
ニコルは俺の声に振り返る。その時、俺は妙な胸騒ぎがした。
あんなに輝いていたニコルの瞳が闇に濁っている。そうはっきり感じたからだ。
『ああ、ホープ。やっぱり貴方はホープなのね』
『はぁ? 何言ってんだお前。まだ熱あるんじゃねぇか? ほら、帰るぞ。グリフォンを元に戻せ』
『残念だけど、私の戻る場所はこの村ではないの』
ニコルはそのままグリフォンに乗る。
ギョッとする俺を冷たく見下ろして、あいつはこう言ったのだ。
『ホープ。私は、この狂った世界をぶち壊す。そのために貴女には死んでもらわないといけない』
『はぁ!?』
『……私、そのうち攻略対象キャラである貴方を殺しに来るわ。この村と一緒にね。貴方もこの村も、もう私に必要ないの。むしろ邪魔なものなのよ。だから──さようなら』
さようなら。その言葉をまさかニコルに言われるとは思わなかった。
結局、あいつは帰って来なかった。
そのまま俺は十三となり、戴聖式に参加する。勿論魔法は授かることはない。
君に宿る魔法はない。そう聖職者に言い放たれた時、俺は国で一番強い騎士になるという夢を諦める。魔法がなければ、地位を持たない俺が騎士になることはほぼ不可能だった。いつも隣で、「治癒魔法を授かる!」なんて自慢気に豪語していたニコルがいたから、俺にも可能性があるんじゃないかと錯覚していたことに気づく。
だが、魔法を授からずとも、何もしないわけにはいかない。
ニコルのあの濁った瞳を思いだす度に胸騒ぎがして眠れなくなった。とにかく少しでも力をつけるために森の魔物を狩りまくって、剣の腕を磨いた。
魔法は授からずとも、城の兵士には志願すればなることができただろう。
しかし、今の俺は村を離れるわけにもいかない。ニコルが帰ってくるかもしれないから。
……できれば、正気に戻った状態で帰ってくることを願って。
「ディア、ディア!!」
クリス殿下の叫びで我に返る。
今、俺の目の前には血だらけのディア様がいた。
俺とクリス殿下。両方を守るために彼女は今、自分の身体を盾にしたのだ。
ディア様の背中を裂いたのは、間違いなくニコル。しっかりこの目で見た。
……だからもう、認めるしかないのだ。
「ニコルは、死んだんだな……」
涙が頬を伝う。
目を閉じれば、いつだってあいつが、笑ってこう言ってるんだ。「ねぇ、ホープ。私って、治癒魔法を授かるの!」って。
──なぁ、ニコル。お前、分かってたんだよな。確信、していたんだよな。自分に治癒魔法が授かるって。
魔法ってのは魂に宿るものなんだろう?
なら、俺が、お前の魂を──
『ホープ、』
名前を呼ばれたような気がして、ハッとする。
横たわるディア様の傍らで、たしかにニコルが微笑んでいた。
『助けてあげて。私の魔法で』
「!」
瞬きをすれば、その幻影は消える。だが、確かに自分の身体に何か熱いものが宿ったのを感じた。
陽だまりのように優しい熱が、俺の全身を駆け巡る。
『私の魔法で、貴方の夢を叶えて。貴方の護りたいものを、守って。ホープ!』
そんな声が頭の中に響き、俺は背中を押された。
気づけば、ディア様に声を掛け続けるクリス殿下の肩を掴んでいた。
「殿下、俺に任せてくださいますか」
「ホープ? 君、一体……」
「お願いします」
たかが、平民の戯言。だが、クリス殿下はそんな俺をじっと見つめると、小さく頷いた。
俺は感謝を述べ、真っ青なディア様とその背中の深い傷に視線を落とす。
絶望的な状況だというのに、どうしてだろう。俺は自信で溢れていた。
あいつが、背後で大丈夫だといつもの笑顔を浮かべている気がして。
ディア様を救いたい。この人には、ニコルの魂と似たものを感じる。
放っておけない危なっかしさも、その無類の優しさも。
この人は……ここで死んではいけない存在だ。誰かのために一生懸命になれる人間こそ、幸せにならないと駄目なんだ。
「さっさと目を覚ましてください、ディア様。俺は、貴女に頼みたいことがあるんですから」
──ニコル、お前の魂、今、俺が受け継ぐよ。
ホープは唱える。自然と、口が動いた。まるで最初からその言葉を知っていたかのように。
「──癒せ」
それが俺の幼馴染、ニコルの口癖だった。
そもそも平民が魔法を授かることさえ希少だというのに、ニコルは伝説の治癒魔法なんてものが自分に宿るのだと信じて疑わなかった。
まさに戯言だ。俺はニコルがそんなことを言う度にハイハイと適当にあしらっていた。
『もう、ホープってば! また信じてない! 本当に本当に、私には治癒魔法が宿るの! そんな気がするの!』
『そうか。よかったな』
『もー!! じゃあ、ホープの夢はなんなの』
拗ねながら投げられたその問いに俺はなんと答えたんだったか。
……いや、たしか答えなかった。照れ臭かったんだ。
ニコルを守るために国で一番強い騎士になるなんて青臭い夢を語るのは。
元々、元王城兵だった親父の背中を見て育ち、国仕える戦士に憧れていた。特に亡くなった母さんがよく読み聞かせてくれた物語に登場するような、騎士になりたかった。国のために、誰かのために戦うことが、どれほど誇らしくて、どれほど名誉なことで、どれほどカッコいいか知っていたから。
ニコルの両親が魔物に殺された時、号泣するニコルを抱きしめながら、より一層その気持ちが強くなる。
物心ついた時から俺はニコルと共にあった。
だから、この先もこの妹分と一緒に暮らしていくんだろう。そう思っていたのだが……
半年前、ニコルは謎の高熱でおかしくなっちまった。
『おい、ニコル! 何してんだよ! 親父に叱られるぞ!』
高熱を出して四日目の早朝。俺が起きた時にはもうニコルはベッドにいなかった。
慌ててニコルを探して、どういうわけかあいつは親父のグリフォンを鎖から解いていた。だから、そう怒鳴った。
ニコルは俺の声に振り返る。その時、俺は妙な胸騒ぎがした。
あんなに輝いていたニコルの瞳が闇に濁っている。そうはっきり感じたからだ。
『ああ、ホープ。やっぱり貴方はホープなのね』
『はぁ? 何言ってんだお前。まだ熱あるんじゃねぇか? ほら、帰るぞ。グリフォンを元に戻せ』
『残念だけど、私の戻る場所はこの村ではないの』
ニコルはそのままグリフォンに乗る。
ギョッとする俺を冷たく見下ろして、あいつはこう言ったのだ。
『ホープ。私は、この狂った世界をぶち壊す。そのために貴女には死んでもらわないといけない』
『はぁ!?』
『……私、そのうち攻略対象キャラである貴方を殺しに来るわ。この村と一緒にね。貴方もこの村も、もう私に必要ないの。むしろ邪魔なものなのよ。だから──さようなら』
さようなら。その言葉をまさかニコルに言われるとは思わなかった。
結局、あいつは帰って来なかった。
そのまま俺は十三となり、戴聖式に参加する。勿論魔法は授かることはない。
君に宿る魔法はない。そう聖職者に言い放たれた時、俺は国で一番強い騎士になるという夢を諦める。魔法がなければ、地位を持たない俺が騎士になることはほぼ不可能だった。いつも隣で、「治癒魔法を授かる!」なんて自慢気に豪語していたニコルがいたから、俺にも可能性があるんじゃないかと錯覚していたことに気づく。
だが、魔法を授からずとも、何もしないわけにはいかない。
ニコルのあの濁った瞳を思いだす度に胸騒ぎがして眠れなくなった。とにかく少しでも力をつけるために森の魔物を狩りまくって、剣の腕を磨いた。
魔法は授からずとも、城の兵士には志願すればなることができただろう。
しかし、今の俺は村を離れるわけにもいかない。ニコルが帰ってくるかもしれないから。
……できれば、正気に戻った状態で帰ってくることを願って。
「ディア、ディア!!」
クリス殿下の叫びで我に返る。
今、俺の目の前には血だらけのディア様がいた。
俺とクリス殿下。両方を守るために彼女は今、自分の身体を盾にしたのだ。
ディア様の背中を裂いたのは、間違いなくニコル。しっかりこの目で見た。
……だからもう、認めるしかないのだ。
「ニコルは、死んだんだな……」
涙が頬を伝う。
目を閉じれば、いつだってあいつが、笑ってこう言ってるんだ。「ねぇ、ホープ。私って、治癒魔法を授かるの!」って。
──なぁ、ニコル。お前、分かってたんだよな。確信、していたんだよな。自分に治癒魔法が授かるって。
魔法ってのは魂に宿るものなんだろう?
なら、俺が、お前の魂を──
『ホープ、』
名前を呼ばれたような気がして、ハッとする。
横たわるディア様の傍らで、たしかにニコルが微笑んでいた。
『助けてあげて。私の魔法で』
「!」
瞬きをすれば、その幻影は消える。だが、確かに自分の身体に何か熱いものが宿ったのを感じた。
陽だまりのように優しい熱が、俺の全身を駆け巡る。
『私の魔法で、貴方の夢を叶えて。貴方の護りたいものを、守って。ホープ!』
そんな声が頭の中に響き、俺は背中を押された。
気づけば、ディア様に声を掛け続けるクリス殿下の肩を掴んでいた。
「殿下、俺に任せてくださいますか」
「ホープ? 君、一体……」
「お願いします」
たかが、平民の戯言。だが、クリス殿下はそんな俺をじっと見つめると、小さく頷いた。
俺は感謝を述べ、真っ青なディア様とその背中の深い傷に視線を落とす。
絶望的な状況だというのに、どうしてだろう。俺は自信で溢れていた。
あいつが、背後で大丈夫だといつもの笑顔を浮かべている気がして。
ディア様を救いたい。この人には、ニコルの魂と似たものを感じる。
放っておけない危なっかしさも、その無類の優しさも。
この人は……ここで死んではいけない存在だ。誰かのために一生懸命になれる人間こそ、幸せにならないと駄目なんだ。
「さっさと目を覚ましてください、ディア様。俺は、貴女に頼みたいことがあるんですから」
──ニコル、お前の魂、今、俺が受け継ぐよ。
ホープは唱える。自然と、口が動いた。まるで最初からその言葉を知っていたかのように。
「──癒せ」
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