氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第一章 非公式お茶会

14 初めての非公式お茶会②

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Side:アシェル4歳 秋



ぎこちなく子供同士の会話が行われる。

人当たりのいいエラート、エトワール、リリアーデが率先して喋り。アシェル、ノアール、デュークがフォローをいれていく。
アークエイド、マリクは警戒しているのか、人見知りが激しいのか。時折相槌を打つのみだった。

兄弟はいるのか、何か趣味があるのか、普段どんな風に過ごしているのか。
他愛のない会話が広げられていく。

よそよそしい口調がだんだん親しみのある口調になり、全員の表情が和らいできたころに軽食が運ばれてきた。
あっという間に二時間ほど経過したらしい。

運ばれてきたのは、沢山の具が挟まれたサンドイッチと野菜がたっぷり入ったコンソメスープだ。
大人のテーブルにも同じものが運ばれている。

皆が思い思いにサンドイッチに手を伸ばし口に入れる。
毒見役がいないのは気にしないことにした。

アシェルが選んだのは玉子のサンドイッチ。
ほんのり甘いスクランブルエッグにしゃきしゃきのレタス、塩味の効いたケチャップが美味しい。

シンプルながらもバランスのとれた味付けに舌鼓をうち、コンソメスープに手を付ける。
琥珀色のスープに野菜の旨味が溶けだしていて美味しい。

皆わいわいと食事に手を付けている中、マリクだけが浮かない顔をしていた。

ちらちらと母親であるキルルの方を見ているようだがキルルは気づいていないようで、大人達は会話を弾ませていた。
その手には握りこまれたスプーン。
その持ち方は小さい子供が使い慣れてないスプーンを持っている状態だ。

(ようやく人化ができるようになり始めたって言ってたっけ。)

「ねぇ、マリク。嫌じゃなかったら……スープ飲むのお手伝いしようか?家ではメル……義妹の食事のお手伝いをしたこともあるから、マリクのお手伝いもできると思うんだ。」

どう?と隣の席のマリクに声をかける。

ビクンと跳ねた身体と耳、大きく見開かれた瞳がこちらに向けられる。

「い、いーの?……あの、俺。まだ上手く食器使えなくて……。えっと……アシェル?」

ハの字に下がった眉毛と同じように、耳と尻尾が垂れ下がる。
獣人の気持ちは耳と尻尾に如実に表れるようだ。

「うん、僕の名前はアシェルだよ。ほらスプーン貸して。」

すっと差し出されたスプーンを受け取り、スープを口に運んであげる。
目の前に来たスプーンからぱくんと食べる姿をみると、雛に餌付けしている気分だ。

(尻尾がぶんぶん揺れてる……可愛い、可愛すぎる……!)

「ねぇ、あとで撫でさせてって言ったら嫌かな?」

獣人の生態には詳しくないので、もしかしたら失礼だろうかと思いつつ、欲望に負けて聞いてみる。

「ん、いーよ!尻尾の付け根以外ならっ。」

ぶんぶんと尻尾を振りながらマリクは無邪気な笑顔を見せてくれた。
失礼には当たらなかったようだ。

「マリク、わたくしにも触らせて頂戴!さっきから触りたくて仕方なかったのよ。」

「ちょ、リリィ。」

「いーよ。もー皆友達だから。」

リリアーデを咎めるデュークと、まったく気にした様子のないマリク。

マリクの言葉にぴくっと反応したエラートとノアールは触りたかったのだろう。
もふもふの魅力は偉大だ。

「にしても、アシェルはそうやってると、かぁさまみたいだな。」

「そう?僕のところはお兄様達がこうやってお世話してくれたし、義妹のお世話もしてるからなぁ。僕としてはおにーさんのイメージなんだけど。あと友達なんだから、皆僕を呼ぶのはアシェでいいよ。」

んじゃ俺はエトだな、とエラートが小麦色の肌に白い歯をみせてにかっと笑う姿が目に入る。

アシェルには母親のようだと言われても実感はわかないが、母親とは乳母のサーニャみたいな感じだろうと思っている。いつも見守ってくれていて、必要な時は怒ってくれる存在だ。

「ノアはそんなことしてくれないぞ?あ、ノアとトワって呼んでな。」

「トワ、今回は別にいいんだけど、勝手に人の愛称呼びを許可しないで。あと僕らは双子なんだよ?トワがお世話されるってことは、僕もお世話されるってことだからね。」

エトワールの言葉に呆れたようなノアールの突っ込みが入る。

「リリィ……。そんな期待を込めた眼差しで僕を見ても、僕は自分で食べられるからね?」

うずうずした様子のリリアーデにデュークが釘を刺す。
アシェルとマリクの様子を見て、デュークにスープを飲ませたかったようだ。

「えー。たまにはっ、ね?」

「い、や、だ。」

「ケチ。あ、私はリリィって呼んでね。デュークは略せないからデュークのままで。ねね、アークエイドはなんて呼んだらいいのかしら。アーク?エイディ??」

「アークでいい。」

唐突に話しかけられたアークエイドは面食らったように、それでも一言ぶっきらぼうに返事を返した。

「もー、アークは愛想悪いなー。はい、笑って笑って。」

「は、ちょっ……っ……まっ、ははっ、やめっ……。」

「あら、ちゃんと笑えるじゃないの。子供は笑ってるほうが可愛いわ。」

悪戯っぽく笑ったリリアーデの手は、一瞬のうちにアークエイドの脇をこそばせていた。

澄ました無表情は年相応に破顔し、身を捩りながら笑っているアークエイドを見て、リリアーデはご満悦だ。
そうして笑っていると、澄ましてぶっきらぼうなアークエイドも年相応の子供に見えた。

「ねぇさん?」

「あ……。——少し席を外しますわ。では。」

冷ややかなデュークの声が聞こえたと同時にリリアーデの表情が凍り付き、サッと椅子から飛び降りて駆け出した。
あっという間にサロンから姿が消える。

ごちそうさまでした、と一言残したデュークも席を立ち、リリアーデの背中を追いかけて出て行った。

残されたのは、何が起こったのか解らずきょとんとした子供達。

立ち去った双子の母、フィアフィーがいつの間にやら子供テーブルに来ていた。

「ごめんね、あの子達ったら。もう少し大人しくしてるかと思ったのに、家に居る時と変わらないわ……。アークエイド君、急にリリィが触っちゃってごめんね、嫌だったり痛くなかったかしら?」

「……だ、大丈夫です。驚きはしましたけど、嫌では。」

息を整えるために深呼吸していたアークエイドは、ばつが悪そうな顔で答えた。

良かったわ、とフィアフィーの顔が綻ぶ。

パンパンと手を叩く音が聞こえ、一斉にアンジェラの方へ視線が集まる。

「さぁ、皆ご飯は食べ終わったかしら?せっかくお天気もいいのだし、あなた達も庭で遊んでらっしゃい。汚れてしまうから、ベストはともかく、上着は脱いでいくのよ。お母さん達はこのサロンか、隣に見えている応接室に居ますからね。」

さっとそれぞれが連れてきた侍女達が子供達の傍に立ち、上着を脱ぐ介助を始める。

アシェルの後ろにもサーニャが来てくれた。

「サーニャありがとう。外で遊んでくるから、あとはアンジェラ様達の指示に従ってね。」

「はい、いってらっしゃいませ。」

上着を侍女に預けた子からサロンの外へ出た。





この離宮に案内された時にも感じたのだが、庭園はかなり広かった。

サロンの前は開けている草原エリアで、その奥にカラフルな生垣の見える庭園エリア。庭園エリアの奥は雑木林になっている森林エリアに分かれているようだ。

外に出たものの何をしようかと意見を出していると、エラートの希望で剣術の手合わせをすることになった。ちゃんばらごっこである。

ノアールとエトワールは真っすぐな木の棒、マリクは革のグローブ、その他は木剣。

ちなみにリリアーデとデュークはまだ帰ってきていない。

まんべんなく対戦することを想定されていたが、アシェルと最初に当たったノアールが一抜けした。
身体を動かすのは苦手らしい。

勝ったもの同士、負けたもの同士と被らないように対戦していく。

一番勝ち星の多いエラートはその体格に見合うだけの体力も膂力もあるようで、基本の剣術の動作に忠実だった。

エラートは、基本を踏襲しつつトリッキーな動きも交えていたアークエイド、長柄のアドバンテージを存分に活かして戦っていたエトワールに勝利した。

マリクはほぼ四足移動でのスピードからパンチという変則的なタイプだったので、エラートの戦い方とは相性が悪かったらしく負けていた。
マリクのグローブは爪を隠すためのもので、試合後エラートに怪我をさせていないか気にしていた。

アシェルはスピードタイプで、力押しよりも受け流しながら手数で隙をつくスタイルだ。
どうしても男には力で敵わないので、身軽な身体と柔軟を活かすようなカリキュラムを組んでもらっている。
エラート相手に善戦したものの、最終的には木剣を弾き飛ばされ負けてしまった。

「うぅ、悔しい……。」

最後の試合を残して、アシェルが勝てたのは運動が苦手というノアールだけだった。

「それは俺が不戦勝でいいのか?」

地面にへたり込んでいたアシェルの頭上から、少しぶっきらぼうな声が届いた。

「良いわけないだろ。アークに不戦勝なんてくれてやるものかっ。」

むきになってキッと顔を上げると、心なしか楽しそうな顔をしたアークエイドが立っていた。

最初の無表情で張り付けていた笑顔と同じように見えるのだが、目元が優しくなっていて温もりを感じた。
些細な変化だが、少しは心を許してくれたのかなと思えた。



「じゃあラスト。アークエイド対アシェル、はじめっ!」

エラートの合図が終わると同時に、向かい合った二人は走り出した。

上から振り下ろされた剣を受け、刀身を滑らせて力を逃す。
そのまま手首を返し胴体を狙うが、受け止められる。

アークエイドが一太刀あてに来るのに合わせて、なるべく力を受け流しながら一手二手と打ち込んでいく。

最初は驚いていたアークエイドの表情が、途中から見て取れるほどの笑顔になっていた。
笑顔だけれど、気を抜くと一瞬で食い千切られそうなほど熱を帯びた眼だ。
楽しくて楽しくて仕方がないという感情まで伝わってきそうである。

「アークって実は、戦闘狂?」

カンッと刃を交えながら思わず、そんな言葉が口をついてでてくる。

「さぁな。ただ、こんなに楽しいのは初めてだっ。」

ぐっと弾かれ、慌てて飛びのいて力を逃す。
木剣を持っている両手がジンと痺れた。そのまま刃を交えたままであれば間違いなく、この手から木剣は離れていただろう。

「それは良かった。普段からそれくらい感情を出したらっ、どうかな。」

地面を蹴りアークエイドに肉薄する。

スピードを乗せた太刀筋はすんでのところで防がれた。

「善処しよう。」

「わざと感情を抑えてるように見えるからっ。僕らの前でそれをっ。止めてくれるだけでいいんだけどねっ。」

二撃、三撃と打ち込む間に、アークエイドの身体が一瞬ピクリと反応した。

その硬直を見逃さず、隙のできた胴体へ木剣を滑り込ませる。

ガンッという音と共に木剣が宙を舞った。



「……参りました。」



アシェルの首元には、アークエイドの木剣が突きつけられていた。

両手を挙げて降参する。
隙をついたと思った一手は、思い切り弾き返されてしまったのだ。

「そこまでっ、勝者アーク!いやぁすごいな。実力が近いとこんなに白熱すんのか。」

興奮冷めやらぬエラートに、二人まとめて肩を抱かれ背中をばんばん叩かれた。

そこにマリクとエトワールが飛び込んできて、もみくちゃにされる。

気付けばノアールの隣に、いつの間にか戻ってきていたリリアーデとデュークもいて、皆で笑いあった。



騎士が声をかけにきて、サロンに戻るように促される。

アンジェラの采配で皆それぞれ別々の部屋に通され、タライに湯を借りて身体を清め、新しい服に袖を通した。

もう一度サロンに集まり、お茶会という名の親睦会の閉幕を告げられる。

子供達も大人達も皆笑顔だった。最初はあんなに無表情だったアークエイドも微笑んでいた。





——解散前に皆でもふったマリクは、とても手触りがよかった。
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