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第一学年 第一学期
14 せっかく悪役令嬢の弱みを握ったのに──【桜SIDE】
しおりを挟むその日の夜、私はなんとなく目が覚めた。隣のベッドではデュナミスが可愛い寝息をたてている。私はそんなデュナミスにさっき受け取ってもらえなかったお礼を囁くと、そっと窓を開けた。
月が綺麗だった。デュナミスと今度一緒に眺めるのもいいかもしれない。
私が窓から顔を出すと、周りの木々から妖精達が集まってくる。
『あ、やっぱりサクラだーなにしてるのー?』
「月を見ているだけだよ。あまりにも綺麗だったから」
『ふーん?』
妖精達にとっては月はそんなに綺麗なものではないかもしれない。だって自分達の方が綺麗だもん。
私は私の頭に乗ったり私の髪を引っ張って遊んだりしている妖精達をそのままに月を眺め続けた。
月を眺めていると頭に様々なことが巡るもので、リリスのことがなんとなく思い浮かぶ。
リリスはあれから私を見かける度に「あーらサクラさん、お元気?」といちいちちょっかいをかけてくる。また教科書や羽ペンがなくなったりもしているのでおそらくリリスの仕業だろう。ここまではひとまずゲーム通りだ。
そのうちレックス様との出会いイベントが訪れたら、リリスのちょっかいは虐めに変わる。自分の気に食わない女がレックス様と出会いイベントを経て仲良くなっていくのだからそりゃリリスも主人公を虐めたくなるものだろう。でも、それこそ婚約破棄イベントの為の重要な過程なのだ。そうして我慢できなくなったリリスが主人公を大怪我させるために悪魔を召喚すれば婚約破棄イベント発生なのだから。でも、魔族学の授業で聞いた悪魔を召喚する代償はたしか──。
私がそう眉を顰めた時。
『うわぁ!』
妖精達が突然私の背中や髪に隠れたのだ。私はキョトンとしてどうしたのか尋ねる。
妖精達は白い肌をさらに青くさせていた。
『あの怖い人間がいる! あいつ嫌い! あいつ大嫌いー!!』
「怖い人間?」
『あそこ、あそこ!』
妖精達の示した先を見る。するとそこには──。
「──リリス?」
あの綺麗な紫色は間違いない、髪を下ろしているけどリリスだ。リリスはそっとマントを被ると、そのまま女子寮を出ていった。私は思わず部屋を飛び出す。
「ごめん、妖精さん達! あの人の事、追えるっ?!」
『えぇ~嫌だよ~怖いよ~!!』
「お願い!! 本当にお願い!」
必死にお願いする私に、妖精達は顔を見合わせながら渋々頷いてくれた。
一人の妖精さんが私をリリスの所まで案内してくれるようだ。
こんな夜中に女子寮を出るのは校則違反。それでも確かめたいことがある。
リリスを追ってみてたどり着いた先は、学校の本当に隅にある誰も存在を知らないような苔だらけの小屋だ。
敷地内の小さな森に隠れているその小屋の壁にピタリと背中をつけて、私は妖精達をお礼を言う。
見張りで徘徊している先生達に出会わないように妖精達が案内ルートを配慮してくれたのには本当に助かった。
「本当に、ここにリリスが?」
『うん、ここに怖い人間いるよー』
『サクラ! ここに穴ある! ここから覗けるよ!』
「!」
私はそっと妖精達が見つけてくれた穴から中を覗きこむ。そこには──
「……っ、もう、私には、これしかないのよ……っ、」
自分の腕にナイフを宛がうリリス。しかもリリスの足元には怪しく真っ赤に光る魔法陣が。
なんの魔法陣かは分からない。でも、なにかよからぬことであることだけは確かだ。
リリスが自分の腕にナイフを宛がっている辺り、きっと悪魔召喚の儀式だろう。
なぜなら魔召喚の為の儀式には召喚者の血がいるからだ。リリスの身体はここからでも分かるくらい震えていたし、表情が普通ではなかった。綺麗なつり目が今は限界まで見開かれ、恐怖すら感じる。
でも、変だ。リリスが悪魔を召喚するのは主人公とレックス様の出会いイベント後のはず。私はまだレックス様と出会っていないけど……。
──もしかして、この世界のリリスには主人公の他にも悪魔召喚をしなければいけない理由があるの?
「私は、未来の王妃、なのだから──なにもかも、完璧に……っ、完璧に、こなしてみせなくては!」
「!」
リリスの独り言からするに、やはり悪魔召喚の理由に主人公はどうやら関係ないらしい。
つまりここでリリスが悪魔を召喚したとしても、私に害はない。それどころかリリスが悪魔召喚の罪を既に犯しているのだから私は無傷で断罪イベントへの必要な過程を進んだことになるかもしれない。
ひとまずここは見なかったことにするのが賢明だろう。止める必要はない。
むしろ私が今ここでリリスを見なかったことにしなければリリスが悪魔召喚をやめてしまい、レックス様とリリスがそのまま結婚してしまう可能性だってある。だから、放っておかないと。
……どうせリリスは自分の過ちによって自滅する運命なのだから。
『サクラー? どうするの?』
「うん、もう帰るよ」
『それがいいよー、あいつ怖い! 悪魔を召喚するなんて、ろくな人間じゃないんだから!』
「…………、」
──どうして。
──どうして、足が動かない?
私が立ち竦んでいる間にも、リリスの苦しそうな独り言が聞こえる。
「そ、そうよ、私は、お父様に言われているように、落ちこぼれなのだから……こうでもしないと、こうでもしないといけないのよ……! 大丈夫、きっと、きっと上手くいく……うん、いくわよ」
「…………」
「私が、私が、私は、未来の王妃になるためだけの、存在価値しか、ないのだから……っ!! う、うぅ、っく、うぁあ……っ」
「!」
リリスの嗚咽が聞こえてくる。泣いている。あの悪役令嬢が。
可笑しな話だ。ゲーム上でもこの世界でも、私を虫けらって呼んだりしてあんなに傲慢だったくせに。
そんなリリスが、泣いてる。強い彼女が泣くほどの、重い何かを彼女は背負っているのだ。
生憎私はリリスルートには興味がないのでその何かは知らないのだけど。
さーて、早く戻ってぐっすり寝ようっと。早く、戻って。この事は、見なかった、ことにして。
それが、私の幸せに繋がるのだから。
それが、でも、早く戻ろう、……でも!!
妖精達が不思議そうに私の顔を覗きこむ。私は自嘲した。足が、今にも勝手に動き出しそう。そんな足に独り言を投げかける。
「……、いいの? 桜。そんなことしたら、レックス様とリリスは結婚するかもしれないんだよ。さっきあんなにレックス様を想って泣いてたじゃん。それだけ、好きなんじゃん。絶対に後悔するって!」
私は息を吐いた。そして自分の両頬を思い切り叩く。妖精達がそんな私にびっくりしていた。
──そう、私の独り言は正しい。でも、それでもだよ。私は、私は──!!
「──放っておけるわけないでしょうが! あんな、苦しそうな女の子を!」
……あーあ、私、蓮のことを「お人よし」って笑えないな。レックス様ルートを閉ざすかもしれないのに。
でも、それでも。ゲームの上からでは分からなかった、リリスの苦しみを見なかったことにはできなかったのだ。まぁ、リリスの婚約破棄を望む私が言えることじゃないけどね!!
「御用改めだおらぁぁああああああーーーっ!!」
「!?」
私は正直よく意味の分かってない言葉を叫びながら、思い切り小屋のドアを蹴り飛ばした──!
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