氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第一章 非公式お茶会

30 モンスタートレイン①

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Side:アシェル11歳 秋



恐怖からパニックを起こして大泣きした翌週。
アシェルは王都組メンバーと共に冒険者ギルドに来ていた。

アシェルはすっかりいつも通りの生活を送っている。

冒険者ランクを上げるつもりはないが情報収集は大切なので、必ず城壁外へ出る時にはギルドに寄ることにしていた。

「特にこれといって目ぼしい依頼もないし、常設だけ報告でいいんじゃないか。」

そういうエラートは金属製の軽鎧に、その長身に見合ったバスターソードを腰に佩いている。
戦闘中に使うラウンドシールドはストレージの中だ。

「常設の薬草採取が少し値段上がってるね。見かけたら採取しておこう。」

アシェルは腰にロッドをぶらさげ、背中に矢筒とショートボウを背負っている。
薬瓶ホルスターは防具を兼ねていて革ベスト状のものを着用し、お尻が隠れる程度の丈のマントで隠していた。
レッグアーマーにはダガーを挿しており、近接戦闘から解体まで便利に活用している。
髪色は右耳のピアス型魔道具で亜麻色に。瞳はブレスレット型の魔道具で葡萄色になっている。


そんな二人の隣に無言で立って掲示板を眺めているアークエイドは、マルベリー色の前下がりボブに、ブレスレット型魔道具で瑠璃色の瞳をしている。
腰の左右にはブロードソードとワンドを佩いており、金属の軽鎧を着けていた。

「お待たせー。特に一の森で変わったことはないみたいだよー。」

そこへマリクが戻ってくる。

冒険者ギルドはお酒の提供こそないが、軽食やドリンクが食べれるスペースがあり、冒険者同士の情報交換の場になっていた。
冒険者から話を聞いてくるのは、警戒心は強くも物怖じしないマリクの担当だ。

マリクの装備は簡素で、最低限の急所を革鎧で守るのみである。

「じゃあ今日も行きますか。」

「おー!」

エラートとマリクの掛け声で今日の冒険も始まった。





王都から見て東北方向のナイトレイ地方に魔の森は存在している。
地方同士の境をぐるっと“C”型に山が連なり、王都に向かって開口している。

その中には纏めて魔の森と呼ばれる3つの森があり、それぞれ一の森、二の森、三の森と呼ばれ、数が増えるごとに瘴気が濃くなる。そのため出てくる魔物の強さも違った。
森同士が繋がってしまわないのかと思うが、T字で区切るようにそれなりの幅がある川で区切られている。

森一つ一つもそれなりの広さがあり高低差の激しい場所もあるため、まずは簡単に作られた道沿いにキャンプポイントを見つけ、そこを中心に目印を残しながら周囲を探索することになる。
木々に囲まれていると似たような景色になるので、遭難防止のためだ。

アシェル達も入り組んだ道を進み、一の森の中腹をキャンプ地にすることにした。

『ストレージ』から目印にするための真っ赤なスカーフを取り出し、道から見やすい木の枝に括り付けておく。

「アシェの今日の獲物は?」

「んー、できたらフォレストベアの内臓が欲しいんだよね。と思って、ここをキャンプ地にしてもらったんだ。」

「なるほど。」

エラートの質問に答えながら、括り付けたスカーフに魔道ランプをひっかけ、魔石をスロットにはめてスイッチを入れる。
魔力を通す代わりに、魔石が電池の代わりになるのだ。

冒険者ギルドを出てからこのポイントまで、徒歩で2時間近くかかっていた。
一の森の中のキャンプ地としてはそれなりに奥地となる。
これ以上奥にキャンプ地を設定してしまうと、大型の魔物に囲まれる恐れがあるからだ。

ここにくるまでにゴブリンとフォレストウルフを何体か討伐済みだった。
ゴブリンは討伐証明の右耳と魔石だけ回収して燃やし、フォレストウルフはそのままストレージに放り込んでいる。

本来であればその場で解体して魔石と毛皮と牙を回収することで荷物を減らす。
しかしアシェル達のパーティーは全員ストレージを使うことができるので、大体はそのままストレージにいれてしまう。

野営予定の時は陽が沈む前にキャンプ地で簡単に結界を張って、その中で処理をすることで、明るいうちは可能な限り討伐や採取を行っているのだ。

「じゃあもう少し山を登るか。」

「確かこのあたりって、魔素の溜まりやすい洞穴あったよねー。」

アークエイドの言葉を引き継ぐようにマリクが喋る。

「じゃあそこを目標に移動しようぜ。」

エラートの言葉に全員頷き、移動を開始した。




アシェル達の戦闘は基本的に、物理的高火力でサクッと終わらせる。
終わらせるというよりは終わってしまう。

敵が少なく弱ければ、エラートとマリク、アークエイドの三人の剣と爪で首か急所狙いで終わる。
ラビット系やたまに見かける虫系がこれに当たる。

群れて多い場合はエラートが盾で防御しつつ敵を引き付けながら、その横から二人が殴る。
大体群れてるのはウルフ系で、時たまゴブリンだ。

そして今回のようにベアやオークなどの大型で硬い敵は、アシェルがバフをかけ、エラートが防御し、マリクとアークエイドが殴る。
少し時間がかかる戦闘となる。



「そこの洞窟に一体、何かいる。他の気配はないよ。」

抑えた声でアシェルが告げれば、それにマリクが答える。

「臭いからしてフォレストベアで当たりだよー。こっちが風下だから気づかれてないと思う。」

「一旦焼く。」

「ok。じゃあ出てきたら俺が引き受けるからよろしく。」

簡単に作戦を立て、アークエイドがワンドを構える。

「燃え盛る炎よ『フレイムボール』。」

アークエイドの詠唱に合わせて炎の玉が5つ浮かび上がり、洞窟を目掛けて飛んで行った。

「エトに『攻撃力向上アタック』。『防御力向上プロテクト』。」

その隣でエラートにバフをかける。かけ終わると同時にエラートは駆け出した。
無詠唱でも出来るのだが、誰に何をかけたのか分かるように一節詠唱している。

「アシェ、俺はクイックも頂戴。暴れたい。」

「マリクに『攻撃力向上アタック』。『防御力向上プロテクト』。『速度向上クイック』。」

アシェルが唱え終わると、マリクは既にいなかった。
クイックは慣れていないと身体の動きと感覚が噛み合わないので、希望がある場合にしか使わないバフだ。

今度はアークエイドにバフをかける。

「アークに『攻撃力向上アタック』。『防御力向上プロテクト』。」

詠唱を聞きながら、アークエイドも走り出していた。

無事フレイムボールが着弾した洞穴からは、グオォォォ!という雄たけびと共に煤けたフォレストベアが出てきた。

直接当てた訳ではないのでダメージは無く、燻り出された形だ。

フォレストベアの右手での殴りを、エラートのラウンドシールドが受け止める。

更に左手が殴るモーションになるが、そちらはアークエイドが剣で防いだ。
フォレストベアのかぎ爪と刃が交わり、キンと甲高い音がする。

その間にフォレストベアの背後にまわったマリクが首を狙い、切り付けた後すぐに離脱する。
それに合わせて腕を抑えていた二人も下がり、フォレストベアから距離をとった。

少し血飛沫が飛んだが致命傷にはならなかったようだ。

「もーかったいなー。」

少しは痛みを感じたのか、フォレストベアが再度雄たけびをあげた。
空を見上げるような雄たけびに合わせて、アシェルが弓を射る。
狙いは柔らかい目だ。

ビュンッと風切り音と共に放たれた矢が、左目に吸い込まれるように刺さった。

苦悶の声を上げながら腕を振り回すフォレストベアが落ち着くのを待ち、再度突撃する。

先程のようにエラート達が腕を抑え、マリクが背後から首を狙う。

それを数度繰り返し、頸動脈を捕らえたのだろう。
多量の血を流しながらも腕を振り回ししばらくは抵抗していたが、ようやく倒すことができた。

「お疲れ様。」

「うへぇ……血まみれぇー。」

フォレストベアの背後から首を掻き切ったので、前面に立っていた三人に影響はなかったが、マリクだけ頭からべったりとフォレストベアの血に塗れていた。

とぼとぼ歩いてくるマリクに「『清浄化クリーン』。」と唱えてやれば、あっという間に血まみれになる前のマリクに元通りだ。

「皆怪我はない?」

「俺は大丈夫。」

「俺もだ。」

皆の無事を確認して、フォレストベアの亡骸を『ストレージ』に収納する。

「あとは枝集めながら帰ろうか。ついでに食材も。」

本日のメインディッシュはベア肉だ。
瘴気をクリーンで浄化してやれば、少し癖はあるが美味しく食べることができる。

アシェル達は道中の敵を屠りつつ薪にする枝を集め。森の恵みと薬草採取をしながら、のんびりキャンプ地に戻った。






赤いスカーフと魔道ランプをぶら下げた場所まで戻ってきた。

『ストレージ』から魔術スクロールを取り出す。

これは自分達で呪文を唱えたりする魔法とは違い、既に用紙に魔法の術式が記されている。
汎用性はないが同じ効果を魔法で唱えるより少ない魔力量で効果を発揮するので、一般市民でもお手軽に使いやすいものだ。

取り出したスクロールは“結界”を張るものだ。
キャンプ地では食事を作ったり、必要ならば解体も行うため、結界を張らないと臭いと音で周囲の魔物が集まってしまう。

結界のスクロールは籠めた魔力量で維持できる時間が変わるが、そのあたりはアシェル達は魔力が十分にあるので、十分量注ぐのは問題ない。
どちらにしても近くまで来た魔物が結界の外で出待ち、ということもあるので、夜間の見張りは必要だ。

結界のスクロールの四隅に描かれている図形を4箇所地面に刻み、その上に魔石を置く。
アシェル達はゴブリンから採れたクズ魔石を使っているが、魔力が足りないのなら魔石のグレードを上げることで注ぐ魔力量を補うこともできる。
起動のための僅かな魔力は必要だが、魔石で不足分を補うことが出来るのも術式スクロールの利点だろう。

スクロールに魔力を注ぐのは、身体強化以外に魔力を使わないエラートが担当だ。

「結界できたぞ。」

その言葉を合図にそれぞれ『ストレージ』から、ロープと共に討伐したウルフやラビット、ベアを取り出していく。

エラートとマリクでそれぞれにロープをかけ、木に吊るして血抜きをする。
アークエイドは魔法担当だ。

基本的に首を落としただけの傷の少ない毛皮は高く買い取ってもらえるので、このタイミングで水魔法を使って洗っておく。
クリーンだけでもいいのだが小さな虫などがついていると取れないため、流水で流した方が良いと習った。

ラビットとベアは食べられるので、クリーンをかけ瘴気を取り除いておく。

その間にアシェルは『ストレージ』から野営の準備に必要なものを取り出していく。

簡易かまど、焚き火台と上に網、折り畳みテーブルに折り畳みチェア。
あとは調理道具。

(絶対、ぜったいに過去の授け子にキャンパーがいたんだよ。)

そのキャンプ道具と思われるかまどと焚き火台に拾っておいた薪を乗せて、魔法で『火』をつける。

魔法は詠唱や魔法名を唱えることで威力や安定性が増すのだが、詠唱はしなくても想像力に魔力を乗せる事でも発動できる。
いわゆる無詠唱というやつだ。

どんな魔法でも無詠唱にすることはできるのだが、アシェルはバフをかける時は必ず口にするようにしている。
何をかけたのか明確にするためと、魔力の消費を抑えるためだ。
やはり詠唱があった方が、魔力の消費量的には少なくなる。

ゆらゆらと燃え上がる炎の火加減を調整して、かまどの上に鍋を乗せる。

水魔法で出した『水』を満たし。カットした野菜と邸の庭で採取しておいたハーブ、採取したキノコを入れて煮込み始める。

「ラビットは一口大でいいか?」

エラートが血抜きの終わったホーンラビットの解体を終えたようで生肉を持ってくる。

「うん。スープに入れるからそれで。」

ラビット肉はとても柔らかいし臭みも少ないので、スープに入れると良い出汁も出て美味しくなる。

野菜とハーブのスープにラビット肉も入れて、じっくりことこと煮込んでいる間に、アシェルも解体作業に参加する。

ダガーを滑らせながら、フォレストウルフの皮と肉を剥がしていく。
皮や牙、魔石は売れるが肉には使い道がないので、土魔法で掘られた穴に放り込んでいく。
最終的に不要部分は焼却してしまうのだ。

時折鍋をかき混ぜながら、フォレストウルフを一体解体し終えたところで、アークエイドから声がかかった。

「もうフォレストベアもいけると思うぞ。」

「ありがと。」

フォレストベアの巨体は4人全員で取り掛かる。
それぞれダガーを滑らせながら皮を剥ぎ、内臓を取り出し、肉をブロックに分けていく。

魔石と内臓を取り出すのはアシェルが行い、無事目的の胆嚢を回収し瓶詰にする。
必要部位を取り出したあとは三人にお任せだ。

自身に『クリーン』をかけたあと、程よく煮込まれた鍋をかき混ぜ。ブロック分けされたベアの肉から食べやすそうな部位を選び、少し分厚く切り分けていく。

シンプルに塩胡椒を振って、焚き火台の網に乗せて焼く。
ベアステーキだ。

「よいしょ、後片付け終わりー。良い匂い~。」

「腹減った。」

「『クリーン』、『クリーン』、『クリーン』。」

マリクが不要物を焼却して穴を埋めてくれたようだ。
アークエイドが全員分クリーンをかけている。

「エト、いい加減クリーンくらい自分でかけたら?」

苦笑しながら言うと、少し拗ねたような声が返ってくる。

「んー練習してるんだけど、どうも背中側とか綺麗にしきれないところができちまうからさ。人にかける分には上達したと思うんだけど。」

イメージしきれていないんだな、とその場にいる全員が思った。

根っからの脳筋なエラートらしいが、だからこそ未だに最低限しか魔法を使えないのである。
膨大な魔力の持ち腐れだ。

「まぁいいや。ほら、ご飯できたよ。」

それぞれ焚き火台を囲むように折り畳み椅子に腰掛ける。
ボウルにスープを注ぎ手渡していく。

ステーキの方は、各自網の上で適当に切り分けつつ食べてもらうスタイルだ。
最低限の火入れは済ませているので、焼き加減もお好みで食べてもらう。

「お湯も沸けたね。紅茶と珈琲どっち?」

「珈琲。」

「紅茶。」

「紅茶ー。」

マグカップにそれぞれ希望した飲み物を用意し、椅子についているドリンクホルダーに置いていく。

「じゃあ、食べようか。いただきます。」

「「「いただきます。」」」

しっかり両手を合わせてから食事を開始する。
邸でご飯を食べる時に手を合わせることはない。いただきますと言うだけだが、冒険者達は両手を合わせてからいただきますという。
この辺りも、誰か授け子がやりだしたのだろうか、なんて思ってしまう。

「それにしても、アシェの料理は美味いよな。最初は手際の良さに驚いたけど。」

錬金で薬草を刻むことがあるし料理に似てるよねと誤魔化したが、この手際の良さも味付けの勘も前世の記憶によるものだ。

「ほんと、おかーさんみたいだよね。」

はふはふとステーキを頬張りながら前衛二人が言う。
アークエイドはいつも静かに食事を楽しむので滅多なことがない限り会話に参加してこないが、その表情は穏やかだ。

「そう?でもどっちも材料入れて煮込んだだけとか、焼いただけなんだけど。」

料理らしい料理はしていないはずである。

「多分料理上手だったら、ステーキにかけるソースとか作っちゃうよ。」

冗談めかして言えばアハハと笑い声が溢れる。

のんびりご飯を食べ、焚き火台の灯が消えないうちに獲物を吊るさなかった木にタープを張り簡単な屋根にする。
床の代わりにはウルフの毛皮を二枚。

二人ずつ見張りと、タープの下で木に持たれながら仮眠をとるグループに分かれるのだ。
順番に組み合わせは変わるのだが、アシェルだけはいつも後からの寝ずの番担当になっている。
理由は朝ご飯を作るからだ。

「今日は俺とアークが先の見張り番だな。」

「ゆっくり休んでくれ。」

エラートとアークエイドはそう言うと、ランプをもって周囲を見回りにいく。

簡単に周囲を見たあとは焚き火台の火が消えないように火の番をしつつ、交代時間まで待機するのだ。

「ねーアシェ、獣化してもいい?」

「いいよ。」

「ありがとー。」

マリクは眠るときは狼の姿で寝たがる。
一応こちらに背は向けているものの、ポイポイ脱がれていく洋服を拾い集め畳んでやる。
畳んだ洋服を折り畳みテーブルの上に置くころには、立派な青灰色の毛並みの狼が毛皮の上を陣取っていた。

尻尾はばふんばふん揺れている。

「アシェー、早く寝よー。」

獣化しても声が変わるわけではないので慣れるまでは少し違和感があったが、今ではすんなり受け入れる事が出来ている。

「お邪魔するね。」

「どうぞー。」

マリクの狼の胴体に身体を預けるように座ると、尻尾と頭が巻きついてきて毛皮にすっぽり包まれる。
マリクとペアになった人だけのもふもふ特権だ。

おやすみ、そういって瞼を閉じる。

落ちる意識の中でエラートとアークエイドの戻ってきた足音が聞こえた。
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